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57話 クリスの心配

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洞窟を抜けた先には立派な都市が拡がっていた。
僕たちは馬で町を横切り、中心に建つお城まで向かった。

お城まで到着すると、クリストファーがあれこれ指示を出している。
魔族はそれに従い、一礼をすると指示された内容を実行する為に早足で去って行く。


「とりあえず、長旅でお疲れでしょう、湯を用意させましたので、先に疲れを癒してください。今部屋も用意させていますので、後でご案内しますね。」

クリストファーがそう言ってお風呂に案内してくれた。

「シアはこっちを使って、服は僕のでいい? 」

「うん、ありがとう。」

女風呂に案内してもらって礼を言うと、クリストファーは持っていた服を棚に置いてくれる。

「・・・ねぇ、シア、シアはさっき一緒にいたクラウス様と付き合ってるの? 」

「え? 何で? 」

突然のクリストファーの質問に戸惑う。

「なんか仲良さそうだったから、それに、さっきカルロス様がお前はクラウス様の物だって言ってたし・・・」

そうか、そんなこと言ってたな、カルロス様は僕がクラウス様の恋人だと思ってるからな。

「恋人じゃないよ、クラウス様は僕がカルロス様に襲われないよう、恋人のフリをしてくれてるんだよ。」

「ふーん・・・クラウス様はとても素敵な人だと思ったけど、シアは恋人ごっこしてて何とも思わないの? 」

「え? 」

なんとも思わないとは?

「どういう事? 」

「・・・レティシア、相変わらず自分の事には鈍感だね。」

クリストファーに呆れたようにそう言われてムッと顔を膨らませる。

「鈍感? 僕が? なんで? 」

「分かってないこと自体が鈍感だって言ってるんだよ、クラウス様も可哀想だね。」

クリストファー・・・いつからこんなに毒舌になったんだ。
昔は可愛くて、僕の言うことをにこにこと聞いてくれてたのに・・・

「シアはクラウス様の事は好きじゃないの? 」

「え? 好きだよ? 」

僕が即答すると、クリストファーは大きなため息をつく。

「ごめん、質問の仕方を変える。シアはクラウス様を恋愛対象として好きなの? 」

そう言われて、クリストファーが何が言いたいのか理解した。

 クラウス様はとても頼りになる人で、とても素敵だから、抱きしめられるとドキドキするよ? でも・・・クラウス様は頼りになるお兄さんみたいに思ってた。
僕はギルが好きだし、クラウス様を好きな気持ちとギルへの気持ちは少し違う。
でも、何が違うって言葉に出来ない。

クリストファーはまだクラウス様に会ったばかりなのに、クラウス様の事を分かったふうに話す。
なんで?

「なんでそんなこと聞くの? 」

「ごめん、困らせるつもりは無いけど、レティシアの気持ちが聞きたかったんだ。」

僕の気持ち?

「カルロス様の事は好きじゃないってのはすぐに分かったけど、クラウス様の事はよく分からなかったから、僕の双子の姉を任せられる人かのかなって思っただけだよ、ごめんね、ゆっくりしてて。」


そう言うとクリストファーは出て行った。
僕は用意されたお風呂に一人入った。
とても大きな、何人も入れそうなお風呂はとても気持ちよくて、これまでの疲れが一気に吹き飛ぶような感覚になる。

・・・クリストファーに会えた。やっぱり生きていてくれた。嬉しい。
でも、クリストファーは随分変わっていた。
ハキハキと喋るようになっているし、何事にも動じない。
姿はともかくとして、中身は男らしくなっていて、8年・・・9年の月日の長さを感じた。
それにしても、僕の恋の心配? してたけど、そういう所は昔と変わらないな。
僕の恋人は自分が認めた人じゃないと嫌だって言ってたっけ?
・・・クラウス様が男女な僕を好きになんてなるわけないのに・・・。


しばらくしてお風呂から上がって体を拭きながらクリストファーが用意してくれた服を見ると・・・ドレスじゃん! 
自分の服って言ってなかったか?

あいつ、自分は男だって堂々と言ってたのに、どんな生き方してきたんだ?

僕はドレスを見ながしばらく考える。
僕は女だってみんな知ってるからこっちを着る方が自然なのかな・・・でも、この髪じゃ似合わないよね・・・

僕は鏡に映る短い髪の自分を見て、どう見ても男にしか見えないと諦め、自分の荷物から服を取りだした。

いつもの服を着てこっちの方がしっくりくると思ってしまう。
クリストファーが見つかったんだから、僕は女に戻らないといけないんだけど、戻れるかな、こんなガサツな女いないよな、いっその事、クリストファーに女性として生きてもらった方が綺麗だ。

そんな事を思っていると、廊下で何かが倒れる音が聞こえた。
僕は何事かと思って、扉を開けて外を確認する。

少し離れたところに倒れた人がいて、その人をクリストファーが助け起こそうとしている。

「だから、そんなに慌てると転ぶって言ったでしょ? 大丈夫、慌てなくても逃げないよ。」

クリストファーが優しく話しかけるその人の姿を見た刹那、僕は駆け出していた。


「・・・・・・・・・っっっ!! ・・・ギルっ!」








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