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46話 雨と涙 (ギルバート)
しおりを挟む旅が始まってから、俺はクリスにしてやりたいと思う事は遠慮なくすると決めていた。
クリスも俺に触れられてもなんとも思ってないし、クラウス様にも気を使わない。
三日目の晩にふと目が覚めると、クリスが小さい体をさらに小さくして震えているのに気が付いた。
あいつ・・・怖いのに無理してるな・・・
そう思った俺はクリスを抱きしめて座ると、そのまま朝までクリスを独り占めした。
俺の腕の中で安心して眠るクリスを眺めていると、クラウス様が目覚めた。
俺の腕の中にいるクリスを見て状況を判断したのか、「代わりなさい」と言ってきたので、「嫌です、これは譲れません」と答えた。
譲ってたまるか。
クリスが目覚めた時、顔を赤らめている気がしたが、この状況が恥ずかしかったんだろう。
それからはクリスもいつも通りだった。
夕方、雨が降り始めた頃にちょうどいい場所を見つけて、安全を確認するためにクラウス様が奥を確認しに行ってくれた。
その間、俺とクリスは次第に強くなる雨足を見ながら本格的に振りだす前にここを見つけられてよかったと思った。
ふと見られている気がしてクリスを見ると、クリスは俺から顔を逸らした。
今の反応はなんだ?
不思議に思っていると、クリスが突然雨の中に走り出した。
俺は何が起こったのか分からず慌ててクリスを追って飛び出す。
全速力で走るクリスに追い付きながら何があったのか聞くと
「アイツだ!! クリスを連れてった奴! 」
あいつって言うのはクリスの姉を連れてった奴だろう。クリスは気が動転してるのか、クリスを連れてった奴と言っているが、この取り乱しよう、間違いない。
「クリス!! 落ち着け!! これ以上離れちゃダメだ!! 」
俺はクリスの腕を掴んで引き止めた。
この土砂降りの中、闇雲に走ったら自分の居場所を見失う。
それに、今はクラウス様と離れている。クラウス様の元に戻れなくなると大変だ。
「ギル!! 離して!! 見失っちゃう!! 」
「ダメだ!! クラウス様とはぐれてしまう。あいつはのこの辺にいるのは分かった。一度戻ろう! 」
「嫌だ!! 二度と会えないかもしれない! 」
クリスはそう言って俺を無理やり振り払おうとする。
力で俺に叶うはずもないのに・・・
クリスの気持ちも分かる。
だけど、今のクリスは冷静さを見失っている。
俺はクリスを逃がさないよう、強く抱き締めた。
「ギル・・・ 離して!! 」
「ダメだ、離さない。もう見えない、追っても無駄だ。」
見えなくなった魔物の向かった先を見つめて、無駄だと悟ったのか、暴れることを辞めたクリスを、俺は抱き上げて木の下まで移動して降ろしてやる。
大きな木の下は雨が幾分かマシだ。
「せっかく見つけたのに・・・」
俺を見上げて訴えるクリスの目には涙が浮かんでいた。
冷たい雨に打たれてずぶ濡れのクリスに、心が痛む。
「すまない・・・でも、今追うのは危険だ。」
そう言いながら、雨に濡れたクリスの顔をそっと拭う。
「今は雨がひどい、しばらくここで落ち着くのを待ってから洞窟へ戻ろう。クラウス様が心配する。」
「うん・・・ギル、ごめん・・・」
少し落ち着きを取り戻したのか、俺に謝罪をするクリス。
「いや、クリスがずっと探してた手がかりを見つけたんだ、当然だよ。」
クリスは追いかけたかっただろう。
だけど、俺には行方不明の姉よりクリスが優先なんだ。
クリスに危険な事はさせられない。
そんな自分勝手なことを思って恥ずかしくなるのを、雨を見ながら誤魔化していると不意に、
「・・・ギルに思われてる人は幸せだね。」
クリスが発した言葉に、思わずクリスを見つめてしまう。
今なんて言ったんだ?
今の言葉・・・羨ましいと聞こえた気がしたけど、気のせいだよな・・・
「ん? どうしたの? 」
俺が固まっていると、クリスがにっこりと笑う。
その頬を涙が伝った。
涙?
俺はクリスの頬の涙を拭うように右手で優しく触れた。
クリスは俺に別に好きな奴がいると思っている。
ひょっとしてそいつにヤキモチを焼いたのか?
そう思った瞬間、俺はクリスにキスしていた。
柔らかく触れたその唇にクリスを感じて、めちゃくちゃにしたい衝動を抑えながら、クリスからゆっくりと離れる。
「ギ、ギル?? 」
クリスの顔が焦りながら真っ赤になる。
「俺は、ずっと前からクリス、お前が好きだ。男だって関係ない。愛してる。」
俺は想いを伝えてしまった。
俺の告白に、クリスは一瞬目を大きく見開いた後、困惑して困った顔をした。
まさか自分を好きだとはこれっぽっちも思っていなかったようだ。
「ぼ、僕は・・・・・・ごめんなさい・・・!」
クリスは俯いて俺の腕から離れると、土砂降りの雨の中に駆けて行ってしまった。
・・・・・・向かった方角は洞窟だ、大丈夫だろう・・・
・・・・・・俺は何をしてしまったんだ・・・
・・・俺はバカだ、大バカだ・・・
クリスの居なくなった場所を見つめてから、木を思いっ切り殴った。
自分を痛め付けることでしか、今の自分の行動を諌めることが出来なかった。
クリスに嫌われた。
男にキスされるの嫌がってたのは知ってたのに、してしまった。
俺は降りしきる雨の下へ出ると、しばらく立ち尽くして、流れる涙を雨の中に隠していた・・・
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