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42話 ギルの好きな人

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「いよいよ明日だね。」

僕は夕食を終えて部屋に戻ると、ギルに話しかけた。

「そうだな。」

ギルは窓のカーテンを締めながら答える。
幽霊騒ぎで僕が取り乱して以降、カーテンを閉めるのはギルの仕事になった。
あれはカルロス様の密偵だったと聞いてほっとしたけど、やっぱり暗くなってからの窓が怖くて近ずけなくなってしまった。

僕達は明日から15日間の長期休暇を利用して、クリスが消えた森の捜索に向う。


「明日の準備出来てるのか? 」

ギルが確認するように話しかける。

「うん、ギルは? 」

「今からだ。明日は早く出発するから先に寝てろよ。」

そう言いながらクローゼットに向かう。

「うん・・・ギル、付き合わせてごめんね。」

ギルは別に僕に付き合う必要ないのに、本当だったら長期休暇は自分の家に久しぶりに帰りたかったんじゃないだろうか?

そう思いながらギルを見ると、呆れた顔で僕を見ていた。

「今更何言ってんだよ、俺達二人で決めた事だろ? 」

「うん・・・でも、ギルは危険を冒してまで森へ入る事ないのに、僕に付き合ってくれてるんだよね・・・もしギルになんかあったら僕・・・」

ギルはいつも僕のしたい事を手伝ってくれるけど、ギルがしたいことは無いんだろうか?
ギルが怪我をしたらどうする?

「バカだな、俺がそうしたいと思ったから一緒に行くんだよ。」

ギルはそう言いながらベッドに腰掛ける僕の頭を撫でる。

「それに、クラウス様も一緒に来てくれるんだろ? 俺達は自分の意思でクリスと一緒に行くんだ。それを不安に思うことは無い。お前は一人じゃない、俺も、クラウス様も付いてるから安心しろ。」

ギルに微笑みながらそう言われるとほっとする。
そうだ、クラウス様も来てくれる。

クラウス様は僕が女の子だって知ってるから、同行して貰えたのは助かる。

・・・ギルには僕が男だって嘘をついたままだけど・・・話した方がいいかな・・・
でも、僕が女だって知ったら、今までみたいに接してくれなくなるかもしれない。
嫌われるかもしれない。
そう思うと、怖くて言えない。

ギルに避けられるのは嫌だ、嫌われたくない。


「クリスは・・・クラウス様の事をどう思ってるんだ? 」

「え? 」

突然なんの質問だろう?

「クラウス様は凄い人だと思うよ、尊敬してる。」

「いや、そうじゃなくて、恋愛対象としてどう思ってるのか? って聞いたんだ。」

ええ? 恋愛対象? どういう事?
まさかギルも僕が女の子だって知ってるの?

「ギル、クラウス様は男だよ? 僕も男なんだけど・・・? 」

「分かってるよ、男とか女とか関係なくお前はクラウス様の事が好きなのか? 」

ギルは何でこんな事を聞くんだろう?
僕がクラウス様を好き?
そんな事考えたこともなかったけど・・・

クラウス様は僕が女だって知ってても変わらずクリスとして接してくれている。
すごく優しくて、顔ははっきり言ってめちゃくちゃ好みで、優しく見つめられると照れるんだけど、僕は男として生きてるんだから、そういう風に考えたことが無い。

そんなこと言うと、ギルも優しくて面倒見よくて、顔もイケメンだし、女の子からモテるタイプだと思うんだけど・・・いやいや、ギルをそんなふうに見た事ないよ?

でも、どっちも僕には大切な人だ。

「僕はクラウス様もギルも好きだよ。」

「五分五分か・・・」

僕の言葉に、ギルがボソリと呟く。
五分五分? 何が?

「そんな事より、ギルは好きな人はいないの? 」

ずっと一緒に居るけどそんな話をしたことは無かった。
まぁ、野郎ばっかの中に居るんだから好きな人なんてなかなか見つけられないと思うけど。

「・・・居るよ。」

質問したのは僕なのに、ギルの返事にびっくりする。

「え? 今なんて言った? 」

「好きな奴、居るよ。」

ギルが僕を見つめて言い直す。

「そうなんだ、好きな子居たんだ、どこの子? この前のパーティーで出会った子? 」

僕は思わず根掘り葉掘り聞いてしまう。
だって、僕の知らないギルがいた事にちょっとモヤモヤするから。
・・・ん? モヤモヤ? 何これ?

「違う」

短く答えるギル。
この前のパーティーで出会った人じゃないとすると・・・何処でそんな人見つけたんだろう?
ああ、そうか、実は田舎に彼女を置いてきてるとか?
ギルならありそうだな。
あれ? だったら長期休暇は田舎に帰りたいんじゃないのかな?

「ギル、長期休暇家に帰らなくて大丈夫なの? 」

僕の心配を、ギルはため息で返す。

「何でそうなるんだ? 」

「え? 田舎に好きな人がいるのかと・・・」

僕が言い終わらないうちに、僕はギルに肩を押されてベッドに押し倒されていた。

「え? 」

ギルが僕の上に覆い被さるようにして片手をつく、もう片方の手は僕の頭の下にある。
押し倒されても頭を打たなかったのはギルが頭を守ってくれてたからか、で、何でこの状況?

「田舎に好きな奴なんて居ない。俺はお前と一緒に居たいんだ。」

ギルが上から僕を見つめる。
ギルの綺麗な顔が近い。

「え? じゃあ、何処にいるの? 」

田舎じゃないとしたら王都?
何処で出会ったんだろう?

不思議に思いながら、僕をじっと見つめるギルを見ると、金色色の瞳が不安と憂いの色を映しているようで、何だか苦しそうな表情をしているように見える。

「ギル? 」

「・・・教えてやらない。」

そう言うと、僕の肩に顔を埋めるように顔を近ずけた後、耳元で囁くように、

「気付け、バカ。」

そう言ってから顔を上げると、そのまま僕から離れていった。






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