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38話 動揺

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「よう、クラウス、女連れとは珍しいな。」

そんなことを思ってたら来てしまった。
クラウス様がそっと僕を背中に隠してくれる。

「兄上こそ、相変わらず両手に美しい花を携えていらっしゃる。」

「俺はいつもと変わりない。クラウスがいつもと違うから他の女性方がガッカリしてるじゃないか、そちらの女性は? 」

カルロス様が僕の事を気に止める。
僕の事なんて気にしないでクラウス様とお話してくれたらいいのに!

「ああ、彼女は私の恋人のシアです。恥ずかしがり屋なのであまりジロジロ見ないで頂けますか? 」

クラウス様が上手く僕の事を紹介してくれる。

「クラウスに恋人? 初耳だな、シア嬢、クラウスの兄だ、よろしく。」

カルロス様はそう言うと手を差し出してくる。
でも、僕にはその手に触れるなんて無理だ。

「あ、あの、よろしくお願い致します。」

僕は上ずった声でクラウス様の腕にしがみつきながら俯いて挨拶をした。

「本当に恥ずかしがり屋なようだな。」

カルロス様が出した手を引っ込めながらクラウス様に話しかける。

その後、カルロス様は世間話を初めてしまったので、僕はクラウス様の背中に隠れてたんだけど、カルロス様の声がだんだん怖くなって、カタカタと震えが止まらなくなってしまった。
耐えられなくなってクラウス様の袖を引っ張る。

「シア、どうしたの? 」

僕に顔を近づけてくれたクラウス様にこっそりと話しかける。

「クラウス様、ごめんなさい、僕、化粧室に行ってます。」

そう言うと、カルロス様のいる方向に背を向けて逃げるように化粧室に向かった。



化粧室に入るとやっと呼吸が出来た気がした。
僕、カルロス様の事が怖くなってる。
近くにいると怖くて動けなくなりそうだった。

キスされた事、何ともないって思い込もうとしてたけど、僕の心は違ってたみたい。

カルロス様はずっとクラウス様と一緒なのかな、僕、クラウス様の恋人役で来たのにこんな所に居たら全然役に立てないよね・・・

この姿じゃ僕だってカルロス様も気が付かないよね?
大丈夫だよね?

僕は鏡に映る僕を見ながら落ち着こうと、深呼吸をする。

「貴方、クラウス様の何? 」

突然話しかけられて振り向くと、女性が5人、僕を囲んでいた。

「クラウス様の・・・恋人です。」

そういうことになってるんだよね?

「恋人? 本当かしら? 貴方俯いてばかりで全然クラウス様の事も見ないし、はっきり言ってクラウス様に似合わない、お荷物のようにしか見えないわ。」

一人の女性にはっきりと言われて、今までの自分を振り返る。
そうだ、僕ここに来てから恥ずかしく俯いてばかりだった。
周りから見たらクラウス様は僕の保護者にしか見えなかったかな。

クラウス様に迷惑かけてしまった。
ちゃんとしないと。

「すみません、少し気分がすぐれなかったので・・・でも、もう大丈夫です。ご心配ありがとうございます。」

僕はそう言うと顔を上げて微笑んでみせた。

「な、私はそんな心配なんてしていないわよ! 」

僕が見つめると何故か頬を赤らめて否定する女性達。

「そうなの? 私はてっきり心配してくれたのかと思ったわ。調子も戻ったし、クラウス様が待ってるので失礼しますね。」

僕は綺麗な女性達に会釈をすると化粧室を出た。

出た所で、クラウス様がこっちを気にして見てくれてるのに気が付いて、早足でクラウス様の元へ急ぐ。
カルロス様の姿は見当たらないので、どこかへ行ったのかな?良かった。

「クラウス様、ごめんなさい。もう大丈夫です。」

僕はクラウス様の腕に自分の腕を絡めながらクラウス様を見上げて微笑んだ。

「シア、ごめんね、やっぱり兄上に会うのは怖かった? 震えていたけど・・・」

心配そうに僕を覗き込むクラウス様。

「大丈夫です。ちょっと怖いけど、今の僕はクリスに見えないですよね? 」


「クリス? 」

クラウス様とそんな話をしていると、前から僕を呼ぶ声が聞こえて慌てて声の方を見ると、カルロス様が僕をじっと見て立っていた。

「お前、クリスだろ? 顔がよく見えなかったからわからなかったけど、さっきから気になってたんだ。」

「兄上、なんの事ですか? 彼女はシアです。」

クラウス様が庇ってくれてるけど、カルロス様何でわかったんだろう?

「好きな奴の顔を見間違えるはずないだろう。さっきの笑顔、クリスだよな? 女装、びっくりするくらい綺麗だな。」

カルロス様に見つめられて怖くなって、思わずクラウス様の背中に隠れてしまう。

「兄上、気が付いてしまったならしょうがない、でも、今日クリスを連れてきたのは私に恋人がいる事をみんなに知ってもらう為です。」

「それで、クリスに女装させて恋人のふりをさせてるのか? 」

クラウス様の後ろからそっと覗くとじっと僕を見ている。
そんなに見ないで欲しい。

「女装させたのはみんなに私の恋人だと認識してもらう為ですけど、恋人のふりではなく、実際にクリスは私の恋人です。」

え? クラウス様何言ってるの?
僕がクラウス様の恋人?

「クラウスの恋人? 冗談だろ? お前にそんな趣味は無いはずだ。」

カルロス様はクラウス様の事を良く知ってるから、そりゃ信じないよね?

「兄上もそう思いますよね、でも、クリスの一生懸命さと可愛さに惹かれてしまったんだからしょうがないでしょ? 好きになってしまったら男でも関係ないですよ。それは兄上が一番分かっているのでは? 」

クラウス様はそう言って、後ろにいる僕の方を振り向くと、肩を抱き寄せておでこに顔を近づける。
っっ?! 今クラウス様の唇がおでこに当たった! キスされた?

「ク、クラウス様 ? 」

思わず赤面しながらクラウス様を見上げると、にっこり微笑んでいる。

「兄上、クリスは私のものなので手は出さないでください。」

そうか、クラウス様はカルロス様から僕を守ってくれるために嘘を言ってるんだ。

「嘘だろって言いたいけど、最近のクラウスの様子が変わったのはクリスのせいか・・・くそ、先越されたな。」

カルロス様はそう言うと僕を見る。

「クリス、クラウスに飽きたら俺のとこに来い、いつでも待ってるからな。」

嫌だ、絶対行きたくない。

「あ、それと兄上、クリスが女装してた事は黙っていて下さい。」

「わかった。こんな綺麗なクリス、他の奴には見せられないな。」

カルロス様はそう言うと行ってしまった。





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