29 / 88
29話 優しさ
しおりを挟むお腹の激痛に目を覚ますと、ギルの姿が目に入った。
そうか、僕カルロス様に助けられたんだよな。
ギルが来てくれて、ギルの大丈夫そうな顔を見たら安心して、そのまま気を失ってたんだ・・・
「ギル・・・大丈夫?」
あちこちに傷テープを貼った痛々しい顔が僕を見て微笑む。
「良かった、目が覚めたか、俺は大丈夫だ。」
そう言ってあまりの痛みに出る僕の冷や汗を拭ってくれる。
僕のベッドに腰掛けるギルの顔を見ると、横にクラウス様が居るのに気が付いた。
クラウス様もにっこり微笑んでいる。クラウス様はギルが呼んだんだろうか?
「クラウス様?」
「目が覚めて良かった。・・・痛いのか?」
僕のつらそうな顔を見てクラウス様が心配そうに聞いてくる。
「クラウス様、すみません。」
僕達がケンカしたことで、団長であるクラウス様に迷惑をかけてしまったんじゃないだろうか?
「クリスは謝ることない。ギルに大体の成り行きは聞いた。パーティー会場でもクリスは手を出していないんだろ? 非は明らかに相手にあるし、大勢でやり返すなんて、騎士としての誇りも何も無い奴を相手の団長も庇いはしない。」
クラウス様はそう言ってくれるけど、元々は僕が巻いたタネだ。
ギルも巻き込んでしまった。
「それでも、元々は僕があいつらに関わったのがいけないんです。」
そう言った後、ギルの痛そうな顔にそっと触れると、ギルがビクッと反応する。
「ギル、巻き込んでごめん。」
僕が謝ると、ギルが何故か泣きそうな顔をした。
「俺なんかどうなってもいい。それより、お前の綺麗な顔に傷でも残ったら・・・っ」
何故かギルは、言葉をつまらせながら自分の事よりも僕の心配をしてくれる。
「別に、傷が残ったって、ちょっとは男らしく見えていいくらいだよ。それより、ギルの男前な顔に傷がつく方が僕は嫌だな。」
僕が平気な顔をして笑うと、ギルが僕の顔をそっと包み込むように触る。
「そんな事言うな。」
そう言って、さらに泣きそうな顔をする。
「守ってやれなくてごめん。」
「何言ってるの? 僕男だよ? 守られる女の子じゃないんだから、守ってもらわなくても、自分でなんとかしないといけないんだ。これくらい何ともないよ。」
そう言うと、今度はクラウス様までもが泣きそうな顔で僕の頭を撫でる。
「クリス、私もとても心配したんだ。ギルの言うことも理解してやってくれ。」
「はい・・・、ギル、心配してくれてありがとう。僕はまだまだだね、もっと強くならなくちゃね。」
そう言うと、二人して「お前は充分強いから頑張らなくていい」と言われてしまった。
何かよほど心配させてしまったみたいだ。
「クラウス様、ギル、心配させてしまってごめんなさい。」
僕がとりあえず謝ると、二人して僕の頭を撫でてくれる。
「クリス、痛みは大丈夫か? 辛かったらこれを飲んどけ。」
ギルが痛み止めを出してくれたので、僕は飲むために起き上がった。
「痛っ、」
「大丈夫か?」
ギルがそっと背中を支えてくれる。
薬を受け取ると、クラウス様が水の入ったコップを差し出してくれる。
なんか病人みたい。
薬と水を飲むと、口の中が切れているせいか水が染みる。
痛みに顔を歪めると、心配そうに覗き込むので、大丈夫だと微笑んでみせる。
「痩せ我慢しなくていい、痛いなら痛いと言えよ。」
ギルがそう言ってくれるけど、痩せ我慢してるのには他に理由がある。
痛みよりも、二人の優しさに泣いてしまいそうなんだ。
どうして僕なんかにこんなに優しくしてくれるの?
今気を許すと、涙が溢れて止まらなくなる。そう思ったから無理に笑顔を作って平気そうな顔をする。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
そういった後、僕はクラウス様に優しく抱きしめられていた。
「ク、クラウス様? 」
焦る僕の背中を優しく撫でてくれる。
「クリス、痩せ我慢しなくていい、泣きたいなら泣けばいいんだよ。」
クラウス様の温もりと、優しく響く声に、感情が込み上げる。
「クラウス様、僕大丈夫だから、 そんなに優しくしないで! 」
僕はクラウス様から離れようとしたけど、離してくれない。
「何故? クリスに優しくしたいと思ったからしているんだ。」
ヤバい、涙が溢れる。
「今、ギルとクラウス様の優しさに泣きそうなの! それ以上優しくされると本当にダメになっちゃう。みんなの前で泣くなんて恥ずかしいんだ! だから離して! 」
本当の事を言ったのに、クラウス様の手が緩む所か、ギルまでもが反対から抱きしめる。
「泣きたいなら泣けばいい。俺達は笑わない。クリスの味方だ。」
味方・・・そう言われて張り詰めていたものが一気に崩れる。
僕は二人にしがみついて泣いた。
怖かったとか、痛かったとかじゃない。
二人の温かさに、涙が止まらなくなった。
しばらく泣いていたけど、ずっと二人は僕の背中を、頭を撫でてくれていた。
0
お気に入りに追加
940
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる