上 下
8 / 88

8話 クリスの理由(ギルバート)

しおりを挟む


あれから、隊の練習が早く終わる日はクリスに付き合って自主練をするようになった。

俺の剣技は自己流だ。実践を通して学んだから型通りの動きが出来なくて、めちゃくちゃなのに、

「僕の型通りの動きよりずっと効率的な動きをするので勉強になるよ。」

そう言って、俺から動きを学び取ろうと必死で打ち込んでくる。
俺も、クリスは動きが早いので全然油断なんてできない。オマケに、剣での攻撃の合間に、体術を入れてくるから油断出来ない。
本気でやってないとすぐに負けてしまうから、俺は俺で練習になる。

クリスが必死になってやってるから、俺も気が付かなかったけど、気がつけば辺りは暗くなっていた。

「クリス、そろそろ終わりにしよう。飯の時間が終わっちまう。」

「うん、あ、ギル!」

終わろうとした時、突然クリスが俺にタックルしてきた。

「うわっ!」

俺はタックルしてきたクリスを受け止めてそのまま倒れ込んだ。
その時すぐ横に何かがすごい音を立てて落ちる。

「なんだ?」

状況を確認しようと横を見ると、どうも外灯が倒れてきたようだ。
そういえば、さっき外灯にぶち当たったな・・・

「・・・俺達暴れすぎか?」

そう言ってからクリスを見ると、クリスは俺の腰あたりに乗ったまま身体を起こして落ちてきたものを見ていた。
俺は思わず受け止めたクリスの腰を片手で支えたままだ。

「マジか・・・」

呟いてから俺に向き直ると、クリスはにっこりと笑顔を見せて、上から俺を見下ろす。

「ギルに当たらなくてよかった。」

「おう、助かった・・・」

俺の心臓がドクンと跳ねる。
なんだ?このドキドキ、ヤバい。

「当たらなくて良かったけど、急に体当たりしてごめん、お尻と頭打ってない?大丈夫?」

クリスは起き上がった状態から、今度は俺の後頭部を撫でようと、覆いかぶさって近づいてくる。

俺はクリスの後頭部に回された手を慌てて握って頭から離してから顔を逸らした。

「だ、大丈夫だ。なんともない。ありがとう。」

なんだこの状況、俺の上にクリスがまたがって乗っていて、右手はクリスの細い腰を支えて、左手はクリスの右手を握っている。
心臓の音がヤバい!クリスに聞こえるんじゃないか?

「それより、どいてくれないと起き上がれない。」

「え?・・・あ、ごめんっ!」

目を合わせることが出来ずに訴えると、クリスも自分の状態が飲み込めてなかったのか、しばらく考えて自分の状態を理解したらしく、慌てて俺の上から降りる。

「ごめんっ!重かっただろ?」

「いや、全然重くないけど・・・」

こいつは男だ。可愛く見えるだけで中身は俺と同じだ。俺は女の子が好きなんだ!

「・・・なぁ、お前妹か姉ちゃん居ないの?」

そうだ、クリスがこんな綺麗な顔してるんだから姉妹がいれば絶対可愛いはずだ!

そう思ったのに、クリスの顔が急に曇る。あれ?なんか不味いこと言ったか?

「なんで?」

「いや、お前が綺麗な顔してるから、姉妹がいれば綺麗なんじゃないかと思っただけなんだけど・・・俺余計なこと聞いたか?」

俺の質問に、クリスはしばらく黙り込む。

「・・・双子の、僕とそっくりの姉がいたよ。」

ボソリと呟くように言う。
クリスは双子だったのか、しかもそっくりな姉だって?
ちょっとまて、今なんて言った?

「・・・いた?」

「8年前に・・・魔物につれ攫われた。僕の目の前で。」

絞り出すように、苦しそうに話すクリスに、何となくクリスが強くなりたい理由がわかった気がした。

「ごめん、辛いことを話させた。」

「いや、いいんだ。8年も経つからそろそろ忘れないといけないのに、僕には姉が生きているように思えてならないんだ。だから強くなって姉を探しに行きたい。その為に僕は強くならないといけないんだ。」

そう言って俺を強い眼差しで見るクリスはどこか儚げに見えて、強がっているように見えた。

「うん、お前はすごいな、俺に出来ることがあったら協力するよ。」

俺は思わず片手でクリスを抱き寄せていた。

「ギル・・・ありがとう。」


「さ、戻るか、飯の時間終わっちゃったかな・・・」

俺はクリスを解放すると何事もなかったように立ち上がって歩き出す。
赤くなった顔を見られないように・・・








    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

背高王女と偏頭痛皇子〜人質の王女ですが、男に間違えられて働かされてます〜

二階堂吉乃
恋愛
辺境の小国から人質の王女が帝国へと送られる。マリオン・クレイプ、25歳。高身長で結婚相手が見つからず、あまりにもドレスが似合わないため常に男物を着ていた。だが帝国に着いて早々、世話役のモロゾフ伯爵が倒れてしまう。代理のモック男爵は帝国語ができないマリオンを王子だと勘違いして、皇宮の外れの小屋に置いていく。マリオンは生きるために仕方なく働き始める。やがてヴィクター皇子の目に止まったマリオンは皇太子宮のドアマンになる。皇子の頭痛を癒したことからマリオンは寵臣となるが、様々な苦難が降りかかる。基本泣いてばかりの弱々ヒロインがやっとのことで大好きなヴィクター殿下と結ばれる甘いお話。全27話。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

処理中です...