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8話 クリスの理由(ギルバート)
しおりを挟むあれから、隊の練習が早く終わる日はクリスに付き合って自主練をするようになった。
俺の剣技は自己流だ。実践を通して学んだから型通りの動きが出来なくて、めちゃくちゃなのに、
「僕の型通りの動きよりずっと効率的な動きをするので勉強になるよ。」
そう言って、俺から動きを学び取ろうと必死で打ち込んでくる。
俺も、クリスは動きが早いので全然油断なんてできない。オマケに、剣での攻撃の合間に、体術を入れてくるから油断出来ない。
本気でやってないとすぐに負けてしまうから、俺は俺で練習になる。
クリスが必死になってやってるから、俺も気が付かなかったけど、気がつけば辺りは暗くなっていた。
「クリス、そろそろ終わりにしよう。飯の時間が終わっちまう。」
「うん、あ、ギル!」
終わろうとした時、突然クリスが俺にタックルしてきた。
「うわっ!」
俺はタックルしてきたクリスを受け止めてそのまま倒れ込んだ。
その時すぐ横に何かがすごい音を立てて落ちる。
「なんだ?」
状況を確認しようと横を見ると、どうも外灯が倒れてきたようだ。
そういえば、さっき外灯にぶち当たったな・・・
「・・・俺達暴れすぎか?」
そう言ってからクリスを見ると、クリスは俺の腰あたりに乗ったまま身体を起こして落ちてきたものを見ていた。
俺は思わず受け止めたクリスの腰を片手で支えたままだ。
「マジか・・・」
呟いてから俺に向き直ると、クリスはにっこりと笑顔を見せて、上から俺を見下ろす。
「ギルに当たらなくてよかった。」
「おう、助かった・・・」
俺の心臓がドクンと跳ねる。
なんだ?このドキドキ、ヤバい。
「当たらなくて良かったけど、急に体当たりしてごめん、お尻と頭打ってない?大丈夫?」
クリスは起き上がった状態から、今度は俺の後頭部を撫でようと、覆いかぶさって近づいてくる。
俺はクリスの後頭部に回された手を慌てて握って頭から離してから顔を逸らした。
「だ、大丈夫だ。なんともない。ありがとう。」
なんだこの状況、俺の上にクリスがまたがって乗っていて、右手はクリスの細い腰を支えて、左手はクリスの右手を握っている。
心臓の音がヤバい!クリスに聞こえるんじゃないか?
「それより、どいてくれないと起き上がれない。」
「え?・・・あ、ごめんっ!」
目を合わせることが出来ずに訴えると、クリスも自分の状態が飲み込めてなかったのか、しばらく考えて自分の状態を理解したらしく、慌てて俺の上から降りる。
「ごめんっ!重かっただろ?」
「いや、全然重くないけど・・・」
こいつは男だ。可愛く見えるだけで中身は俺と同じだ。俺は女の子が好きなんだ!
「・・・なぁ、お前妹か姉ちゃん居ないの?」
そうだ、クリスがこんな綺麗な顔してるんだから姉妹がいれば絶対可愛いはずだ!
そう思ったのに、クリスの顔が急に曇る。あれ?なんか不味いこと言ったか?
「なんで?」
「いや、お前が綺麗な顔してるから、姉妹がいれば綺麗なんじゃないかと思っただけなんだけど・・・俺余計なこと聞いたか?」
俺の質問に、クリスはしばらく黙り込む。
「・・・双子の、僕とそっくりの姉がいたよ。」
ボソリと呟くように言う。
クリスは双子だったのか、しかもそっくりな姉だって?
ちょっとまて、今なんて言った?
「・・・いた?」
「8年前に・・・魔物につれ攫われた。僕の目の前で。」
絞り出すように、苦しそうに話すクリスに、何となくクリスが強くなりたい理由がわかった気がした。
「ごめん、辛いことを話させた。」
「いや、いいんだ。8年も経つからそろそろ忘れないといけないのに、僕には姉が生きているように思えてならないんだ。だから強くなって姉を探しに行きたい。その為に僕は強くならないといけないんだ。」
そう言って俺を強い眼差しで見るクリスはどこか儚げに見えて、強がっているように見えた。
「うん、お前はすごいな、俺に出来ることがあったら協力するよ。」
俺は思わず片手でクリスを抱き寄せていた。
「ギル・・・ありがとう。」
「さ、戻るか、飯の時間終わっちゃったかな・・・」
俺はクリスを解放すると何事もなかったように立ち上がって歩き出す。
赤くなった顔を見られないように・・・
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