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52話 王城へ

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「では、行って参ります 」

あれからお嬢様とは何も無かったように二日が過ぎ、王都へ向けて旅立つ日になった。

「うん、気を付けてね 」

「お嬢様も無理しないようになさって下さいね 」

「分かってるわ 」

子供のように頬をふくらませて俺を見上げるお嬢様の姿に頬が緩む。

「お元気で 」

「何それ、最後のお別れみたいな言い方しないでよ、 帰って来てね? 」

あどけない表情から一転、捨てられた子犬のように不安そうな表情を見せるお嬢様。
正直、このまま帰って来ないつもりだった。
だけどレオルカ様が自分を信じろと言ったんだ、もう少しレオルカ様を信じてついて行ってもいいのかもしれないと思っている。
ダメな時は直ぐに去ればいい。今はそれくらいの気持ちでいる。

「大丈夫ですよ、ちゃんと戻ってきます。ここには私の愛するアイリーン様がいるんですから 」

「えっ? 今なんて・・・・・・? 」

「では、行って参ります 」

自然と言葉が出た。今言葉にして何故かとても吹っ切れた気持ちになった。
慌てて聞き返すお嬢様は無視してそのままレオルカ様の乗る馬車に乗り込んむ。
お嬢様を想うと自然と笑みが浮かぶ。



「本当はセルジュが居れば王都までの移動も直ぐなんだけど、今回はフェリス様から馬車で来るようにって指示だからね、恐らくセルジュの力は出来るだけ隠しておきたいんじゃないかな 」

「結構な人前で使ってしまいましたけどね 」

「あはは、そうだね、それよりも、なんだか吹っ切れたみたいだね、我が妹にちゃんと想いを伝えられたのかな? 」

「え? 」

突然の思いもよらない言葉に思わず動揺してしまった。

「なに? 俺が気付いてないと思ってた? 」

「・・・・・・レオルカ様はなんでもお見通しですね 」

「俺ってこう見えて結構周りに気を使って生きてきた人間だからね、人の感情の機微には鋭いよ、アイリーンの気持ちにいつ気が付くのかなとは思ってたけど、鈍いセルジュは自分の気持ちにも気付いてなかったからね、でもやっと前に進めそうかな? 」

笑って話すレオルカ様に思わず吊られて笑みがこぼれる。

「レオルカ様には敵いませんね、前に進めるかは分かりませんけど、なんか気持ちが楽になりました 」

今の俺には悩みをわかってくれる人がいる。
それだけで気持ちが楽になる。



そして無事王都にたどり着き、レオルカ様の爵位授与式の日になった。

「セルジュ、今日はこれを着ていくように 」

レオルカ様に呼び出されて部屋に行ってみると、礼服が俺様に用意されていた。

「え? 私がこれを着るんですか? 」

どう考えても従者が着るものじゃない。
俺は貴族ではないのだから着飾る必要も無いんだが・・・

「うん、陛下に謁見するのにバトラーの格好では私が恥をかくからこれを着て行ってね 」

レオルカ様にそう言われては着ない訳にはいかない。
と言うか、そもそも謁見ってなんだ?

「あの・・・・・・謁見とは? 私が国王陛下にお会いするのですか? 」

「うん、今日はセルジュも呼ばれてるから一緒に会う予定だよ 」

ニッコリ笑って話すレオルカ様。
そんな話聞いていなかったんだが・・・恐らくレオルカ様は敢えて言わないでおいて俺の反応を楽しんでるな・・・・・・

「分かりました。衣装、有難くお借り致します 」

陛下が俺になんの用かは分からないがまぁ、力の事だろうな、出て行けと言われるか、飼い慣らされるか・・・・・・だとしたら俺に軍部に着けとか言うんだろうか、まぁそれもいいかもしれない。
俺が役に立てるなら役に立ってやる。

「セルジュ、それはあげようと思って作ったものだからもう君のものだよ、さあ、用意して行くよ 」

「え? そうなんですか? ありがとうございます。直ぐに着替えてきます 」

レオルカ様の心遣いに感謝しつつ、すぐに着替えを済ませてレオルカ様の元に戻る。
レオルカ様も着替え終わっていていつも以上にかっこいい姿になっていた。
男の俺でも惚れそうになる姿に改めて何故レオルカ様にまだ婚約者がいないのか不思議に思う。
誰か想う方でも居るんだろうか?
そんな素振りは一度も見た事ないからそれは無いと思うけど、正式に爵位を継ぐわけだし、今からそんな話がゴロゴロ舞い込んでくるんだろうな。

なんて事を考えながら馬車に揺られ王城にたどり着いた。

「やぁ、久しぶりだね、元気にしてた? 」

俺たちが国王様のいらっしゃる王の間の前まで来ると、そこにフェリス様が待っていた。

「久しぶり、こっちは相変わらずだよ、フェリスこそ元気にしてた? 色々と忙しかったんじゃないかな? 」

「まぁね、レオルカからの無茶振りに対応するのは僕も慣れてるからね 」

「無茶振りだなんて、お願いを数点させて頂いただけですが、そんなに難しかったですか? 」

にこやかに話している二人だがなんか不穏な雰囲気だ、こんな所で辞めて欲しい。

「もちろん簡単だったよ、それよりもレオルカは少し痩せたね、事後処理で寝てないんじゃないの? 」

「私なら大丈夫だよ、セルジュも手伝ってくれたしね 」

そう言って俺を見るレオルカ様に吊られてフェリス様も俺を見て微笑む。

「そう、それなら良かった、じゃあ入ろうか 」

「ああ 」

そうして俺達三人は王の間へと足を踏み入れた。





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