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42話 俺の覚悟
しおりを挟むーーーーセルジュが魔力を解放した瞬間、ある場所ではーーー
「えっ! これは! ・・・・・・なんて事? ルル様が復活されたんだわ! 」
「そのようですね・・・・・・この魔力は確かに最強魔王のものです 」
「ああ、お迎えに上がらなくては、シリウス! ルル様が今何処にいるか見えて? 」
「魔力は分かりますが姿は見えません。恐らく、ルル様は転生によって復活されたのでは? 」
「なら、魔族領のどこかにいるのね? 」
「いいえ、魔力が飛んできた方向、距離から察するに、恐らく人間の国の方角だと思います 」
「人間の国に居るの? 探しに行かなくちゃ! 」
「ライングレス! 待ちなさい! 」
飛び立とうとするライングレスをシリウスが手を捕まえて止める。
「何? ルル様が生きてるってわかったのに、今度こそ守らなくちゃ! 」
「ええ、我々の知らぬ間にルル様は奴の汚い手に落ちました。最強と言われた魔王が呆気なく、ですが私達も四魔王の一角、ルル様の定められた人間の国との堺を侵してはならぬという言葉は守らなければなりません。でなければ汚いあ奴と同じになってしまう 」
「そうね・・・・・・今はとにかくルル様が生きてるって分かっただけでいいわ、会うための手は慎重に考えましょう 」
「それがいいですね 」
そんな会話が遥か遠く後で交わされていた頃、チェスターではーーーー
「・・・・・・っ! 凄い・・・・・・ 」
フェリス王子がたった今地響きと共に目の前に起きた光景を驚愕の眼差しで眺めていた。
フェリス王子が見つめる先、チェスターの街を囲む塀とグレイズ帝国軍との間に深く長い大地の裂け目が出来ていたのだ。
突然現れた底の見えない深い谷に、グレイズ帝国軍は足を止めその場に佇む他なかった。
だが、帝国軍には魔物が付いている。
翼を持つ魔物はその谷をものともせず飛び上がる。
「何処へ行く、お前達の国ははるか後方だ、不可侵の掟を忘れた訳ではあるまい? 忘れたと言うならば俺がお前達を処罰するまでだが・・・・・・俺に向かってくる覚悟はあるのか? 」
セルジュの恫喝に魔物は動きを止め、一瞬セルジュを見た後、身震いしながら翻し、そのまま遥か彼方に飛び去ってしまった。
軍の中にいた魔物も同様である。
セルジュの存在を認識した途端、魔物達は後退り、そのまま来た道を戻って行ってしまった。
その一部始終を空の上から見ていたのはセルジュに抱えられたフェリス王子だ。
「・・・・・・セルジュ、君はまさか・・・・・・ 」
何かを察したフェリス王子がセルジュを見ると、セルジュは口元は口角を上げて微笑みながら、瞼を落としてもの哀しげな表情で視線を逸らしていた。
「フェリス様、これでチェスターの街はしばらく安全です。一度戻ってフェリス様をチェスター城に送り届けた後、私は少し出掛けてきます 」
「今度は何をするつもりだ? 」
「ここにに居る兵を引かせます 」
「どうやって? 確かに、セルジュの力ならそれは可能かもしれない。だけどここを一人で戦場にするつもりか? 」
「いいえ、ここに居る兵は誰も殺しません。たとえ敵国であっても、伯爵様の仇であっても私が殺したとなるとお嬢様が悲しまれます。・・・ただ 唯一、一人だけ死んでいただく事になるかも知れませんが・・・・・・ 」
「それはどういう事? 」
「今は言えません 」
そう言いながらチェスター城へ向うセルジュは心の中で二度とここへは戻らない覚悟を決めていた。
人間には持ち得ない自分の力に、人は畏怖の念を抱くだろう。かつての自分がそうであったように、そんな自分はもう二度とお嬢様の元に戻ってはならない。
何よりも恐れているのは、お嬢様にそんな目で見られる事、そしてお嬢様の気持ちを踏み躙る事、自分の本当の正体を知って恐怖に震えるお嬢様を見たくはないからだ。
「・・・・・・セルジュ、必ず戻ってくるんだよ 」
フェリス王子の言葉に、セルジュは瞳を大きく開いてフェリス王子を見る。
「これでも一応人の上に立つ者だからね、僕は人の感情の機微には鋭い方だと思ってるよ 」
そう言ってクスリと笑ったフェリス王子からまた目を背けるセルジュ。
「今まで隠していた力を解き放ったって事は、もう隠す気がない、それはつまり僕たちの前から姿を消すつもりなんだろ? 」
「・・・・・・ 」
「その魔力、恐らく23年前に死んだとされる最強魔王、ルル・ジ・オ・フェルスのものだよね? 僕が生まれる前のことだから確信は無いけど、以前一度だけ会ったことのある四魔王の一人、シリウスよりも遥かに上回る濃い魔力、僕の知る中で思い当たるのはそこしかないんだけど 」
「・・・・・・流石フェリス様ですね、なんでもお見通しだ。でも何故、一度没した魔王の力が私なんかに宿ったと考えるのですか? 」
「んー・・・・・・どうしてかな、何となくそんな気がしただけだよ、気を悪くしたなら謝る 」
そう言って柔らかく微笑んだフェリス王子からは恐れも警戒も感じられない。
むしろ信頼のような暖かい雰囲気を纏っている。
「魔王の俺が怖くないんですか? 」
「一人の女の子に嫌われる事を恐れてる魔王なんて怖くないよ 」
その言葉にセルジュは一瞬声もなくフェリス王子の真意を探ろうと見つめたが、やがてくくっと笑って答えた。
「フェリス様は本当に全てわかっていらっしゃるようだ、貴方は魔術師ですか? 」
「ううん、ただの第二王子だよ 」
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