上 下
42 / 55

42話 俺の覚悟

しおりを挟む



ーーーーセルジュが魔力を解放した瞬間、ある場所ではーーー

「えっ! これは! ・・・・・・なんて事? ルル様が復活されたんだわ! 」

「そのようですね・・・・・・この魔力は確かに最強魔王のものです 」

「ああ、お迎えに上がらなくては、シリウス! ルル様が今何処にいるか見えて? 」

「魔力は分かりますが姿は見えません。恐らく、ルル様は転生によって復活されたのでは? 」

「なら、魔族領のどこかにいるのね? 」

「いいえ、魔力が飛んできた方向、距離から察するに、恐らく人間の国の方角だと思います 」

「人間の国に居るの? 探しに行かなくちゃ! 」

「ライングレス! 待ちなさい! 」

飛び立とうとするライングレスをシリウスが手を捕まえて止める。

「何? ルル様が生きてるってわかったのに、今度こそ守らなくちゃ! 」

「ええ、我々の知らぬ間にルル様は奴の汚い手に落ちました。最強と言われた魔王が呆気なく、ですが私達も四魔王の一角、ルル様の定められた人間の国との堺を侵してはならぬという言葉は守らなければなりません。でなければ汚いあ奴と同じになってしまう 」

「そうね・・・・・・今はとにかくルル様が生きてるって分かっただけでいいわ、会うための手は慎重に考えましょう 」

「それがいいですね 」


 

そんな会話が遥か遠く後で交わされていた頃、チェスターではーーーー

「・・・・・・っ! 凄い・・・・・・ 」

フェリス王子がたった今地響きと共に目の前に起きた光景を驚愕の眼差しで眺めていた。

フェリス王子が見つめる先、チェスターの街を囲む塀とグレイズ帝国軍との間に深く長い大地の裂け目が出来ていたのだ。
突然現れた底の見えない深い谷に、グレイズ帝国軍は足を止めその場に佇む他なかった。
だが、帝国軍には魔物が付いている。
翼を持つ魔物はその谷をものともせず飛び上がる。

「何処へ行く、お前達の国ははるか後方だ、不可侵の掟を忘れた訳ではあるまい? 忘れたと言うならば俺がお前達を処罰するまでだが・・・・・・俺に向かってくる覚悟はあるのか? 」

セルジュの恫喝に魔物は動きを止め、一瞬セルジュを見た後、身震いしながら翻し、そのまま遥か彼方に飛び去ってしまった。
軍の中にいた魔物も同様である。
セルジュの存在を認識した途端、魔物達は後退り、そのまま来た道を戻って行ってしまった。
その一部始終を空の上から見ていたのはセルジュに抱えられたフェリス王子だ。

「・・・・・・セルジュ、君はまさか・・・・・・ 」

何かを察したフェリス王子がセルジュを見ると、セルジュは口元は口角を上げて微笑みながら、瞼を落としてもの哀しげな表情で視線を逸らしていた。

「フェリス様、これでチェスターの街はしばらく安全です。一度戻ってフェリス様をチェスター城に送り届けた後、私は少し出掛けてきます 」

「今度は何をするつもりだ? 」

「ここにに居る兵を引かせます 」

「どうやって? 確かに、セルジュの力ならそれは可能かもしれない。だけどここを一人で戦場にするつもりか? 」

「いいえ、ここに居る兵は誰も殺しません。たとえ敵国であっても、伯爵様の仇であっても私が殺したとなるとお嬢様が悲しまれます。・・・ただ 唯一、一人だけ死んでいただく事になるかも知れませんが・・・・・・ 」

「それはどういう事? 」

「今は言えません 」

そう言いながらチェスター城へ向うセルジュは心の中で二度とここへは戻らない覚悟を決めていた。
人間には持ち得ない自分の力に、人は畏怖の念を抱くだろう。かつての自分がそうであったように、そんな自分はもう二度とお嬢様の元に戻ってはならない。
何よりも恐れているのは、お嬢様にそんな目で見られる事、そしてお嬢様の気持ちを踏み躙る事、自分の本当の正体を知って恐怖に震えるお嬢様を見たくはないからだ。

「・・・・・・セルジュ、必ず戻ってくるんだよ 」

フェリス王子の言葉に、セルジュは瞳を大きく開いてフェリス王子を見る。

「これでも一応人の上に立つ者だからね、僕は人の感情の機微には鋭い方だと思ってるよ 」

そう言ってクスリと笑ったフェリス王子からまた目を背けるセルジュ。

「今まで隠していた力を解き放ったって事は、もう隠す気がない、それはつまり僕たちの前から姿を消すつもりなんだろ? 」

「・・・・・・ 」

「その魔力、恐らく23年前に死んだとされる最強魔王、ルル・ジ・オ・フェルスのものだよね? 僕が生まれる前のことだから確信は無いけど、以前一度だけ会ったことのある四魔王の一人、シリウスよりも遥かに上回る濃い魔力、僕の知る中で思い当たるのはそこしかないんだけど 」

「・・・・・・流石フェリス様ですね、なんでもお見通しだ。でも何故、一度没した魔王の力が私なんかに宿ったと考えるのですか? 」

「んー・・・・・・どうしてかな、何となくそんな気がしただけだよ、気を悪くしたなら謝る 」

そう言って柔らかく微笑んだフェリス王子からは恐れも警戒も感じられない。
むしろ信頼のような暖かい雰囲気を纏っている。

「魔王の俺が怖くないんですか? 」

「一人の女の子に嫌われる事を恐れてる魔王なんて怖くないよ 」

その言葉にセルジュは一瞬声もなくフェリス王子の真意を探ろうと見つめたが、やがてくくっと笑って答えた。

「フェリス様は本当に全てわかっていらっしゃるようだ、貴方は魔術師ですか? 」

「ううん、ただの第二王子だよ 」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...