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41話 偵察

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「セルジュ、兵達が通ってきた門はまだ使えるね? 」

気を失ったお嬢様を抱えて慌てている俺にフェリス様が強い口調で問いかける。

「はい、私が閉じるまでは大丈夫です 」

「分かった、しばらくこのままにしておいて 」

フェリス様はにっこり笑って今見せた中性的な柔らかなその容姿を険しい表情に変えて兵士達に向き直る。

「今すぐ一般人をこの城に集めるように! 来た人から順番に門を通って避難させて!もうすぐここは戦場になるよ! 急いで! 」

「はい、承知致しました 」

フェリス様の言葉に兵達は直ぐに行動に移すために動き出す。
なるほど、俺の門はチェスター領から約半日ほど離れた場所に繋がっている。
避難するにはもってこいだ。

「セルジュ、アイリーンのことは任せたよ、安全な場所に避難させて守ってくれ 」

兵たちが動き出したのを見て、俺の傍らに居たレオルカ様も立ち上がる。

「レオルカ様、私も戦います。いえ、私に任せてください 」

「いくらセルジュが凄い能力を持っていてもそれは出来ないよ 」

まぁ、そう言われるのがごく普通だろうな。

「・・・・・・では、敵が今どの辺りまで来ているのか確認してきます。お嬢様をお願い出来ますか? 」

「確認って、どうするつもり? 」

「こうするつもりです 」

俺は言葉と同時に魔力で作り出した羽根を背中に生やし、少し浮いてみせる。

「なるほど、それじゃあお願いするよ 」

レオルカ様は簡単に納得して俺の腕からお嬢様を受け取ってくれた。

「では、少し見てまいります 」

「あ、ちょっと待って、それ、僕も連れて飛べる? 」

呼び止めたのはフェリス様だ。

「可能ですが・・・・・・私に御身をお預けになって大丈夫ですか? 」

俺がフェリス様を抱えるだけで安全の保証は何も無い。
信用してもらえている証なのだろうけど、得体の知れない俺に身を預けていいのか?

「僕は君を信じてるから大丈夫だよ、何かあれば守ってくれるだろ? 」

綺麗な笑みを浮かべて当然の事のように言い放つフェリス様。全く、この王子には敵わないな、謎の力を使う得体の知れない俺にここまで素直に微笑まれると毒気も抜ける。
まぁ、初めから王子に危害を加えるつもりもないし、なにかした所でデメリットしかないからな。

「・・・・・・ええ、そうですね、ではしっかり掴まっていてくださいね 」

思わず笑いがこぼれそうになるのを我慢しながらフェリス様を見ると、フェリス様もふわりと微笑みを携えて俺の傍らに寄り添うように立つ。

「では、偵察と行こう、レオルカ、後のことは任せたよ 」

「はい、お気を付けて 」

レオルカ様がお嬢様を大事に抱き抱えて俺たちを見送るのを眼下に見下ろしながら、俺はフェリス様を片手に抱えて高く飛び上がった。

「本当に、君は何者なのかな? ここだけの話だ、僕にだけ教えてくれないかな? 」

空高く舞い上がり、下にいる人が豆粒のように見える位置に来た時、フェリス様はこの時を待っていたかのように口を開いた。

「私は・・・・・・商家に生まれた何も持たないただの男ですよ 」

元魔王だ等と口走ればどんなことになるか分からない。これだけ尋常では無い力を使っている以上、いつかはレオルカ様にも白状しなければならないだろうが、今はその時じゃない。

「ふぅん・・・やっぱり言えないか・・・・・・、まぁいいよ、何時か教えてくれると嬉しいかな 」

フェリス様は俺の答えを予め予測していたのか、大して興味のない事のように柔らかに微笑んだ。

「申し訳ありません・・・・・・ 」

「気にしなくていいよ、それよりも、早く偵察に向かおう 」

「はい 」

俺はフェリス様を抱えたままロアの砦がある方向に向かう。
チェスター城は地方の領地にしては栄えていて、城下町があり、城下を囲む塀にぐるりと囲まれていて、その向こうは農地になっている。

「もうこんなところまで来てる。時間が無いね 」

塀の近くまで飛んできたところでフェリス様が呟いた。
フェリス様が焦るのもわかる。
敵の軍勢は城下まで後30分もあれば辿り着く所まで来ていた。

「ちょっと待って? あれは・・・・・・? まさかグレイズ帝国は魔物を使役しているのか? 」

フェリス様が自分の目を疑うのも仕方がない。
本来人と魔物は相容れぬ存在。その魔物が大軍となってグレイズ帝国と隊列を組んでこちらに向かって来ている。

「そのようですね・・・・・・ 」

これでアイツの関与は決定的だな。

「それよりも・・・・・・ 」

そう言って俺は進軍して来る先頭の騎馬が持つ槍を指さした。

「なっ!、あれはもしかして・・・・・・ 」

「はい、そうです 」

俺は溢れくる怒りを抑えながら静かに答えた。
俺の指さした先、騎馬が持つ槍の先に突き立てたてられているのは間違いなくチェスター伯爵様の首だ。

「なんて野蛮な奴らだ、 あんなもの民に、ましてレオルカやアイリーンには絶対見せられない! 」

フェリス様もかなり怒りを抑えているのか、魔力が体の中を渦巻いているのがわかる。

「ご最もです。これ以上奴らの好きにはさせません 」

俺はそう言いながらさらにグレイズ帝国軍の近くまで飛んで行く。

「少し揺れるかもしれませんが、しっかり掴まっていてください 」

俺はそう言いながら魔力を解放した。

「どうするつもりだ? 」

開放された魔力に一瞬驚きを見せたフェリス様だが、直ぐに冷静を保って問いかける。

「これ以上こちらに進軍出来ないようにします 」

そう言いながら右手を振り上げ魔力を集中させた後振り下ろした。

「大地よ裂けろ」





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