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39話 お嬢様の覚悟
しおりを挟む「お嬢様、それ・・・ 」
「あ、これ? 気がついたら付けられていたんだけど、何かしら・・・? 」
「おそらく魔力封じの魔道具だね 」
首を傾げるお嬢様の腕を見てキリクが言う。
「はい、そうだと思います 」
「え? そうなの? 私そんなのつけられてたのね 」
お嬢様・・・魔力が封じられてることに気がついてなかったのか? まぁ、お嬢様はそんなに魔力が強い方じゃないからあまり違和感なかったのかもしれないけど、普段まとっている魔力がゼロになるとそれなりに違和感があるものなんだが・・・・・・お嬢様らしいというかなんと言うか・・・・・・可愛いです。
「これはつけた人物が解除の呪文を唱えるか、それ以上の魔力の持ち主じゃないと外せないよね 」
「そうですね・・・・・・ 」
キリクの心配を他所に、俺はお嬢様の手をそっと取って腕輪に魔力を込めた。
カシャッという音を立てて腕輪が開く。
「あ、外れた 」
「・・・・・・本当に君は何者なの? 」
腕輪が外れてほっとしているお嬢様と、俺の事を訝しむキリクを他所に、俺はお嬢様の腕から外れて手に持った腕輪からある人物の魔力を感じとっていた。
・・・・・・なるほど、そういう事か、奴が裏で手を引いていたのか・・・・・・
腕輪をお嬢様に嵌めた人物はそこそこの魔術師だが、これを作った奴は恐らく・・・・・・
「キリク様、今のグレイズ帝国の王の名前は・・・・・・? 」
「ん? 確かグレイサス・ディオ・グレイズだったと思うけど、どうしたの? 」
「グレイサス・・・・・・いえ、なんでもありません 」
俺の頭の中でその名前と腕輪に残った魔力が結びつく。
俺とした事が、隣の国の王の名前を失念していたなんてな、アイツはまだグレイサスを利用していたのか・・・・・・
懐かしい名前に悔しさが込み上げてくるのと同時に焦りも生まれる。
「キリク様、早く捕まえたヤツらの尋問をお願いします! 」
「あ、うん、そうだね、必要なら自白魔法も使うからそう時間は掛からないと思う 」
俺の言葉に、キリクも急を要することを理解したのか捕まえた賊を連行して行った。
それを確認して、俺はお嬢様を抱えて御屋敷まで戻った。
屋敷に戻ってお嬢様が湯浴みをしている間に軽い食事を用意させ、部屋まで運ぶ。
コンコンコン
「お嬢様 」
「入っていいわよ 」
俺の声にすぐに反応してくれたので部屋に入る。
「あ、いい匂い、何も食べてなかったからお腹すいてたの 」
俺の持ってきた食事に敏感に反応して嬉しそうな表情を見せるお嬢様。
湯を浴びてスッキリしたのか、頬もほんのりピンク色に高揚している。
顔色もいいし、本当にお嬢様が無事で良かった。
グレイズ帝国の事は気掛かりだけど今はお嬢様の心のケアが大事だ。
着いて行った蝙蝠で確認すると、今レオルカ様は思ったよりも早く移動されているので明日の昼前にはチェスター城に着くだろう。
「パンケーキとスープを持ってまいりました。温かいうちにお召し上がりください 」
「ありがとう 」
お嬢様はそう言って席に着くと、幸せそうににパンケーキを口に運んだ。
そんな何時もの日常のような穏やかな時間をしばらくの間過ごしていたが、部屋をノックする音に現実へと引き戻される。
「ごめん、ちょっといいかな 」
ドアを開けて顔を出したのはキリクだった。
俺に向かって手招きしている。
「私・・・ですか? 」
「うん、セルジュに話したい 」
今この屋敷の主であるお嬢様ではなく俺を呼び出すのは十中八九お嬢様を誘拐したヤツらについてだとは思うが、お嬢様には話せない内容なのだろうか?
訝しみながらも部屋を出て扉を閉めると、キリクは蒼白な表情をしていた。
「何かわかったのですか? 」
「セルジュ、チェスター領が危ない 」
「え? 」
「アイリーンを攫ったヤツらはディトス伯爵の指示で動いてた。それにディール伯爵も絡んでる事が分かった。そして二人は今回のグレイズ帝国強襲の協力者だ 」
「え?! 」
ディトス伯爵は怪しいとは思っていたがまさかグレイズ帝国と手を組んでいたなんて・・・いや、もっと詳しく調べていれば事前に分かったことかもしれない。
「という事は・・・・・・ 」
「うん、王都からの援軍が到着するまでに来てくれると思ってたディトスとディールからの援軍は来ない 」
「それではチェスターのみで今グレイズ帝国と対峙している事になるじゃないですか!」
「その通りなんだよ、チェスター領が危ないんだけど、今更手の打ちようがないんだ。とりあえずこの事は王様に報告へは向かわせたけど、援軍が駆けつけるまで持ち堪えてくれれば・・・・・・ 」
キリクは悔しそうに顔を歪ませる。
確かに、もしもチェスターが落ちればこの国は持たないかもしれない。
それよりも伯爵様が危険だ。グズグズしていられない。
「今の話本当ですの? 」
後ろから聞こえた聞き慣れな声にはっと振り返ると、お嬢様が蒼白な表情で立っていた。
「お父様が危険なの? 」
「アイリーン・・・・・・ 」
キリクもなんと言葉を返していいのか、言葉を詰まらせる。
「お嬢様、私は今すぐレオルカ様達の隊と合流してチェスター城に向かいます 」
「セルジュ、今すぐってそんなこと出来る訳ないだろ 」
「いいえ、私なら出来ます。そして私の魔力ならレオルカ様の隊を直ぐにチェスターに移動させることは可能です。・・・・・・もっと早くにこうしていれば良かった・・・・・・ 」
キリクが言うのも最もだ。
普通はそんな事出来るわけがない。
だけど、俺に宿っている最強魔王の力なら出来る。
なのにその力を使うのを恐れていた俺の判断ミスだ。
「なんだか分からないけど、行くのなら私も行きます 」
「お嬢様はここに居て下さい。危険です 」
「身内が危険な目にあっているのに私だけ安全な場所にいるなんて出来ないわ、私が行っても足でまといになるだけなのは分かってるけど、もう知らない場所で大事な人が死ぬのは嫌なの 」
何を言い出すんだと思ったけど、お嬢様の真剣な表情に、ハルバート様が亡くなった時のことを思い出した。
「もしもの時は私も傍で一緒に苦しみを分かち合いたい。それしか私には出来ないんだもの 」
「お嬢様・・・・・・ 」
「アイリーン、今チェスターに行くのはお勧めしない。命を落とすことになるかもしれないとしても? 」
「はい、私もチェスター家の人間です。その覚悟はあります。もしもの時は家族と運命を共にます 」
お嬢様は小さい時から領主の娘として、上に立つ者の考え方や行動を叩き込まれている。
それを当たり前のように自然にやっていたチェスター伯爵様や、ハルバート様、レオルカ様を見てきたからこそ、お嬢様はそういう考えを当たり前のように感じている。
俺を見上げる真っ直ぐな強い眼差しを見て思う。俺が尊敬するお嬢様とはこういう人だ。
「お嬢様、分かりました。決して俺から離れないでくださいね 」
「わかったわ 」
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