上 下
38 / 55

38話 安堵

しおりを挟む



「ごめん、そろそろ限界・・・・・・ 」

キリクが視界共有を初めて約3時間、魔力と体力の限界だ。
長時間他人の視界を共有し続けたんだ、よく持った方だと思う。
視界共有での手がかり模索はしばらく中止せざるを得ない。

「何も手がかりが掴めないままだ、ごめん。・・・・・・いや、ちょっと待って、今扉が開いた! 」

「本当ですか?! 」

「うん、男が二人・・・・・・ああ、お前にも共有出来ればいいんだけど・・・・・・ 」

キリクはどうやら男の顔を見ているようだ。
俺もお嬢様が見ているものを見たいけど、俺の力でそんな能力あっただろうか・・・・・・

「キリク様! どんな男ですか? お嬢様は無事ですか?! 」

とにかく犯人がお嬢様の元にやって来たんだ、お嬢様に危害を加えるかもしれない。お嬢様の事が心配だ。
そう思ってキリクの肩を掴んたその時、俺の脳裏に知らない男の顔が流れ込んで来た。
これは・・・・・・そうか、俺はキリクの思考を読んだのか、キリクは今男達の顔を脳裏に焼き付けようと必死なんだ。

「キリク様、ありがとうございます。私にも見えました 」

「え? 本当? 」

「はい、今キリク様が脳裏に描いている男2人の顔は覚えました 」

「そうか、良かっ・・・・・・た・・・・・・ 」

「キリク様! 」

キリク様は俺の言葉を聞いて安堵したように気を失ってしまった。

「キリク様、ありがとうございます。キリク様のご協力、決して無駄にはしません 」

俺はキリクをソファに寝かせてそう言うと、蝙蝠を大量に作りだ出した。
窓から送り出しながら作った蝙蝠はざっと千匹が空に飛んで行った。
王都内の至る所に飛び立った蝙蝠でさっき見た男を探す。
重要な手掛かりだ。必ず見つけ出してみせる。


そして探す事5時間、男が一つの建物から出てくるのを見つけた。
しばらくしてまた戻ってきた事を見るとあそこにお嬢様が居る。
やっと見つけた! あの建物だ! 

「見つけました、直ぐに行ってまいります 」

少し前に目を覚ましたキリクに報告を入れる。

「待って、君一人では危険だ! 」

「大丈夫です。私は負けません。場所を教えるので後で犯人を捕まえに来てくだされば助かります 」

俺は挨拶もそこそこに蝙蝠をキリクの元に置いて走り出した。



現地に着いて直ぐに中の様子を確認する。中には人が6人、地下に1人、きっとお嬢様だ。
俺は直ぐに扉を吹き飛ばして中に入った。

「なっ、なんだお前は! 」

俺の登場に慌てる男達を一瞬で気絶させる。
こいつらは殺せない。活かしておいて後で誰がやったのか吐かせる必要がある。
気絶した男達の中にお嬢様が見ていた2人も含まれている。

そのまま地下への階段の前にいた男も気絶させて慌てて階段を掛けおり、地下にある部屋の扉の鍵を魔力で開け、そのまま中へと駆け込んだ。

「お嬢様! 」

叫ぶのと同時にお嬢様の手足、口を縛っている布を外すと、お嬢様が俺の名を呼んでくれた。
その声を聞いた途端、俺は膝をついてお嬢様を抱きしめていた。

「すみません、俺が警戒を怠ったばかりにお嬢様に怖い思いをさせてしまいました 」

「私は大丈夫よ、私こそ迷惑をかけてごめんなさい。来てくれてありがとう 」

本当になんと詫びていいのか分からない気持ちでいっぱいだった俺に、お嬢様は気丈にも大丈夫だと言ってくれた。
だけどその後思わず抱きしめてしまった俺の腕の中で安心したのか、声も無く泣くお嬢様の姿に、本当に怖い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちと、無事でいてくれて良かったと思う安堵感と、俺の腕の中で安心して泣くお嬢様の姿をとても愛おしく思う気持ちが俺の感情を支配していた。


「ルー、本当に来てくれてありがとう、もう大丈夫よ、泣いちゃってごめんね 」

涙でクシャクシャになった顔を見られるのを恥ずかしそうに手で顔を覆いながら、それでも落ち着きを取り戻したお嬢様が出来るだけ明るい声で話す。

「いえ、俺も動転して思わず抱きしめてしまいました。申し訳ございません 」

改めて思うと、とんでもない事をしてしまったと我に返る。

「ふふっ、ルー、自分のこと『俺 』になってるわよ 」

「あっ、すみません、本当に動転していたようです 」

「私はその方が親近感が湧いて好きよ、後、私はルーの事が好きなんだから、抱きしめられて嬉しかったの、ちょっと得しちゃった 」

少し照れながら、それでも嬉しそうに言うお嬢様。
何だこれ、可愛い。


「君って何者なんだ? 」

気まずい空気を破るように声を発したのはキリクだった。
扉の前で驚きを通り越して呆れたような表情で座り込んでいる俺を見下ろしている。

「どんな魔法を使ったのか知らないけど1人で王都全域を見張っていた事といい、見つけてからの対応の速さといい、レオルカが信頼して傍に置いているんだから只者じゃないとは思ってたけど・・・・・・ 」

「私の自慢の護衛です。素敵でしょ? 」

どう答えるか悩んでいると、お嬢様が嬉しそうに答えた。

「うん、本当にすごい護衛だね、アイリーンが無事で良かった 」

「ありがとうございます。まさかキリク様にまでご迷惑かけてしまっていたなんて、申し訳ございません 」

「俺は大したことしてないから、それより犯人は捉えたから直ぐに首謀者を割り出さないと、アイリーンが安心できないよね 」

「お気遣いありがとうございます 」

お嬢様は丁寧に頭を下げて感謝の意を伝える。
そんなお嬢さまの左腕に着いている銀色の腕輪に目が止まった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...