上 下
35 / 55

35話 焦り

しおりを挟む



「私はお嬢様捜索の為ちょっと出てきます。犯人からなにか連絡があるかもしれませんし、もしかしたらお嬢様はお出かけになられてるだけかも知れません。お帰りになったらよろしく頼みます 」

「はい、分かりました 」

レオルカ様を見送った後すぐに、俺はメイドに指示を出して屋敷を出た。

お嬢様が居なくなってそう時間は経っていない。近くにいるはずだ。
近くにいるとすれば魔力感知で引っかかるはず。そう思って王都全体に感知の網を広げてみる。
しかし結果は思わしくなかった。
お嬢様の魔力が感じられない。どういう事だ?
こんな短時間でこの王都から出るなんて出来ないはず。だとしたら、魔力抑制の呪具を付けられているのか?
もしそうなら厄介だ。
お嬢様の身が心配だ。早く見つけ出したいのに、どこの誰が攫ったのかも分からなければただ闇雲に探す以外に無い。
きっと怖がっているに違いない。酷いことをされていなければいいが・・・・・・
ああ、考えただけで腸が煮えくり返る。
もしもお嬢様の身に何かあったら、犯人、絶対にタダじゃ置かないぞ!

高まる怒りを落ち着かせながら屋敷の入口まで戻って、今度は犯人の魔力の残穢を確認する。
魔力抑制具を使えるって事はそこそこ魔力があるやつが居るはずだ。
そう思って念入りに確認してみると、入口から右へ曲がったのが分かった。
その後を少したどったが、それも途中で自分自身に魔力抑制を掛けたのか、消えてしまっっていた。

「くそっ! どうすればいい!」

手掛かりが掴めない。焦りから思わず言葉が盛れる。

「冷静じゃないね 」

突然した声に慌てて振り向くと、そこにはキリクが立っていた。

「キリク様、どうされたのですか? 」

この忙しい時に何故キリクが尋ねてくるんだ? 相手をしている暇はないのに・・・と内心悪態を着く。

「レオルカの遣いから連絡があって駆けつけたんだけど、アイリーンがいなくなったんだって? 」

ああ、レオルカ様が手を回してくれていたのか、キリクに使いを送ったって事はキリクに何か手があるのかもしれない。

「はい、手掛かりが無くどう捜索したものか困っていました 」

「これ、そこで子供がずっと持って君を見てたんだけど、怖くて近付けなかったみたいだね 」

キリクはそう言って人差し指と中指の間に持った封筒を見せる。

「子供が? すみません、全然気がついていませんでした 」

集中していて全く気が付かなかった。
と言うか、子供を視界から除外していたようだ。

「開けてみてもいいですか? 」

「これはこの家に届けたかったみたいだから君が見たらいいよ、今は家の主であるレオルカも、アイリーンも居ないんだろ? 」

「はい、では失礼して・・・ 」

このタイミングで届けられた手紙だ。
限りなく怪しい。届けてくれた子供は恐らく金を掴まされて渡してくるよう言われただけだろう。問い詰めた所で直接犯人を見ている可能性も低い。

「・・・・・・ 」

「なんて書いてあった? 」

「アイリーンお嬢様を無事返して欲しかったらレオルカ様がチェスター領に向かわない事、戦力として加わらない事、もしチェスター領に足を踏み入れた場合、アイリーンお嬢様の命の保証はないと・・・・・・ 」

「レオルカはチェスター領に向かってるんだよな? 」

「はい 」

「それって、アイリーンの身に危害が加えられるかも知れないんじゃないのか? 」

「・・・・・・可能性はあります 」

どうする? 今からレオルカ様について行ったコウモリで連絡を取って止めるか?
いや、レオルカ様はこの事態を分かった上で俺に任せると言われたんだ、レオルカ様がチェスター領に入るまでに俺が何とかしなければならない。

「何か犯人の居場所が分かる方法があれば・・・ 」

以前の俺なら人を思い浮かべるだけでそこへ瞬間移動出来ていた。
だけど、さっきやってみたが飛べなかった。
恐らくその人の魔力の情報がいる。
魔力が封じられていなければ、居場所さえ分かればすぐに行けるのに・・・・・・

「とりあえず王都から出た者の情報は我がアシュレイ家に入るようにしてあるから逐一情報は来るはずだ、後はこの王都内で怪しい場所を探るだけだけど、ちょっと落ち着こう 」

「落ち着いてなど居られません! 」

「君は冷静さを失ってる。大事な主人の身が心配なのは分かるけど、アイリーンが誰に攫われたのか、もう一度整理してみよう、その方がアイリーンの居場所を探す近道になる 」

俺よりも15センチは背の低いキリクに肩を掴まれて諭すような瞳で俺を見る。
キリクの手から伝わる手の温もりに、固まっていた心が少し解れる。
確かに、俺は焦っていた。今この瞬間にもお嬢様が酷い目に会っているかもしれないと思うと、居てもたってもいられないのは変わらないが、ずっと自分に言い聞かせていた冷静にならなくてはという言葉自体が冷静さを失っていたようだ。

「・・・・・・失礼致しました。キリク様、ありがとうございます。どうぞ中へお入りください 」

俺はキリクに頭を下げて屋敷に入るよう促した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ
恋愛
「あなたを愛することはありません」 ──私の婚約者であるノエル・ネイジュ公爵は婚約を結んだ途端そう言った。 リナリア・マリヤックは伯爵家に生まれた。 しかしリナリアが10歳の頃母が亡くなり、父のドニールが愛人のカトリーヌとその子供のローラを屋敷に迎えてからリナリアは冷遇されるようになった。 リナリアは屋敷でまるで奴隷のように働かされることとなった。 屋敷からは追い出され、屋敷の外に建っているボロボロの小屋で生活をさせられ、食事は1日に1度だけだった。 しかしリナリアはそれに耐え続け、7年が経った。 ある日マリヤック家に対して婚約の打診が来た。 それはネイジュ公爵家からのものだった。 しかしネイジュ公爵家には一番最初に婚約した女性を必ず婚約破棄する、という習慣があり一番最初の婚約者は『生贄』と呼ばれていた。 当然ローラは嫌がり、リナリアを代わりに婚約させる。 そしてリナリアは見た目だけは美しい公爵の元へと行くことになる。 名前はノエル・ネイジュ。金髪碧眼の美しい青年だった。 公爵は「あなたのことを愛することはありません」と宣言するのだが、リナリアと接しているうちに徐々に溺愛されるようになり……? ※「小説家になろう」でも掲載しています。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...