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35話 焦り
しおりを挟む「私はお嬢様捜索の為ちょっと出てきます。犯人からなにか連絡があるかもしれませんし、もしかしたらお嬢様はお出かけになられてるだけかも知れません。お帰りになったらよろしく頼みます 」
「はい、分かりました 」
レオルカ様を見送った後すぐに、俺はメイドに指示を出して屋敷を出た。
お嬢様が居なくなってそう時間は経っていない。近くにいるはずだ。
近くにいるとすれば魔力感知で引っかかるはず。そう思って王都全体に感知の網を広げてみる。
しかし結果は思わしくなかった。
お嬢様の魔力が感じられない。どういう事だ?
こんな短時間でこの王都から出るなんて出来ないはず。だとしたら、魔力抑制の呪具を付けられているのか?
もしそうなら厄介だ。
お嬢様の身が心配だ。早く見つけ出したいのに、どこの誰が攫ったのかも分からなければただ闇雲に探す以外に無い。
きっと怖がっているに違いない。酷いことをされていなければいいが・・・・・・
ああ、考えただけで腸が煮えくり返る。
もしもお嬢様の身に何かあったら、犯人、絶対にタダじゃ置かないぞ!
高まる怒りを落ち着かせながら屋敷の入口まで戻って、今度は犯人の魔力の残穢を確認する。
魔力抑制具を使えるって事はそこそこ魔力があるやつが居るはずだ。
そう思って念入りに確認してみると、入口から右へ曲がったのが分かった。
その後を少したどったが、それも途中で自分自身に魔力抑制を掛けたのか、消えてしまっっていた。
「くそっ! どうすればいい!」
手掛かりが掴めない。焦りから思わず言葉が盛れる。
「冷静じゃないね 」
突然した声に慌てて振り向くと、そこにはキリクが立っていた。
「キリク様、どうされたのですか? 」
この忙しい時に何故キリクが尋ねてくるんだ? 相手をしている暇はないのに・・・と内心悪態を着く。
「レオルカの遣いから連絡があって駆けつけたんだけど、アイリーンがいなくなったんだって? 」
ああ、レオルカ様が手を回してくれていたのか、キリクに使いを送ったって事はキリクに何か手があるのかもしれない。
「はい、手掛かりが無くどう捜索したものか困っていました 」
「これ、そこで子供がずっと持って君を見てたんだけど、怖くて近付けなかったみたいだね 」
キリクはそう言って人差し指と中指の間に持った封筒を見せる。
「子供が? すみません、全然気がついていませんでした 」
集中していて全く気が付かなかった。
と言うか、子供を視界から除外していたようだ。
「開けてみてもいいですか? 」
「これはこの家に届けたかったみたいだから君が見たらいいよ、今は家の主であるレオルカも、アイリーンも居ないんだろ? 」
「はい、では失礼して・・・ 」
このタイミングで届けられた手紙だ。
限りなく怪しい。届けてくれた子供は恐らく金を掴まされて渡してくるよう言われただけだろう。問い詰めた所で直接犯人を見ている可能性も低い。
「・・・・・・ 」
「なんて書いてあった? 」
「アイリーンお嬢様を無事返して欲しかったらレオルカ様がチェスター領に向かわない事、戦力として加わらない事、もしチェスター領に足を踏み入れた場合、アイリーンお嬢様の命の保証はないと・・・・・・ 」
「レオルカはチェスター領に向かってるんだよな? 」
「はい 」
「それって、アイリーンの身に危害が加えられるかも知れないんじゃないのか? 」
「・・・・・・可能性はあります 」
どうする? 今からレオルカ様について行ったコウモリで連絡を取って止めるか?
いや、レオルカ様はこの事態を分かった上で俺に任せると言われたんだ、レオルカ様がチェスター領に入るまでに俺が何とかしなければならない。
「何か犯人の居場所が分かる方法があれば・・・ 」
以前の俺なら人を思い浮かべるだけでそこへ瞬間移動出来ていた。
だけど、さっきやってみたが飛べなかった。
恐らくその人の魔力の情報がいる。
魔力が封じられていなければ、居場所さえ分かればすぐに行けるのに・・・・・・
「とりあえず王都から出た者の情報は我がアシュレイ家に入るようにしてあるから逐一情報は来るはずだ、後はこの王都内で怪しい場所を探るだけだけど、ちょっと落ち着こう 」
「落ち着いてなど居られません! 」
「君は冷静さを失ってる。大事な主人の身が心配なのは分かるけど、アイリーンが誰に攫われたのか、もう一度整理してみよう、その方がアイリーンの居場所を探す近道になる 」
俺よりも15センチは背の低いキリクに肩を掴まれて諭すような瞳で俺を見る。
キリクの手から伝わる手の温もりに、固まっていた心が少し解れる。
確かに、俺は焦っていた。今この瞬間にもお嬢様が酷い目に会っているかもしれないと思うと、居てもたってもいられないのは変わらないが、ずっと自分に言い聞かせていた冷静にならなくてはという言葉自体が冷静さを失っていたようだ。
「・・・・・・失礼致しました。キリク様、ありがとうございます。どうぞ中へお入りください 」
俺はキリクに頭を下げて屋敷に入るよう促した。
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