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30話 お嬢様の感想

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「あっ! 」

お嬢様を見て男が声を上げる。
・・・・・・何故ここで最後に出会うのか・・・・・・

エントランスでバッタリと出会ったのはメイドに喚いてお嬢様を怒らせた男だ。
衣装が変わっている所を見ると、新しい衣装でもあてがってもらったのだろう。
さっき着ていた物より上等なものだ。
上等な衣に身を包んだ男がお嬢様に向かってツカツカと歩み寄ってくる。

「おっ前!よくも俺に恥をかかせてくれたな!」

怒りを顕にした男の言葉と表情、これは・・・周りが見えていないのか? とことん真っ直ぐ対象物しか見ない奴だな、と、俺もお嬢様の後ろから隣に移動して何時でもお嬢様を守れる体制に立ちながらため息をこぼす。

「やぁ、先程は妹が失礼したね 」

「あっ、レオルカ殿! 」

男がお嬢様に近づくよりも先にお嬢様の前に立って微笑みを男に向けたのはレオルカ様だ。
俺のため息の理由はこれだ。
当然、レオルカ様が黙っているはずがない。

「君は今何をしようとしたのかな? 」

「あっ、いや、なにも・・・・・・ 」

男は握りしめていた拳を解いて目を逸らす。

「そう、うちの妹に何かあれば私が黙っていないからね? ちなみに、ご存知かもしれないが、私は元第一騎士団副団長、中佐だ。この意味分かるよね? あ、それに妹の護衛のこの男は私より強いから気を付けてね? 」

レオルカ様はそう言って俺を指す。

「・・・・・・はい、気をつけます。いえ、そんなつもりはありませんので、では、失礼 」

男は一瞬、驚愕の表情で俺とレオルカ様を見た後、レオルカ様には歯が立たないと悟ったのか、大人しくその場を後にした。

「あの、先ほどは生意気なことを言って申し訳ございませんでした 」

そんな男の後ろ姿に向かって、お嬢様は頭を下げた。
そんなお嬢様の言葉を聞いているのかいないのか、男は振り返ることなく迎えの馬車に乗り込んで姿を消した。

「アイリーン、大丈夫かい? 」

男の乗る馬車が見えなくなった後でこちらも馬車に乗り込みながらレオルカ様が気遣う。

「はい、レオルカ兄様もルーも居るので私は大丈夫です。でも、いけませんね、つい思ったことを口にしてしまうのは、みんなを危険に巻き込んでしまいました。今後は気を付けます 」

「良いんだよ、あそこでメイドを庇えるのはアイリーンだからこそだ。アイリーンや、周りの安全は私も守るし、何よりセルジュが付いていてくれるから気にしなくていいよ、アイリーンは自分の思った正しいと思った事をやればいい 」

自嘲して反省するお嬢様に対して、レオルカ様はその必要は無いと言う。
確かに、お嬢様は何も間違ったことは言っていないし、そこがお嬢様の素晴らしいところでもあるのだから、それを殺す必要は無いと思う。

「また、レオルカ兄様は私を甘やかすのですね、少しは気を付けます。自分の身は自分で守らなくてはいけないですよね 」

俺とレオルカ様と三人だけの空間になった途端、お嬢様は頬をふくらませて子供っぽい表情になる。

「私がアイリーンを甘やかしてしまうのは仕方が無いよ、アイリーンのそういう所が可愛いくて仕方ないからね 」

そんなお嬢様の表情を見てレオルカ様はすくすくと可笑しそうに笑う。
それを見て、お嬢様はますます頬をふくらませるのだ。
大人っぽく澄ましたお嬢様も素敵だと思うが、俺はやっぱりこういうお嬢様の方がお嬢様らしくて可愛いと思ってしまう。

城に居た時は何か胸がザラつく感覚を覚えたが、今は気持ちが落ち着いている。
あれはなんだったのだろう?



「フェリス様はとても素敵な方でしたね 」

王都の屋敷に戻って、お嬢様も普段着に着替えて寛がれている時にフェリス様の感想を聞いてみた。

「そうね、とても素敵な方だったわね 」

俺の質問に、お嬢様は意外と感情のないあっさりとした返答を口にする。
もう少し熱の篭った感想が聞けるかと思ったけど、お嬢様はフェリス様に対して好印象ではなかったのだろうか? 
そんなふうにも見えなかったが・・・・・・きっと疲れているんだろう。今日は色々あっからな。

「お嬢様、お疲れでしたらもうお休みになりますか? 」

「いえ、このお茶を飲み終わるまで少し寛いでからにするわ 」

疲れているのかと思ったけど、そうでも無さそうだ。

「フェリス様もお嬢様の事は好印象を持たれたようでしたので、上手くいけば結婚なんて事もあるかもしれないですね 」

「・・・・・・そうね 」

また素っ気なく答えるお嬢様。
あれ? あまり嬉しくないのだろうか?
第二王子で品行方正、容姿端麗、精明強幹、絵に書いた様な理想の王子だ、その王子に興味を持たれて嬉しくないはずがない。

「今更緊張されてるんですか? 人見知りなお嬢様にしてはよくお話されていましたもんね 」

素っ気ない返事の意味は今になって思い出して緊張しているのだと思った。
なのに、お嬢様はキョトンとした表情で俺を見る。

「え? 私が人見知り? まぁ、たしかに最初少し緊張はするけど、人並みだと思うわよ? 」

「え? 」

「えっ? て何よ? 」

お嬢様の何気ない言葉に動揺したのは俺だ。

「人見知りじゃないんですか? じゃあお・・・私に慣れるまで3ヶ月掛かったのは? 」

「あれは・・・・・・そんな事どうでもいいでしょ、そろそろ寝るわ 」

「あ、はい、では用意致します 」

なんか今日のお嬢様は様子がおかしい。
それに、俺と普通に話せるようになるまで3ヶ月も掛かった理由は? 
はぐらかされたけど、実は俺、嫌われてたのか?



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