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27話 思い出話
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「私が起きるまで待っていてくださったのですか? 」
「寝ている女性を一人にしては危ないと思いましたので、お側に居ましたこと、お許しください 」
「貴方のお名前を伺っても? 」
「私はレオルカ・チェスターと申します。王国軍第一騎士団所属の少尉です。本日よりこちらの警備を仰せつかりました 」
「そう、お仕事お疲れ様です。ありがとう 」
警備している場所の主の顔を知らないなんて、間の抜けた警備も居たものだ。
だけど誠実そうではある。
「いえ、ですが、王宮内とはいえ、一人で外でのお昼寝は危険です 」
「そうね、気をつけます。今日はありがとうございました 」
お説教はいい、そろそろどこかに行って欲しいと思って切った会話なのに、彼の最後の言葉にやられた。
「もったいないお言葉です。ですが、今後は誰か警備のものをつけてくださいね、フェリス王子 」
そう言ってレオルカは口角を上げて笑った。
「なっ! 僕がフェリスだと気がついていたのか? いつから? 」
「最初からです 」
平然と話すレオルカ。
「知ってたなら、何故女性だなんて言った? 僕をバカにしてるのか? 」
「とんでもありません。ですが知らない者が見れば女性だと勘違いしてしまうほどにフェリス様はお美しく魅力的だいう事をご自覚下さい。もし見つけたのが私でなく、別の者であればどうなっていたか分かりませんよ 」
レオルカの言葉に背筋に嫌な汗が流れる。
それって、襲われてた可能性もあるってこと? 考えただけでゾッとする。
「王宮内とはいえ危険です。御身を大事にしてくださいませ、次からは護衛を必ず付けてくださいね 」
この男は僕を騙して懐柔しようとしているのか、いや、そんなふうには感じられない。
コイツは信用していい男な気がする。
初対面でいきなり僕を騙す度胸、冷静さ、こんな奴初めてだ。いや、騙すのはたぬき親父達の常套手段、本音なんて聞いた事が無いけど、僕と同年代でここまで堂々と騙す奴は今まで居なかった。
僕相手に怯むことも無く、言うべき事はちゃんと言える。この男は面白いかもしれない。
「そう言う君も綺麗な顔してるよね、僕と並んでも見劣りしない。もしかして君は経験者かな? 」
「とんでもない、私はそんなヘマはしません 」
ちょっと反撃のつもりで返してみたけどサラりと返されてしまった。
「うん、君面白いね、今日から僕の護衛に任命するから僕の安全は君が守ってね? 」
「はっ、・・・はい?」
「君がいてくれたら僕は安心して眠れそうだよ 」
出会ってからはじめて見たレオルカの間の抜けた表情に満足しつつ、僕はレオルカに手を差し出した。
「よろしくね 」
「はい、お任せ下さい 」
一瞬、戸惑った表情を見せたレオルカは次の瞬間には元の冷静な表情を取り戻し、口角を上げて微笑みながら手を取り返した。
それから 僕とレオルカが友達になるまでそう時間は掛からなかった。
それはレオルカが僕を王族ではなく、色目もなく一個人として見てくれる人間だったからだ。
僕に気を使う輩ばかりで、友達と呼べる人のいなかった僕には初めての存在となった。
ーーーーー
「そんな感じで、今は僕の唯一の友達だと思ってる 」
「そんな事があったんですね、お兄様もフェリス様にそんな事を言うなんて・・・お兄様らしいですね 」
くすくすと笑うお嬢様をフェリス様は優しい眼差しで見つめる。
「僕はそろそろ会場に戻るけど、君はここでゆっくりしてるといいよ 」
「あ、お時間を取らせてしまって申し訳ございませんでした。私もそろそろ戻ります 」
「いいの? 戻ればまた囲まれちゃうかもしれないよ? 」
「フェリス様に十分休ませていただきましたので大丈夫です。何時までも隠れている訳にも行きませんし、そろそろお兄様の元に戻らないと心配していらっしゃるかも知れません。でもお気遣いありがとうございます 」
「いや、気にする事はないよ、じゃあ近くまで一緒に戻ろうか 」
「はい、ありがとうございます 」
少しの間だったけど、お嬢様にはいい休憩になったようだ。
額にうっすらとかいていた汗も引いたし、今のお嬢様の笑顔はとても自然だ。
人見知りなお嬢様だけど、フェリス王子とは最初から自然体に見える。
お嬢様とフェリス王子がこうして話すことになるのはレオルカ様の思惑通りかも知れないけど、流石としか言いようがない。
二人並んで歩く姿を後ろから見ていて、すごく自然でお似合いだと思った。
前のジョルジュは最初から不信感しか無かったが、フェリス王子には黒い影も見えないし、何よりレオルカ様が押す方だ。安心できる相手じゃないか。
・・・・・・・・・そう思うのに、この胸の違和感はなんだ?
自分の中に湧いた違和感。今まで感じたことの無い、ザラザラした焦燥感にも似た居心地の悪い感覚。
敵の接近とも違う、この感覚が何なのか分からないけど、あまり気持ちのいいものでは無い。
だけど今はそんな事を考えている時ではない。
俺は自分の中に湧いた訳の分からない感情は気付かなかった事にして、お嬢様達の後を付いて歩くフェリス王子の従者の後に従って会場への小道を戻った。
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