14 / 55
14話 レオルカ様の洞察力
しおりを挟む「レオルカ様 」
俺はレオルカ様の部屋の前まで行くとノックをして返事を待った。
「ああ、入って 」
レオルカ様の返事を聞いてドアを開けて入ると、レオルカ様は先程外出した時の衣装のままで、今上着を脱いでいるところだった。
「今お戻りになったのですか? 」
俺はさっとレオルカ様の近くに移動して着替えを手伝いながら聞く。
「ああ、先に父上に報告に行ってたんだ 」
「え? 伯爵様への報告は私も同行するのでは? 」
「ああ、いや、あれはアイリーンの手前そう言っただけ 」
まぁ、嘘を言っているのは分かってたけど、俺に何の用だろう?
「ユリウスを外しているということは、あまり聞かれたくない内容ですか? 」
お嬢様に俺が付いているように、本来レオルカ様にもユリウスという男が付いている。
今日は俺一人で護衛もつとまるだろうと言うことで付いて来てはいなかったが、本来のレオルカ様の護衛はユリウスだ。
レオルカ様に護衛が必要なのかという疑問はあるが、身の回りの世話をする為に居るはずのユリウスが居ない。
「うん、セルジュは察しがいいね 」
俺に脱いだ上着とベストを渡してネクタイを緩め、シャツのボタンを外しながら俺を見るレオルカ様は、俺より少し身長が低いので、レオルカ様が俺を見上げる形になる。
俺を見上げる眼差しは憂いを帯びて艶っぽい表情をしている。
男に色気を振りまいてどうする、レオルカ様。
「お褒め預かり光栄です 」
「セルジュ・・・・・・君、なにか隠してるでしょ 」
「え? 」
レオルカ様はニヤリと口角を上げて微笑みながら俺を見る。
「なにか・・・・・・と言いますと? 」
レオルカ様の射抜くような瞳、これは、なにか感づかれたか?
「俺に隠し事なんて無しだよ? 」
「・・・何のことでしょう? 」
「まだ恍けるなんて、何かを隠してる証拠だよ、セルジュもまだまだだね 」
まさか俺の前世が魔王だったことに気づいてるはずはない。何に気がついた?
「・・・・・・心当たりがないのですが・・・・・・」
「ふーん、無自覚? では無いと思うけど・・・・・・セルジュ、魔力が上がってるよね 」
「え? 」
レオルカ様の言葉に少し焦る。
気付かれた? 復活した魔王の魔力は隠して今までと同じ魔力量に抑えていたつもりだったけど・・・
「今日の戦い、セルジュの魔力が上がってると感じた。魔力なんてそうそう上がるもんじゃないけど、何があった? 」
レオルカ様・・・・・・鋭すぎる。
レオルカ様はハルバート様が亡くなってこのチェスター伯爵家を継ぐために戻って来なければ、いずれ王国騎士団を束ねる総司令まで登り詰める事が出来たのではないだろうか。
それだけの能力を持っている。
「それは・・・・・・ 」
あんまり隠しすぎても怪しまれるだけだけど・・・・・・どう誤魔化そう。
「・・・・・・はぁ・・・、やっぱり俺は信用出来ないかな 」
どうするか少し逡巡していると、レオルカ様はソファーに掛けて頬杖を着きながらため息をこぼした。
「いえ、そんな事はありません 」
「気を使わなくていいよ、俺は周りから兄上を殺してこのチェスター伯爵家を手に入れた汚い人間だと思われてるし、セルジュとは親しくしているとはいえ、たった1年の付き合いだ、信用出来なくて当然だよね 」
レオルカ様は悲しい表情を一瞬見せた後、嘆息して仕方ないと言うように微笑を浮かべる。
レオルカ様はずるい、いや、交渉事がとても上手い。こんな事を言われれば何か言わざるを得ないじゃないか。
「実は・・・今までレオルカ様との手合わせの時は魔力を70%程に抑えていました。申し訳ございません 」
これで納得してくれればいいが・・・・・・
「なるほどね、普通100%出す人間はいない。だいたい80%で留めておくけど、それを更に10%余裕を持たせていたのか 」
レオルカ様は納得したように頷いた。
良かった、納得して貰えたようだ。
「流石セルジュだね、例え主従関係でも能力を全てさらけ出さないのはいい事だ。でも・・・・・・ 」
にっこり笑って俺を褒めた後、試すような目付きで俺を見る。
「本当に70%かな? それってまだ上があるでしょ 」
「レオルカ様、あんまり買いかぶらないでください、そんな能力ありませんよ 」
そう言って誤魔化したが、本当は更に上、数値で表すなら1000%くらいはあるんだがそれはさすがに出せない。
「ふーん・・・まぁ、今はそういうことにしておこうか、とりあえずセルジュの力はとても頼りになるし、アイリーンを守ってくれる力だと思ってるからね 」
「はい、アイリーンお嬢様をお守りすることが私の役目ですので 」
「うん、任せたよ 」
そう言って屈託なく微笑むレオルカ様は、俺と同い年なのに何処か幼さと少女のような可憐な表情で、この笑顔しか知らない人ならば守ってあげたいと思わせることが出来るだろう。
だけど、俺はレオルカ様の事は、強さ、賢さ、優れた洞察力、それに人を惹きつけるカリスマ性を持っている人間だと知っているので騙されない。
「レオルカ様、男を誘惑する趣味でもあるんですか? 」
「ん? なんの事かな? 」
首を傾げて恍けているけど、全部分かった上での行動だ。
「俺は騙されませんからね 」
「なーんだ、つまらないなー、セルジュは真面目だからちょっとからかってみようかと思ったのに、残念 」
肩を竦めてイタズラっぽく笑うレオルカ様はやっぱり同い年には見えない。
こんな表情は普段見せないからほとんどの者が知らない。
何故か歳が同じだからだろうか、俺には時折見せる表情だ。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる