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4話 潜入

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馬車は隣接するディトス領まで約3時間走り続け、ディトス城に着いたのは日が暮れた頃だった。

使用人たちが跡取りの帰城を出迎える中、馬車を降りてきたジョルジュの表情はお嬢様と対面していた時とは打って変わって、冷めた無機質な表情だった。
人好きのする笑顔は胡散臭いと思ってたけど、こっちがアイツの本性だろうか? 

「ジョルジュ、お帰り、どうだった? 」

そう言って現れたのはジョルジュを老けさせた感じのよく似た中年の男だ。恐らく父親だろうか。

「ただ今戻りました。どうも何も、決めたのは父上でしょう。私は従うのみです 」

そう言ったジョルジュの表情は憎いものでも見るような、苦々しい表情だ。
親をそんな目で見るとはどういう事だろう?

と言うか、コイツ今お嬢様との婚約は父が決めたので仕方なくって感じの言い方したな、お嬢様に対して失礼な奴め!

「そうだ、お前は私に従っていればいい、妙な気は起こさないことだ 」

息子に対し高圧的な言葉で見下すように言い放つ伯爵。

「分かっていますよ、その代わり俺の願いもちゃんと聞いてくださいよ 」

「ああ、チェスター家の娘を嫁に貰ったらお前の好きにすればいい。ただしチェスター家に気取られるなよ 」

「・・・・・・はい、願いが叶うならどんな事でも演じてみせますよ 」

薄ら笑いを浮かべて父の言葉に答えるジョルジュは、どう見てもお嬢様の前に居た姿とかけ離れている。
それに、やはり何かある。チェスター家に気取られると不味い事? 何を企んでいる?
と言うか、こんな奴の所にお嬢様が嫁いで幸せになれるはずがない。

「では、失礼します 」

ジョルジュは一礼してその場を後にした。
3階の端にある一室の前まで来るとおもむろにドアを開けて中に入る。
中は手入れの行き届いた落ち着いた部屋だ。恐らく彼の自室だろう。

コンコンコン

しばらくしてドアが鳴る。

「どうぞ 」

ジョルジュが声を掛けると、一人の女性が入って来た。

「お茶をお持ちしました 」

「ああ、ありがとう 」

女性は着ているものからこの屋敷の使用人だと分かる。
だが、彼女が入って来た瞬間、ジョルジュの表情が変わった。
さっきまでの生気のない表情から一変、柔らかな表情。空気も柔らかなものになる。

ジョルジュは着替えを彼女に手伝ってもらってから、彼女がお茶を入れる様子をソファにかけて静かに眺める。
いつもの光景なのだろうか、落ち着いた様子だ。

「・・・・・・アイリーン様はどんな方でした? 」

お茶を出しながら女性が尋ねたその言葉に大きく同様の色を見せたのはジョルジュだ。

「っ、・・・・・・普通の女性だよ、仕方なく結婚はするけど、私が彼女を愛することは無い 」

どういう事だ? お嬢様を愛さないだと? なのに結婚はする? コイツ・・・・・・消し炭にしてやろうか。

「本当に? 」

「ああ、愛してるのはユウナ、君だけだよ 」

そう言って彼女を抱きしめるジョルジュ。
コイツ・・・・・・そういう事か、この侍女と出来てるけど、身分が違いすぎるから父親から結婚を許してもらえない。そんでさっきの親子の会話から考えるに、ちゃんとした家柄の嫁を貰う代わりにこの侍女との交際も許してもらったという感じか。

・・・・・・殺してやる! うちのお嬢様をお前らの隠れ蓑なんかにさせてたまるか! 
・・・・・・とはいえ、俺としては今すぐ消してやりたいくらいだが、本当に殺すのはまずい。
お嬢様との婚約を破棄させてやる。



ーーーーーその頃、チェスター城では


「ねぇ、ルー、ジョルジュ様はとても気さくで良い方ね、何とかやって行けるかもしれないわ 」

お嬢様は今日初めてあったジョルジュの印象を良く感じたようで、少し安心したように微笑む。
俺はディトス城に送ったコウモリから情報を得ているので、お嬢様の言葉に素直に良かったとは言えない。

「・・・・・・まだ一度会っただけで判断なさるのはどうかと思いますけどね 」

「あら、ルーはジョルジュ様の事あまり気に入らなかったの? 」

(ええ、殺してやりたいですね)と心の中で呟きつつも、顔は笑顔を作る。

「本当にお嬢様をお預けするのに相応しいのか、もう少し見定めさせていただきたいですね 」

「ルーって辛口ね、お母様も気に入っていらっしゃったのに、ルーは過保護すぎだと思うわ 」

俺に賛成されなかったことが面白くないのか、頬をふくらませて恨めしそうに俺を見る。

「そうですね、俺は過保護なのかもしれませんね 」

苦笑いしか出てこないけど、お嬢様を幸せにする為に前世の力が復活したのだとすると、この力を大いに振るいたいところだ。
だが不自然にならず婚約の話を無かったことに持ち込むにはどうすればいいか・・・・・・



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