4 / 55
4話 潜入
しおりを挟む馬車は隣接するディトス領まで約3時間走り続け、ディトス城に着いたのは日が暮れた頃だった。
使用人たちが跡取りの帰城を出迎える中、馬車を降りてきたジョルジュの表情はお嬢様と対面していた時とは打って変わって、冷めた無機質な表情だった。
人好きのする笑顔は胡散臭いと思ってたけど、こっちがアイツの本性だろうか?
「ジョルジュ、お帰り、どうだった? 」
そう言って現れたのはジョルジュを老けさせた感じのよく似た中年の男だ。恐らく父親だろうか。
「ただ今戻りました。どうも何も、決めたのは父上でしょう。私は従うのみです 」
そう言ったジョルジュの表情は憎いものでも見るような、苦々しい表情だ。
親をそんな目で見るとはどういう事だろう?
と言うか、コイツ今お嬢様との婚約は父が決めたので仕方なくって感じの言い方したな、お嬢様に対して失礼な奴め!
「そうだ、お前は私に従っていればいい、妙な気は起こさないことだ 」
息子に対し高圧的な言葉で見下すように言い放つ伯爵。
「分かっていますよ、その代わり俺の願いもちゃんと聞いてくださいよ 」
「ああ、チェスター家の娘を嫁に貰ったらお前の好きにすればいい。ただしチェスター家に気取られるなよ 」
「・・・・・・はい、願いが叶うならどんな事でも演じてみせますよ 」
薄ら笑いを浮かべて父の言葉に答えるジョルジュは、どう見てもお嬢様の前に居た姿とかけ離れている。
それに、やはり何かある。チェスター家に気取られると不味い事? 何を企んでいる?
と言うか、こんな奴の所にお嬢様が嫁いで幸せになれるはずがない。
「では、失礼します 」
ジョルジュは一礼してその場を後にした。
3階の端にある一室の前まで来るとおもむろにドアを開けて中に入る。
中は手入れの行き届いた落ち着いた部屋だ。恐らく彼の自室だろう。
コンコンコン
しばらくしてドアが鳴る。
「どうぞ 」
ジョルジュが声を掛けると、一人の女性が入って来た。
「お茶をお持ちしました 」
「ああ、ありがとう 」
女性は着ているものからこの屋敷の使用人だと分かる。
だが、彼女が入って来た瞬間、ジョルジュの表情が変わった。
さっきまでの生気のない表情から一変、柔らかな表情。空気も柔らかなものになる。
ジョルジュは着替えを彼女に手伝ってもらってから、彼女がお茶を入れる様子をソファにかけて静かに眺める。
いつもの光景なのだろうか、落ち着いた様子だ。
「・・・・・・アイリーン様はどんな方でした? 」
お茶を出しながら女性が尋ねたその言葉に大きく同様の色を見せたのはジョルジュだ。
「っ、・・・・・・普通の女性だよ、仕方なく結婚はするけど、私が彼女を愛することは無い 」
どういう事だ? お嬢様を愛さないだと? なのに結婚はする? コイツ・・・・・・消し炭にしてやろうか。
「本当に? 」
「ああ、愛してるのはユウナ、君だけだよ 」
そう言って彼女を抱きしめるジョルジュ。
コイツ・・・・・・そういう事か、この侍女と出来てるけど、身分が違いすぎるから父親から結婚を許してもらえない。そんでさっきの親子の会話から考えるに、ちゃんとした家柄の嫁を貰う代わりにこの侍女との交際も許してもらったという感じか。
・・・・・・殺してやる! うちのお嬢様をお前らの隠れ蓑なんかにさせてたまるか!
・・・・・・とはいえ、俺としては今すぐ消してやりたいくらいだが、本当に殺すのはまずい。
お嬢様との婚約を破棄させてやる。
ーーーーーその頃、チェスター城では
「ねぇ、ルー、ジョルジュ様はとても気さくで良い方ね、何とかやって行けるかもしれないわ 」
お嬢様は今日初めてあったジョルジュの印象を良く感じたようで、少し安心したように微笑む。
俺はディトス城に送ったコウモリから情報を得ているので、お嬢様の言葉に素直に良かったとは言えない。
「・・・・・・まだ一度会っただけで判断なさるのはどうかと思いますけどね 」
「あら、ルーはジョルジュ様の事あまり気に入らなかったの? 」
(ええ、殺してやりたいですね)と心の中で呟きつつも、顔は笑顔を作る。
「本当にお嬢様をお預けするのに相応しいのか、もう少し見定めさせていただきたいですね 」
「ルーって辛口ね、お母様も気に入っていらっしゃったのに、ルーは過保護すぎだと思うわ 」
俺に賛成されなかったことが面白くないのか、頬をふくらませて恨めしそうに俺を見る。
「そうですね、俺は過保護なのかもしれませんね 」
苦笑いしか出てこないけど、お嬢様を幸せにする為に前世の力が復活したのだとすると、この力を大いに振るいたいところだ。
だが不自然にならず婚約の話を無かったことに持ち込むにはどうすればいいか・・・・・・
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。
処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。
口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る…
※表紙はaiartで生成したものを使用しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる