上 下
24 / 35

24話

しおりを挟む



馬は小一時間ほど走り続けている。
俺達はどこに連れていかれるんだろう?
そもそも、ここが何処なのかもまだ分かっていないのに、俺達はどうなるんだ?
シンシアは大丈夫だろうか? 手荒にされてないだろうか、そんな事を思いながら先頭を行くリーダー格の男の馬を睨みつける。

そしてしばらく馬に揺られていると、目の前に街が見えてきた。
街というより城塞、高い壁に護られた街だ。ここはおそらくこの国の重要都市だろう。
黒ずくめの男達は城門を潜り抜け街中を俺達を連れて進む。
盗賊か何かだと思っていたけど、日中堂々と俺達を連れて街を闊歩する。
この人達は一体何者なんだろう?
そう思った時、大きな通りに出て目の前が開ける。
そして俺の目に映ったのは白亜の城。
あれ? この城最近見た事あるぞ。
ん? え? ええ?

猿轡(魔術詠唱をさせないため)をされているので話せないけど、顔と目でみんなに訴える。
するとみんなも心当たりがあるようで頷いて同意を示してくれる。
やっぱり、ここはつい昨日俺達が飛んだ先で入ってしまった城じゃないのか?
まさか戻ってくることになるなんて・・・
俺達の予想通り、城の門を抜けると昨日見た景色と同じ場所に出た。
城に連れてこられたって事はこの黒ずくめは騎士? ・・・・・・には見えないけど、逃げた俺たちを探してたって事だ。
これ、ヤバいんじゃない? 不法侵入で俺たち全員裁かれるんじゃ・・・

「おい、降りろ 」

嫌な想像をしていると、馬から降りるよう促されそれに従う。
相変わらず俺達がなにも出来ないよう、シンシアを人質に前を進む。

「入れ 」

そう言われて俺たち全員広い部屋に通され、そこでやっとシンシアも解放して貰えた。
良かった、黒ずくめの男達には後ろで剣を構えてしっかり見張られてるけど、とにかくシンシアが俺たちの元に戻って来た。
抱きしめたい衝動に駆られたけど、手は縛られてるし、何より俺が触ると飛んでしまうからそんなこと出来ない。

「貴方たち、何者なの? 」

突然前方から声がして声の方を見ると、そこには女の子とその子を囲むように兵士が二人立っていた。さっき言葉を発したのは間違いなく女の子だろう。
女の子は栗色の長い髪を二つに分けて結んで、その頭には小さな王冠が乗っている。
そして藍色の大きな瞳は少し怯えたような表情を見せる。

「ゔーっ」

「あ、ごめんなさい、それじゃあ話せないわね、猿轡を外してあげて 」

イリヤが唸ると女の子は俺たちが喋れないことに気がついて猿轡を外すよう指示してくれた。 

「魔術を使うような素振りを見せたら直ぐに刺すぞ 」

猿轡を外す時に黒ずくめのリーダーに釘を刺されて・・・

「その前に、ここは何処なの? あなたは誰? 」

「貴様、口の利き方を弁えろ! 」

みんなの疑問を口にしたイリヤに剣が突きつけられる。
だけどイリヤは怯まない。

「やめなさい、そうよね、突然こんな所に連れてきてなんの説明もなくてごめんなさい 」

場所と頭の小さな王冠から、この子の正体にはなんとなく想像はつくけど、素直に謝るところを見ると話せる相手なのかもしれない。

「ここはグリエル公国、私はクラリサ・グリエル、この国の公爵よ 」

クラリサと名乗った女の子は予想道理、この国の王だった。
まさかこんな、俺と同じ歳か、俺より下に見える女の子がこの国の公爵閣下だなんて予想外だ。

「やっぱりね、三ヶ月前に前公爵が亡くなったって噂は聞いていたけど、本当だったのね 」

「よく知ってるわね、そうよ、父が亡くなって私はその後を継いだの。まだ国外には情報を流してないはずなのに、よく知ってるわね、貴方は何者? 」

「私はイリヤ、イリヤ・ユグナ・グロー、ユグナの第一王女よ、何もしないから手を自由にしてくれないかしら 」

イリヤの言葉に一番驚いたのは俺だ。
イリヤがユグナのお姫様? 只者ではないと思っていたけど、まさかお姫様だったなんて。

「ユグナの? 確かにあなたはエルフのようだけど証拠は? 」

クラリサは驚きを表しながらも用心深く尋ねる。確かに、侵入者として連れてきた相手が王女だと言われても信じられないよな。

「証拠を見せるから手を自由にしてくれないかしら 」

「わかったわ 」

イリヤは黒ずくめの男に手の縄を解いてもらうと、おもむろに今までずっと着けていた手袋を外した。
そして、その右手の甲をクラリサに見せる。
そこには加護の証、ユグナ王家の紋があった。

「その印があるという事は確かに王家の人間の証、手荒な事をしてすみません 」

素直に謝るクラリサをよそに、俺は初めて見るイリヤの右手の印に妙に納得してしまっていた。恐ろしいまでの弓の腕、あれは加護だったんだ。マリンが補助をしてるんだと納得していたけど、わざとカモフラージュの為にやっていたのかもしれない。

「私達はあなたに危害を加えるつもりは無いわ、他の者も自由にしてやってくれないかしら、そして、ここへ連れてきた訳を聞かせて欲しいんだけど 」

イリヤの言葉にクラリサは少し逡巡した後、俺たちの縄も解いてくれた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?

光子
恋愛
「お前なんかと結婚したことが俺様の人生の最大の汚点だ!」 ――それはこちらの台詞ですけど? グレゴリー国の第一王子であり、現王太子であるアシュレイ殿下。そんなお方が、私の夫。そして私は彼の妻で王太子妃。 アシュレイ殿下の母君……第一王妃様に頼み込まれ、この男と結婚して丁度一年目の結婚記念日。まさかこんな仕打ちを受けるとは思っていませんでした。 「クイナが俺様の子を妊娠したんだ。しかも、男の子だ!グレゴリー王家の跡継ぎを宿したんだ!これでお前は用なしだ!さっさとこの王城から出て行け!」 夫の隣には、見知らぬ若い女の姿。 舐めてんの?誰のおかげで王太子になれたか分かっていないのね。 追い出せるものなら追い出してみれば? 国の頭脳、国を支えている支柱である私を追い出せるものなら――どうぞお好きになさって下さい。 どんな手を使っても……貴方なんかを王太子のままにはいさせませんよ。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...