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23話

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「魔王が?? 」

俺は驚いて大きな声を出してしまい、その後直ぐにしまったと思い口を塞ぐ。

「魔王って千年以上現れてない、今では伝説のような存在だよ? 本当に居るの? 」

声のトーンを落として疑問をイリヤに投げかける。

「居るわ、前に勇者様に倒されてから、随分長い年月をかけてゆっくり復活していたようなの 」

それが本当の話なら大変な事だ。
急いで魔王が完全復活する前に倒しに行かないといけないんじゃないか?
なのにイリヤの行動は何を意味するんだろう?

「もし本当なら、何故アーシエンダに向かってるんだ? 各国に協力を求めて回ってるのか? 」

確かにアーシエンダは大国で軍事力もそれなりにある。協力依頼なら分かるけど、イリヤは出会った時、捜し物って言ってたよな? 

「まぁ、協力依頼と言えばそうかもしれないわね 」

イリヤの濁したような言い方が引っかかる。

「そうかもしれないって、違うの? 」

疑問に思いながらイリヤを見る俺を、イリヤはじっと見つめる。

「あなたはアーシエンダ王国の王子様だから教えてあげる 」

「ん? 俺が王子だから? 」

「カインに会えたのは本当に凄い偶然だったわ 」

そう言ってにっこり笑う。
その笑顔は幼い少女のようだ。

「どういう事? 」

「私の国に伝わる伝承の書には、『 魔王復活の時、魔王倒せし者現る。魔王復活の兆し在りし時、アーシエンダ国王を訪ねよ 』って言葉が記されてるのよ 」

「何それ? 父上がその魔王を倒す者なの? 」

そんな話聞いた事ない。何故アーシエンダ国王が関係しているんだ?
俺がいずれアーシエンダ王国を継ぐ立場なら俺にもそんな話があっていいはずなのに、俺は何も聞かされていない。
・・・・・・ああそうか、俺は国王に相応しくない王子だから聞かされていないんだ。

「あなたのお父様が魔王とどう関わっているのか私も分からないの。ただ、私は伝承に従ってあなたのお父様を尋ねることにした。そして、魔王を倒すことが出来る者、即ち勇者様を見つけて帰ることが私に課せられた使命なのよ 」

にっこりと強い眼差しで微笑むイリヤとは裏腹に、俺の顔からは表情が消えていた。
伝説の魔王の存在、そしてそれに関わる我が国の王族、そんな伝承が何故イリヤの国、ユグナ国に残っているのか、その理由を俺は知らない。知らされていない。俺が、時期国王にふさわしくないから。
父上だけは唯一俺の事を時期国王に相応しくないと言わない人だと思っていたのに、なんか裏切られたような気持ちだ。

「カイン? 」

イリヤの声に我に返る。
どうやらしばらく自分の中に閉じこもっていさしまっていたようで、イリヤが心配そうに俺を見る。

「魔王の復活の話、カインにはキツかった? この話はまだ他の人にはしないでね、パニックなると困るから 」

「ああ、ごめん、ぼーっとしてた。うん、わかったよ 」

取り繕って笑顔で答えたけど、その笑顔が引き攣っていたのはイリヤにも分かっただろう。

「・・・・・・そろそろ戻りましょうか、きっと遅いからみんな心配してるわ 」

「うん、そうだね 」

何も問わないでいてくれたイリヤに感謝しながら俺達はみんなの元に戻った。


「遅かったですね、何かあったんですか? 」

俺たちが戻ると、キースが心配そうに話しかけてきた。

「ごめん、イリヤと話し込んでたら遅くなっちゃった 」

戻る頃には平常心に戻っていた俺はヘラヘラと笑って見せる事が出来るようになっていた。

「イリヤ様と? 何か心配事でも? 」

「いや、世間話をしてただけだよ、つい時間を忘れちゃって、ごめん 」

そう言ってキースの後ろで座ってこちらを見ているシンシアを見ると、とても不安そうな表情でこっちを見ている。
遅かったから不安にさせちゃったのか、

「シンシアも心配させちゃってごめんね 」

俺はシンシアの隣まで言って横に座りながら話しかける。
すると、シンシアは顔を逸らして誰を見るでもなく俯く。

「べ、べつに心配なんて・・・イリヤ様と二人きりでお話しする事が出来て良かったですね 」

「うん、二人になることってあんまり無かったからね、色々話せてよかったよ 」

何か様子がおかしい気がするけど、気のせいだろうか?

「カイン様、イリヤ、ご飯出来てるわよ」

「ああ、マリン、ありがとう 」

マリンが作ってくれた食事を取るためにシンシアの隣を離れると、キースがシンシアの隣に陣取ったので、あとはキースに任せておけば大丈夫だろうと思い、俺は食事に集中した。


翌朝、出発の準備をしている時にそれまでの平穏が一気に崩れる。

「なっ、誰ですか?!  」

少し離れた所で準備が終わるのを待っていたシンシアが突然叫んだ。
その声に全員が振り向くと、シンシアは黒ずくめの男達に捕まっていた。

「シンシア! 」

いつの間に、気が付かなかった。

「動くな、この娘がどうなっても良いのか? 」

俺の後ろでイリヤが弓を構えた音が聞こえたけど、黒ずくめの男達にシンシアを人質に取られてそれ以上動く事が出来ないらしく「ちっ」と小さく舌打ちをしたのが聞こえた。

「彼女をどうするつもりだ! 」

キースが叫ぶ。

「動くんじゃない 」

男が手にしたナイフがシンシアの喉元に突きつけられる。
くそ、今俺が一番近くに居たのに気が付かなかった。今もシンシアまでは2メートルの距離だ。俺が突っ込めばシンシアを助けることが出来るんじゃないか? シンシアさえ救い出せば後は皆が動ける。
・・・・・・ダメだ。俺がシンシアに触ったら俺達だけどこかに移動してしまう。

「この娘の命が惜しかったら武器を捨てて俺たちに従え 」

俺が一瞬躊躇している間に、男達はシンシアを俺から遠ざけて隠してしまった。

「私達をどうするつもり? 」

イリヤが弓を置きながら問いかける。

「大人しくしていれば何もしない。付いて来てもらうだけだ 」

どうやら黒ずくめの男達は俺達を直ぐに殺す訳では無いみたいだ。何が目的なのかは分からないけど、シンシアを助けないと・・・
とりあえず従って、隙を見て助けるしかないのか。

「彼女は目が見えない。扱いは丁寧にしろ 」

俺が剣を置くのと同時にキースが叫んだ。
さすがキースだ。彼らの前で「シンシア様」とは呼ばない。

「分かった。お前らが大人しく付いてくるならそうしよう 」

そうして俺達は黒ずくめの男達に手を縛られ、猿轡をされて馬に乗せられた。
シンシアも同じようにさっき喋っていたリーダー格の男の馬に載せられ、連れていかれてしまった。




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