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15話 旅の出発
しおりを挟む「さあ、出発よ、ルートはざくっとグリエル公国を抜けてアーシエンダ王国に入る。一応グリエルまでは街道があるから大丈夫だと思うけど、山際とかは魔物が出るかもしれないから油断しないでよね 」
イリヤが左手を腰に、右手は街道を指差しながら元気に再確認する。
うん、21歳のお姉さんには見えないな、イリヤは同年代扱いで十分だ。
「ちょっと! 掛け声は? 」
「掛け声? 」
なんだそれは? そんなのあったっけ?
俺は首を傾げる。
「決まってるじゃない、敬礼して『イエッサー 』よ! 」
敬礼の真似をしながらそう言われて、俺とキースは真顔でイリヤを見る。
今どきそんな事言わないだろ、イリヤって実はもっと年上なんじゃねーの?
「何よその目は! そう言うでしょ? 」
「いや、言わないよ 」
真顔で答える俺の横でキースも頷く。
「えー? そうなの? うそ、じゃあなんて言うのよ 」
ちょっと焦ったように顔を赤らめながら問いかける表情は少女なんだけどな、何このギャップ。
「さぁ? 俺もよく分かんないけど『 了解 』とか『 分かった』でいいんじゃないの? 」
俺もちょっと自信なくてキースを見たけど、うんうんと頷いているからいいのだろう。
「え? そんな簡単なの? なんかカッコよくないわよ? 」
イリヤは拍子抜けしたように俺を見る。
「別にカッコ良さは要らないでしょ 」
「ええ?! 要らないの?? 」
「うん、それより早く出発しよう、遅くなる 」
俺の声に、皆も頷いて付いてくる。
「あ、ちょっと待ってよ~ 」
後ろからイリヤが追いかけてくるのを見ながらため息を着く。イリヤってこんな感じの性格なのか・・・
2人は馬2頭連れてたから俺達が乗る2頭だけを手に入れてそれぞれ乗り込みながら、なんか頼りにならない年上イリヤに不安を覚える。この先大丈夫なんだろうか・・・
そんなことを考えながら馬を走らせていると、横でくすくすと笑う声、ふと見るとシンシアが俺を見て笑っていた。
シンシアはキースの乗る馬に載せてもらってるので、キースが手綱を持つ両手の間でこっちを見ている。
「シンシア、何か面白い? 」
「いえ、楽しい旅ですわね 」
本当に楽しそうにしているシンシアを見て、昨日の重い話が一瞬頭をよぎった。
シンシアが楽しく笑っていられるなら今はいいか。
それから数日、旅は順調に進んだ。
旅を初めて5日目、俺達は街の外れに来ていた。
「この街を出たらしばらくは野宿になるわ、食料と水の準備は出来てるわね? 」
「うん、さっき買い込んだからしばらくは大丈夫だよ 」
何故かリーダーシップを取るイリヤに相づちを打ちながらも、さっき買い込んだ備蓄品を確認する。うん、これだけあれば次の村までもつだろう。
今まで街が続いていたから夜は宿に泊まることが出来たけど、ここからは野宿が増える。
点々と点在する村を渡って次の国、グリエル公国に入る予定だ。
野宿は初めてだから実はちょっとワクワクしてる。
「シンシアも野宿は初めてだろ? 大丈夫? 」
「ええ、少しワクワクしますわね 」
お姫様なのに、シンシアは特に野宿に対して不安はないようだ。それ所か、俺と同じことを思ってる。
「キースは慣れてる? 」
「はい、騎士団にいた時は野宿する事もありましたので大丈夫です 」
「え? キースって騎士団に居たの? 」
イリヤにそう言われて、しまったと思った。
イリヤ達にはまだ俺達の素性は話していない。
「ええ、以前少し滞在していました 」
キースはイリヤの質問にサラリと答える。
「ふーん、そうなんだ、じゃあ戦闘にも慣れてるわね? まぁ、体つきが引き締まってるから戦えるとは思ってたけど、経験者が居るのは心強いわね 」
イリヤはそう言いながら俺をちらりと見る。
どうせ俺は何も出来ない能無し王子だよ。
そんな目で見られるのは慣れてるから今更傷つかないよ、どうぞいくらでも貶してくれ。
イリヤなら何か言いそうだと思って覚悟してたけど、それからは特に俺には触れて来なかった。それだけ俺はどうでもいい存在ってことか。
その日、太陽が沈み始めた頃、街道近くの広場に野宿する事になった。
食事はイリヤ達とキースがテキパキと準備してくれたので助かった。
俺とシンシアはこんな時全然役に立たない。
「気にすることはありませんよ、貴方様はこんな事なさる必要はありません 」
キースは慰めの言葉をくれたけど、やっぱり男としてどうなのかと思ってしまう。
「カインはどう見ても良いとこの坊ちゃんだもんね 」
「うるさいな 」
クスクスと笑うイリヤを適当にあしらって毛布にくるまる。
シンシアもキースの膝を枕に横になっている。キースが膝枕を申し出たのだ。シンシアは素直にそれに従ってキースに身を預けている。
その光景に少し胸がモヤッとするけど、これってなんだ?
「シンシアとキースって、悔しいけどお似合いだわね 」
イリヤが不意に俺の隣に来て小声で話しかけてきた。
「な、シンシアは・・・・・・ 」
思わず俺の婚約者だと言いかけて言葉に詰まる。
「ん? シンシアは? 何? 」
「いや、何でもない。早く寝ないと見張り交代すぐだぞ 」
「ああ、そうね、お坊ちゃん、見張りよろしく 」
そう言ってイリヤも俺に見張りを任せて毛布に包まって横になった。
・・・・・・・・・静かになって改めて自分に問いかける。
俺はシンシアの婚約者だと言えるのか? シンシアの手を引いてやることも出来ないのに? それならキースの方がずっと相応しい。このまま婚約破棄した方がいいのか? でもそれは王族から外れることを意味する。シンシアにとってそれが幸せなら良いけど俺は? どうしたい? どうすればいい?
そんなことを自問自答しているうちに夜は更けていった。
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