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11話 新たな展開

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「カイン様? どうされました? 」

とても嬉しくない事実に打ちのめされている俺にシンシアが問いかける。
その声に、いけない想像が頭の中にあったことを見られていたようで慌てふためく。

「や、な、なんでもない。なんでもないんだ、うん、やってみよう、それで少しでも近くに戻れるなら 」

焦って話す俺を、シンシアの隣に居るキースが声を殺して笑っていた。
きっとキースには俺の考えてた事がバレてる。

「・・・・・・キース、言うなよ 」

「ククッ、もちろん 」

キースには睨みを効かせて釘を指したけど、なんかだんだん素の俺がバレていってる。
せっかくかっこよく振舞ってた(つもり)なのに。

「なんの事ですの? 」

シンシアは訳が分からず俺とキースを交互に見る。
 
「いや、気にしないで、それよりやってみよう 」

戻れるかどうか分からない。もっと遠くに飛ばされる可能性もある。危険な魔族の領域に入ってしまう可能性もある。
だけどやってみる価値はある。

「キース、シンシアに触れてるな? 触るよ 」

「「はい 」」

2人の返事を聞いてから、俺はまたシンシアの手に触れた。


「また街だな 」

次の瞬間、景色は変わっていた。だけどまた何処かの街中だ。

「さっきのように明らかな建築様式の差はありませんね、これは成功では? 」

キースも少し安心したように顔をほころばせる。

「うん、何処だろう? 」

とりあえず何処に来たのか調べないといけないな。

「貴方たち何者なの? 」

突然後ろから声をかけられて心臓が飛び跳ねる。

「見てたわよ、突然現れたけど、どんな高等魔術? どうやったの? 」

見られてた。俺はそっと振り返った。
そこには女の子が2人、こっちを怪訝な目で見ながら立っていた。

「まさか、勇者様? 」 

「いや、俺たちはそんなんじゃないよ 」
 
そもそも勇者なんて伝説の存在でしかない。
何でそんな突拍子もない言葉が出てくるのか。

「じゃあ何? さっきのはどうやったの? 」

少し背の高い水色の髪、青い目の美人が問いかける。
しまった。思わず答えてしまったけど、ここは何も言わずに逃げた方が良かったか?
そう思ってシンシアを見る。そうか、走るのは無理か、ならもう一度飛ぶ?
そう思った時、一瞬シンシアの左の瞳にアイラム王家の紋が浮かんだ気がした。

「ん? 」

それは一瞬で消えてしまったけど、確かに王家の紋章だった。
加護を授かった王家の人間には王家の紋が現れるけど、なぜ瞳に? それに一瞬で消えてしまった。どういう事だろう?

「ちょっと、無視しないでよ! 」

青い髪の子の声に我に返る。そうだった、今はそれどころじゃなかった。

「私達も何故移動したのか分からないんです。ここから私達の国に帰りたいのですが、ここが何処なのかも分かりません。よろしければ教えて頂けませんか? 」

俺が答える前にシンシアが答えた。
まさかシンシアが答えると思っていたかったので、ちょっと目を丸くして彼女を見る。

「分からないの? 」

青い髪の女の子はちょっと怪しむようにシンシアを見る。

「ここはグリモア王国よ 」

青い髪の女の子の横で、少し背の低い緑の髪と青い目の可愛い女の子が短く答える。

「グリモア? じゃあアイラムの隣じゃないか、良かったな、すぐに帰れるじゃないか 」

俺はアイラムに入れば王家の人間であるシンシアに手を貸す人が居る。これは楽に帰れると安心してシンシアを見た。
だけど、シンシアの表情は曇っていた。

「シンシア? 」

「カインクラム様、アイラムには入らず、グリエル公国を抜けてアーシエンダに戻りましょう 」

シンシアの変わりにキースが答える。

「え? 何で? 」

「訳は後でお話します。良いですね?シンシア様 」

「ええ、カイン様に隠し事はしない方がいいですね 」

そう言うシンシアも笑顔が消えていた。
何を隠しているのか、国に帰りたくないのか? 何故? 分からないけど、アイラムの名前が出た途端シンシアの表情が曇った。

「ちょっと、内輪で揉めてる所悪いんだけど、私達の質問に答えてくれない? 」

緑の髪の子が少しイラッとしたように話に割って入ってきた。

「何? 」

俺も少しイラッとして女の子を見る。

「何故移動したのか分からないって言ってたけど、何かきっかけはあるんでしょ? それに・・・カインクラムって、アーシエンダ王国の王子と同じ名前ね 」

なんなんだこの子は、俺の事を知ってる?

「まぁ、庶民でもたまたま同じ名前を付けてしまったってのはあるでしょうけど 」

そう言って俺を上から下まで眺める。
ああ、そうだった、俺は今庶民の服を着てるんだった。

「あはは、そうなんだ、王子様と同じ名前とか笑えないよね 」

バレてないなら誤魔化しといた方が無難だと思いとりあえず笑ってみる。

「でも、そこはかとなく漂う気品、顔立ち、庶民にしては小綺麗よね、庶民を様付けで呼ぶ従者まで付いてるし、本物でしょ? 」

なんなんだこの子は、バレてる。完全にバレてる。
俺に気品なんてあったのかってツッコミを入れるのも忘れるくらい焦る。

「ちょうど良かったわ、国へ帰るなら面白そうだから私達も一緒に付いてくわ 」




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