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21話 気づいてしまった気持ち(リリアンナ)
しおりを挟むシルル様に私はふさわしくない。
それを言おうと思った。なのに、言葉の最後はどうしてもはっきりと口に出すことが出来なかった。
というより、私が最後まで話す前に、シルル様に言葉をさえぎられてしまった。
珍しくシルル様が声を荒らげる。
まさか、こんなに怒られると思わなかったので、少しビクッとしてしまう。
けれど、私も理由をきちんと説明して、シルル様にはセイラ様と幸せになってもらいたいと説明した。
なのに、シルル様はセイラ様とはなんの関係もないと言う。そんなに私に気を使わなくてもいいのに・・・ そう思ったのに、シルル様から耳を疑う言葉が飛びたした。
「リリアンナを愛してる。リリアンナ以外考えられない 」
まさかそんな言葉がシルル様の口から出ると思っていなかったので、最初は信じることが出来なかった。
けれど、私の目を見て真剣に話されるシルル様は嘘を言っているようには見えなくて、つい本当なのか尋ねてしまった。
すると、シルル様が優しく私を包み込むように抱きしめて下さった。
それだけで、もうどうしていいか分からないのに、
「謝ることなんてない、俺がもっとちゃんとリリアンナに気持ちを伝えていれば良かったのに、苦しい思いをさせてごめんね、俺はリリアンナ以外と仲良くなるつもりは無いから安心して? 」
シルル様の私を思いやった言葉に思わず涙が溢れた。
そんな私をシルル様はしばらくの間優しく包んでくれていた。
私は、シルル様を愛してもいいのかしら・・・そう思うと、心の重荷が取れたようで、心が軽くなった。
「シル・・・様・・・」
涙声で上手く話せないけれど、ちゃんとシルル様に私の想いも伝えよう。そう思って口を開いた。
「シル様、それいいね、なんか特別な感じがして嬉しい 」
シルル様が、言葉を詰まらせた私の言葉を敏感に拾い上げて腕の中の私を見下ろす。
「いえ、あの、上手く言えなかっただけですけど・・・ 」
ちゃんと言葉にならなかった事と、優しく包まれながら見つめられる恥ずかしさに、顔から火が吹きでそうな程熱を持っているのが分かる。
「俺、シルルって名前、可愛すぎてあまり好きじゃなかったんだ。今のリリアンナの呼び方、俺は好きだけどな 」
「そうですか? 」
たまたまそう呼んだようになってしまっただけなのだけど、シルル様が自分の名前がお嫌いだったなんて、初めて知ったわ。
「ねぇ、もう一度呼んでくれない? 」
シルル様にお願いされるとなんでも聞いてしまいそうになる。でも、シルル様の事をシル様とお呼びするなんて・・・
「ねぇ、リリアンナだけの呼び方、なんか特別感があって俺は嬉しいな 」
私がどうしようか戸惑っていると、少し腕を弛めて私の顔を見下ろすように満面の笑顔を向けるシルル様。
もう耐えられそうにありませんわ。
「シル・・・様、あの、もう離して頂けませんか? 」
「どうして? 」
「どうしてって・・・もう恥ずかしすぎて耐えられそうにないからです! 」
私にしてははっきりと言った。
今までこんなにはっきりと自分の気持ちを言ったことは無かったかもしれない。
「・・・・・・」
せっかく勇気を振り絞って訴えたのに、等のシルル様からの反応がない。
不思議に思って俯いていた顔を上げてみると、赤面したシルル様のお顔があった。
「リリアンナ、可愛い 」
そう言うと、また腕に力を込めて私はシルル様の胸の中に抱きすくめられてしまった。
この状況からどうやったら抜け出せるのか、経験のない私には難しすぎます!
「シル・・・様! 」
「ああ、ごめんね、リリアンナがあまりにも可愛くて、つい 」
そう言ってやっとシルル様は解放してくれたのだけど、あまりの事に、私の足がおぼつかなくてよろけてしまった所を、また肩を支えて抱かれてしまった。
さっきも思ったけれど、シルル様は華奢に見えるのに意外としっかりされていて、男の人なのだと今更ながら実感してしまった。
「大丈夫? 」
「は、はい、大丈夫です 」
もう、顔が真っ赤なのはさっきから見られてるけれど、恥ずかしすぎて涙が出そうになる。
「今日はこれで失礼しますわね・・・」
このまま一緒にいたら私の心臓が持たない。そう思ったのに、シルル様は私の肩を支えたまま言う。
「じゃあ、送ってくよ、今歩けないでしょ 」
「いえ、大丈夫です 」
私はそう言うと、無理やりシルル様の腕から離れて部屋を後にした。
心臓の音がうるさくて周りの音が聞こえない。
私・・・こんなにシルル様の事を好きだったんだわ・・・
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