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22話 ナルサスの魔力
しおりを挟む僕がレイの全てを受け入れてしばらく、とても幸せな日々が続いていた。
僕が15才になって間もないある日、レイが竜族との対話の為不在になっている時に、人間の国への抜け道になっている洞窟の近くに反魔王派が大群になって押し寄せてきた。
この時を狙うって事は、内通者が居るのか?
レイが不在だからこそ、僕がここは死守しないと。
そう思って相対していると、ナルサスの軍が支援に駆けつけてくれた。
「クリス、大丈夫か? 」
「うん、ありがとう、指導者はダイオンみたいだ。こんなに同士を集めてくるとは思わなかったね」
それだけ人間に対して不信感を持ってる人が多いってことがわかって、少し悲しい気持ちになっていたけど、ナルサスが来てくれた事に少し安心してにっこり笑った。
「俺は向こうに回る。くれぐれも油断はするなよ」
ナルサスは、そう言って僕の頭を撫でると、配置につくため離れていった。
僕も軍を指揮するために持ち場に戻る。
出来るだけ殺さないで沈静化出来ればいいんだけど、向こうは寄せ集めだからなのか、盗賊のように好き勝手に攻めてくる。
僕も応戦するので手一杯だったけど、ナルサスが敵の後ろから回り込んでくれたおかげで、一気に形成は逆転、首謀者であるダイオンを捉えることが出来た。
首謀者が捉えられたことで、まとまりの無かった連中は散り散りに逃げて行ってしまった。
野放しにするのは危険だけど、後を追ってこちらが罠にかかる可能性もある為、後を追うのは辞めさせた。
「ナルサスさすがだね、助かったよ、ありがとう」
僕は捉えた奴らの処理を部下に任せてナルサスの元に駆け寄ると、ナルサスに声をかけた。
「クリスもお疲れ、無事でよかった」
ナルサスは僕を見るなりにっこり微笑んでくれる。
さっきまで険しい顔をしていたとは思えない笑顔に僕も気持ちがほぐれる。
「とりあえず首謀者は捉えることが出来たけど、逃げた奴が沢山いるからまた次があるかもね」
「そうだな、洞窟を取られるといつ人間の世界になだれ込むかわからない。そうなると人間との戦争がまた起こる可能性があるから、ここは絶対に死守しないとな」
「うん、そうだ・・・」
「クリス!! 」
僕が返事するのと、ナルサスが叫ぶ声が同時に響いた瞬間、ナルサスが僕を引っ張った。
何が起こったのかわからず振り向くと、そこには捉えた奴らの中から抜け出した男が短剣を手に立っていた。
「人間が魔族の上に立つな! 」
男が叫ぶ中、ナルサスが崩れ落ちる。
「ナルサス?! 」
男はすぐに僕の部下に切られて崩れ落ちる姿が目の端に映っていた。
それよりも、僕の目は脇腹からドクドクと血を流して倒れこんだナルサスしか捉えていなかった。
「ナルサス!! 」
僕は慌てて脇腹に手を置いて治癒魔法を掛けた。
少しづつしか塞がらない傷に、もっと早く! もっと治れ! と心の中で叫んでいた。
その瞬間、僕は助けられなかったレイのお父さんの事を思い出していた。
「・・・クリス、もういい、もう動けるからやめろ」
ナルサスがなんか言ってるような気がしたけど、僕には聞こえていなかった。
ナルサスまで亡くすなんて嫌だ。
レイの事を分かってくれる大事な人を死なせる訳にはいかない。
僕を庇って死ぬなんて絶対ダメだ!
血で濡れたナルサスのお腹を必死で押えながら僕は気を失ってしまっていた。
・・・・・・う・・・酷い頭痛・・・ダルい・・・また魔力切れ起こしちゃった・・・?
意識が徐々に蘇り、瞼を開けると、目の前にはナルサスの顔があった。
僕はナルサスにキスされていた。
口の中に流れ込む唾液をこくりと飲み込む。
「・・・ぅう・・・っ・・・」
口を塞がれて、身体も動かない為、喋る事が出来ないで唸ると、ナルサスが唇を離した。
「クリス、気がついたか? 」
ナルサスが見つめる紫色の瞳が、瞳に掛る黒髪が、とても綺麗に見える。
「う・・・ん・・・ごめん・・・僕・・・」
ぼんやりと見える風景は僕の部屋だ。
ナルサスは気を失った僕をここに連れてきてから魔力を分けてくれたのか・・・レイの手前みんなの前でするのは謀られると思ったのかな・・・
「まだ辛いよな、もう少し分けてやるから我慢しろ」
そう言うと、また唇を重ねる。
レイ以外の人とこんな事をするなんて、絶対に嫌だと思っていたのに、ナルサスのキスは何故か自然と受け入れることが出来ていた。
嫌じゃない。僕にとってはナルサスも大事な人だ・・・
しばらくして、ナルサスが唇を話して僕を見る。
「レイみたいな濃度の高い魔力じゃないからしばらく辛いと思う・・・」
僕を膝の上で抱きしめたまま、力なく笑うナルサスに、僕はほほ笑みかける。
「大丈夫だよ、僕を庇ってくれた上に、魔力まで分けてもらってありがとう。傷は? 」
「傷は綺麗にふさがってる。お前、凄いな、俺はお前に魔力を分けてやることが出来て役得だけど、魔力切れは辛いだろ? 」
「うん・・・辛いけど、ナルサスが無事でよかった」
今度は人の命を救うことが出来た。
僕はみんなの前で魔力切れを起こしてしまって、騎士として失格だけど、大事な人が無事なら嬉しい。
「・・・お前を抱いていいならもっと分けてやれるけど・・・抱いていいか? 」
抱いていいかと聞かれて「いいよ」とは答えないよね?? 僕にはレイが居るからダメだよ。
ナルサスもそれは分かってて言ってるんだと思うけどね。
「ふふっ、辛いから今なら受け入れちゃうかも・・・」
僕は冗談のつもりで笑いながら答えた。
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