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㊼ラルフ様とダリアン様

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ダリアン様の姿に、私の心臓がドクンと跳ねる。

「やあ、ダリアン。」

私の視線の先に気がついて、ラルフ様がダリアン様に近づく。
ラルフ様は私の手をぎゅっと握りしめてくれる。
私の元婚約者と知っている周りは、私達を遠巻きに見守るように見つめていた。

「ラルフレッド王子、お会いするのは初めてですが、私の事を知っていて頂けたとは驚きです。どこかでお会いしましたか?」

まさかラルフ様から近付いて来るとは思っていなかったダリアン様が少し驚きながらも、平静を装って話し掛ける。

「うん、失礼だけど、何度か影から見ていたから知ってるよ。俺の大好きなリリアーナの、元婚約者殿だしね。」

そう言ってにこやかに笑うラルフ様とは対照的に、ダリアン様は引き攣った笑顔を見せる。

「ダリアンには一度お礼が言いたかったんだ。」

「礼?」

「リリアーナとの婚約を解消してくれてありがとう。おかげで、ずっと片思いだったリリアーナに想いを伝えることが出来たんだ。ダリアンのおかげだよ。」

嬉しそうに微笑むラルフ様に、ダリアン様はさらに顔を引き攣らせる。
まさか王子から礼を言われるなんて思ってなかったのでしょう。

「ラルフレッド王子は変わった好みなのですね。」

ダリアン様が負けじと言葉を返す。
ダリアン様はきっと嫌味を言ったつもりなのでしょうけど、ラルフ様には響いていない様子で、天使のようなお顔を目を丸くして首を傾げる。

「変わった好み?確かに、俺の趣味は理解してもらえない事が多いけど、趣味じゃなくて好み?」

「リリアーナ嬢の事ですよ。笑わない、可愛げのない子がお好みだったのですね。」

ダリアン様の言葉に、ラルフ様はまたも首を傾げる。

「リリアーナが笑わない?」

そう言って私を見つめる。
今の私は笑顔を作るなんて出来ません!

「リリアーナはちゃんと笑うし、可愛いのに、ダリアンは何を言ってるの?」

ラルフ様はわざとボケていらっしゃるのかしら。

そのやり取りに、イラッとしたダリアン様が私を睨む。

「リリアーナ、王子に上手く取り入れて良かったな、精々王子に愛想をつかされないように笑う努力をするんだな。」

ダリアン様のその言葉に、私は無意識にラルフ様が握ってくれていた手に力を込めていた。

「ダリアン、何か勘違いしているようだけど、リリアーナに惚れているのは俺だ。リリアーナを傷つける奴は誰だろうと許さないから、覚えておいて欲しいな。」

ラルフ様は私を抱き寄せるとダリアン様に向かってニッコリ微笑む。

「ああ、それと、俺の功績を疑うのは全然構わない。むしろ、父上には何も言わないで欲しかったくらいなのに、言っちゃったもんは仕方無いけど、信じる信じないは、まぁ、君達の勝手だから、別にどう思われても俺は気にしないから、好きなように捉えてもらって構わないよ。」

ラルフ様は本当に、ご自分の評価がどうなっても気にしない風に話す。

「ラルフレッド様、また貴方様はそのような事を・・・」

ダリアン様との間にコーデリア侯爵様がラルフ様を擁護するように入ってくる。

「私は貴方様の事は尊敬しておりますのでお忘れなきよう。」

宰相であるコーデリア侯爵様の言葉に、ダリアン様はカッと顔を赤くして、何も言わずに私たちの前から立ち去って行く。

私はその姿にホッとする。

「リリアーナさん、今日のドレスも素敵ね、それもラルフレッドが作ったの?」

声を掛けられて振り向くと、そこにはセリーヌ様が立っていた。
コーデリア侯爵様と一緒にいらっしゃっていたのね。

「セリーヌ様、ごきげんよう。そうなんです。ラルフ様がまた作って下さったんです。」

ラルフ様が作って下さったドレスを褒められてつい笑顔になって答えると、周りからザワザワと声が聞こえた。
私、何かまたやったかしら?

「とても似合ってるわ、可愛いわよ。ラルフレッド、こんなドレス私にも作ってよ!」

「やだよ。」

相変わらずセリーヌ様に冷たいラルフ様にハラハラしてしまう。

「確かに、リリアーナ嬢のドレスは素晴らしいね、ラルフレッド様がお作りになったんですか?」

コーデリア侯爵の言葉に、ラルフ様が「そうだよ」と答える。

「では、デザインを少し真似させていただいても?」

「いいけど、侯爵が作るの?」

「はい、セリーヌには私からドレスをプレゼントしたいので、セリーヌ、私からでは嫌かい?」

その言葉に、セリーヌ様はとても恥ずかしそうに喜びを表す。

「エリオット様が私に?とても嬉しいですわ。」

二人の仲のいいやりとりを微笑ましく見ていると、ラルフ様が私を抱き寄せたまま、そっと私の耳に息がかかるくらい唇を寄せる。

「やっと少し緊張が取れたかな?」

耳に掛るラルフ様の息にドキドキしながらもラルフ様を見る。

「はい、でも、皆さんの前で笑えなくてごめんなさい。」

「そんな事気にしなくていい。前にも言っただろう?リリアーナは俺の事だけ見て、俺の声だけを聞いていればいい。」

その言葉に、魔法にかけられたように、ラルフ様の声だけが周りから隔離されたようによく通って聞こえる。

「それにほら。周りはかぼちゃだらけだし。」

ラルフ様が可笑しそうに周りを見る。

「かぼちゃ・・・」

そう言われて周りを見ると、不思議と皆の顔がかぼちゃに見えてくる。

「くすくす、本当だわ。」

周りのみなさんの顔がかぼちゃなのだと想像してしまうと、可笑しくてつい笑ってしまう。
そんな私をラルフ様はにこにこと見つめ返してくれる。


にこにこと見つめ合う二人を、周りはため息混じりに見つめていた。

そして、リリアーナの楽しそうに笑う笑顔を見たダリアンは、初めて見るリリアーナの笑顔にしばらく見とれ、悔しそうに歯噛みするのだった・・・ 




    
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