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①始まりは婚約破棄
しおりを挟む私はリリアーナ・ワイズベル。十七歳です。
ワイズベル伯爵家の長女として生まれ、イシュベル侯爵令息のダリアン様と十二歳の時に婚約しました。
ダリアン様はとても明るく、聡明な方で容姿も見目麗しく、他の令嬢方から羨ましがられるほどの方です。
そんなダリアン様に、私も好意を寄せ、この方と結婚できるのだと思うと、胸が高鳴る思いでした。
それが、ダリアン様二十歳の誕生日の今日、とんでもない事が起こってしまいました。
「リリアーナ、もうお前とは婚約関係を続けたくない。今日限りで、婚約を破棄させてもらう。」
好きな人の口から出た言葉がどういう事なのか、しばらく飲み込めなくて呆然とする。
「・・・それは・・・どういう事でしょうか?」
「お前と婚約してから五年、ずっと我慢してきたが、お前の仮面のような表情には飽き飽きしてるんだ。」
「仮面・・・ですか?」
私の事でしょうか?
「俺が何をプレゼントしても笑わない。今日も、俺の誕生祝いに来ているのに、笑顔のひとつも見せないじゃないか、笑顔でおめでとうがなぜ言えない?私と居てそんなにつまらないか?」
「そんな事はありません。」
そんなふうに取られていたなんて・・・
「とにかく、お前との婚約関係は今夜で解消させてもらう。つまらないならもう帰っていいぞ。」
ダリアン様の言葉に、周りにいた方達がクスクスと笑う。
「こんな事言われても、表情一つ変えないなんて、やっぱり仮面令嬢ね。」
「涙のひとつも見せれば可愛げもあるのにね。」
私を見る皆さんの目が、蔑む目に変わる。
私は何も言わず、その場を後にした。
「リリアーナ、早かったね、もうパーティーは終わったのかい?」
家に戻ると、お父様が話しかけてきた。
「・・・お父様、申し訳ございません。ダリアン様に婚約破棄を言い渡されてしまいました。」
「な、なんだって?」
私はそれだけ言うと、慌てるお父様を置いて自室へと戻った。
「お嬢様・・・」
「ごめんなさい、一人にして。」
「かしこまりました。」
侍女が部屋を出ると、私はベッドに座り込んだ。
「・・・何故こんな事に・・・」
仮面令嬢・・・そんなふうに言われていたなんて、知らなかったわ。
確かに、私は表情を表に出すのが昔から苦手だ。
嬉しい時、どんな表情をすればいいのかわからなくて、つい怒ったような表情になってしまう。
自分でも分かっていた。でも、それで好きな人から婚約破棄まで言い渡されることになるなんて・・・
自然と私の頬を涙が伝う。
私が悪いのよね、私が素直に笑える子だったらダリアン様もあんな事言わなかった。
言わせたのは私なんだわ・・・
「うっ・・・」
私は枕に顔を埋めると、その日は一人泣き明かした。
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