21 / 44
㉑わたくしの安定剤
しおりを挟むお湯に浸かると、あちこち擦りむいていたのか、ヒリヒリと痛い。
ミーナに促され、ゆっくりとお湯に浸かると温かさが一気に体を巡る。
「レイラお嬢様、痛い所はごさいませんか?」
ミーナが気遣わしげに聞いてくる。
「あちこち擦りむいているみたい。痛いわね。」
私は正直に言いながら腕を上げて確かめる。
きっと、馬車が倒れた時だわ。あの時、ミカは外に居たのに大丈夫だったのかしら。
「まぁ、本当ですわ、レイラお嬢様の雪のようなお肌に傷が!後で手当しましょうね。」
そう言ってミーナはゆっくりと肌を洗ってくれて、その後髪も洗ってくれる。
優しい動作に心がほぐれていく・・・
身体を洗い終わって室内着に着替えて、擦り傷に薬を塗ってもらうと、ミーナが髪を乾かしてくれる。
お風呂で温まったのと、髪を触ってもらっている心地良さにほんわかしていると、コンコンコンとノックが鳴る。
「どうぞ。」と答えるとミカが入って来た。
「レイラお嬢様、お食事はどうなさいますか?」
「今日はいいわ。食べる気分じゃないもの。」
そう言うと、近付いてきたミカの手には何かが乗っていた。
ふわりとベルガモットの香りが漂う。
「アールグレイのミルクティーね!」
わたくしが当てると、ミカがにっこり笑って頷く。
「少しだけでも胃になにか入れてください。一緒にスコーンをお持ちしました。」
「ありがとう。後でミカも一緒に食べましょう。」
そうして、わたくしは髪を乾かし終わるとミカと一緒にお茶を楽しんだ。
「ミカ、今日は本当にありがとう。わたくしはミカに守られてばかりね。」
わたくしはミカに本当に感謝している。ミカが居なかったら今頃どんな酷いことになっていたか・・・想像したくない。
「私は私の役割を果たしているだけです。今日はレイラお嬢様を完璧にお守りすることが出来ませんでした。申し訳ございません。」
ミカは畏まってわたくしに頭を下げる。
「やめてちょうだい!わたくし無事だったのよ?ミカが直ぐに駆けつけてくれたからだわ。ミカが居なければどうなっていたか・・・」
そこまで話して気分が悪くなる。
男たちの下卑た笑いが耳の中で木霊する。
「レイラお嬢様?大丈夫ですか?」
わたくしが青ざめた顔をしているのに気がついてミカが気遣わしげに問掛ける。
「ちょっとダメ・・・」
治まっていた震えがまた戻ってくる。
怖い。怖かった・・・っ!
「レイラお嬢様、私が触れても大丈夫ですか?」
気がつくと、ミカがわたくしの座る椅子の横に来ていて、しゃがみこんで私と目線を合わせるように下からそっと見つめていた。
「ミカ!!怖かった・・・っ」
わたくしはミカが触れていいかと問いかけているのに、近くにいるミカを見た途端、わたくしからミカに抱きついていた。
しゃがみこんでいたミカにわたくしが上から抱きついたので、ミカはそのまま後ろに尻もちをついてしまったけれど、優しくわたくしを受け止めてくれた。
震えるわたくしをミカは優しく抱きしめて、ぽんぽんと、子供をあやす様に背中を叩いてくれる。
「ミカ、何故触れていいか聞くの?」
少し落ち着きを取り戻してミカに尋ねる。
いつも普通に触れてくるのに。
「・・・今男に触れられるのは怖いかと思いまして・・・」
遠慮がちにミカが理由を話してくれる。
「ミカに触れられて嫌なんて事は絶対無いわ。大丈夫よ。」
わたくしはミカの顔を見てハッキリと答える。
ミカは何故か微妙な顔をしていた。
「はは、信頼頂けて光栄です。」
ミカが変な笑い方をするので、わたくしは思わず笑ってしまう。
「何それ、ミカ、変よ?」
「そうですか?」
ミカは相変わらずわたくしを笑わせるのが上手い。
さっきまでの震えがどこかに行ってしまったわ。
「レイラお嬢様、今夜は眠れそうですか?」
わたくしが落ち着いたのを待って、ミカが優しい表情で問いかけてくる。
正直、夜中一人になると絶対思い出しそうで怖い。ミカに居て欲しいけど、それだとミカが休めないわよね・・・よく考えたら、今日はミカめちゃくちゃいっぱい戦って、わたくしを片手で抱き抱えて走った挙句、そのまま戦闘をしていたわ。
疲れているんじゃないかしら・・・
そう思って優しく抱きしめてくれているミカを見上げると、ミカは心配そうにわたくしを見ていた。
「眠れそうになければ、そばに居ますので、どうか安心してお休みください。」
「それだとミカが休めないわ。」
「私は一日くらい寝なくても大丈夫です。」
平気な顔をして答えるミカ、夜中ずっと起きてるつもり?
「それはダメよ!・・・じゃあ、わたくしが眠ったらミカもこの部屋で寝ていいわ。」
わたくしはいい案だと思って、ミカに提案したけれど、ミカを見ると、また微妙な顔をしていた。
「ん?どうしたの?ミカ?」
「私も一応男なんですけどね・・・」
ミカが顔を赤らめて言う。
一応どころか、ミカはちゃんと男だわよ。何を言っているのかしら。
わたくしが訳が分からない顔をしていると、ミカが真顔に戻って話し出す。
「分かりました。レイラお嬢様がお眠りになったら私はここのカウチを使わせていただきます。よろしいですか?」
「うん、本当はベッドでちゃんと休んで欲しいけど・・・ごめんね。」
「全然大丈夫ですよ。私はどこででも寝れます。」
ミカは平気そうに言うけれど、そんなんじゃちゃんと疲れが取れないと思う。
「わたくしのベッドで一緒に寝る?」
冗談めかして言ってみる。
「レイラお嬢様!」
ミカに軽くゲンコツを落とされてしまった。
そうよね、わたくしはヘンリー王子の婚約者の身、本当はミカでも寝室に入れちゃいけないのよね。
でも、ミカにいてもらわないと怖い。
今日だけは・・・ね。
「ミカ、手繋いでいい?」
わたくしはベッドに入って眠る前、ミカに手を繋いで欲しいとおねだりした。
ミカはそれに応えて、そっと手を握ってくれる。
わたくしはその温もりに、やっと安心して眠りにつくことが出来た。
0
お気に入りに追加
1,715
あなたにおすすめの小説
【完結】メンヘラ悪役令嬢ルートを回避しようとしたら、なぜか王子が溺愛してくるんですけど ~ちょっ、王子は聖女と仲良くやってな!~
夏目みや
恋愛
「レイテシア・ローレンス!! この婚約を破棄させてもらう!」
王子レインハルトから、突然婚約破棄を言い渡された私。
「精神的苦痛を与え、俺のことを呪う気なのか!?」
そう、私は彼を病的なほど愛していた。数々のメンヘラ行動だって愛の証!!
泣いてレインハルトにすがるけれど、彼の隣には腹黒聖女・エミーリアが微笑んでいた。
その後は身に覚えのない罪をなすりつけられ、見事断罪コース。塔に幽閉され、むなしくこの世を去った。
そして目が覚めると断罪前に戻っていた。そこで私は決意する。
「今度の人生は王子と聖女に関わらない!!」
まずは生き方と環境を変えるの、メンヘラは封印よ!!
王子と出会うはずの帝国アカデミーは避け、ひっそり魔法学園に通うことにする。
そこで新たな運命を切り開くの!!
しかし、入学した先で待ち受けていたのは――。
「俺たち、こんなところで会うなんて、運命感じないか?」
――な ん で い る ん だ。
運命を変えようともがく私の前に、なぜか今世は王子の方からグイグイくるんですけど!!
ちょっ、来るなって。王子は聖女と仲良くやってな!!
sweet!!
仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。
「バイトが楽しすぎる……」
「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」
「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます
tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中!
※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father
※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中!
※書影など、公開中!
ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。
勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。
スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。
途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。
なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。
その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
逆ハーレムが成立した後の物語~原作通りに婚約破棄される当て馬女子だった私たちは、自分たちの幸せを目指して新たな人生を歩み始める~
キョウキョウ
恋愛
前世でプレイした乙女ゲームの世界に転生したエレノラは、原作通りのストーリーを辿っていく状況を観察していた。ゲームの主人公ヒロインでもあったアルメルが、次々と攻略対象の男性たちを虜にしていく様子を介入せず、そのまま傍観し続けた。
最初の頃は、ヒロインのアルメルがゲームと同じように攻略していくのを阻止しようと奮闘した。しかし、エレノラの行動は無駄に終わってしまう。あまりにもあっさりと攻略されてしまった婚約相手の男を早々と見限り、別の未来に向けて動き始めることにした。
逆ハーレムルートの完全攻略を目指すヒロインにより、婚約破棄された女性たち。彼女たちを誘って、原作よりも価値ある未来に向けて活動を始めたエレノラ。
やがて、原作ゲームとは違う新しい人生を歩み始める者たちは、幸せを追い求めるために協力し合うことを誓うのであった。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる