上 下
9 / 44

⑨ボディガード失格(ミカエル)

しおりを挟む


今日はとんでもない失態をしてしまった。

可愛い天使なレイラお嬢様にお怪我をさせてしまった。
今日は伯爵家のパーティで、レイラお嬢様は何やら朝から張り切っていらっしゃる様子だった。

小柄なレイラお嬢様が十五センチのヒールを履いてお出かけをされる。社交界デビューしてからはいつもの光景だ。

俺はいつものように、レイラお嬢様の少し後ろを離れて付いて行く。招待された伯爵様に挨拶を終えると、レイラお嬢様はシャンパンを片手に落ち着ける場所を探されていた。
俺もレイラお嬢様が腰掛ける場所がないか探して、人気の少ない中庭の方を確認していた。

一瞬レイラお嬢様から目を離した後、レイラお嬢様の方を見ると、その横にすごい勢いでレイラお嬢様に突っ込んでくる令嬢の姿が見えた。
あぶない!そう思うのと同時にレイラお嬢様はぶつかられてよろめき、バランスを崩す。
慌てて抱きとめたけれど、さっきの動きからして、あの高いヒールだ。レイラお嬢様は足を挫いている。
公の場でレイラお嬢様の腰を抱くなど、使用人としてあるまじき行為だが、手を離すべきか悩んだ。

一瞬悩んでいる間に、レイラお嬢様がハンカチを差し出された手が跳ね除けられる。

コイツ!レイラお嬢様の優しさを蔑ろにするなど許せん!
相手はレイラお嬢様が何故かヒロインと呼び、ヒロインの為に婚約破棄されると言って、気遣っているリサ嬢だ。

リサ嬢はドレスにシャンパンを浴びて、全面的に怒りを顕にしている。俺はぶつかるのを止められなかったが、ぶつかる瞬間のリサ嬢の顔は見ていた。

一瞬ニヤリと笑いながら、わざとシャンパンを持つレイラお嬢様の右手を狙ってぶつかって行ったのを・・・
リサ嬢の目的は何だ?レイラお嬢様に嫌がらせをされている仕返しか?だがレイラお嬢様は言葉で嫌がらせはしても物理的な嫌がらせをしたことは無い。いつもレイラお嬢様の周りにいる取り巻きが勝手に押したりぶつかったり、わざと足を掛けたりしているのだ。
ああ、今はそれより、レイラお嬢様が困っている。

「ドレスの事は申し訳ございません。明日にでもマダムリンドール様をお連れ致しますので、お好きなドレスをお仕立て下さい。」

俺はリサ嬢にそう言ったが断られる。
マダムリンドールの仕立てなんて、子爵令嬢には飛びつきたくなる話だと思ったが・・・目的は何だ?

そう思っていると、ヘンリー王子が到着されたようで、こちらに歩いてくるなり、なんと、レイラお嬢様ではなくリサ嬢に話しかけた。
リサ嬢は顔を赤らめ、ドレスが汚れたのはレイラお嬢様のせいだと言わんばかりにシャンパングラスを見る。

コイツ!初めからそれが狙いか!
ヘンリー王子はリサ嬢を気遣い、腰を抱いてエスコートしながら消えていく。
レイラお嬢様には一言も声をかけずに。
俺がレイラお嬢様を支えているこの状況は明らかに異常なのに、その事には触れなかった。

いろいろと考えることはあるが、まずレイラお嬢様の事だ。
レイラお嬢様は何が起きたのかわからず呆然としているが、早く手当をしないと。

「レイラお嬢様、今日はもうお暇しましょう。」

俺が声をかけると、レイラお嬢様は何故?と答える。
気が動転して自分が負傷していることに気がついていないらしい。
まったく・・・可愛らしい・・・

俺はわざと支えていた手を離してみる。するとレイラお嬢様が俺の方を向こうと足を踏み出した瞬間、苦痛に顔をゆがめて崩れそうになる。俺はすぐにレイラお嬢様を支えて退席を促す。

けれど、ここから出るまで、お嬢様を抱き抱える訳にはいかない。怪我をしたと言うと騒ぎになるし、レイラお嬢様はそれを望まないだろう。
使用人の俺が腰を抱いてエスコートするわけにもいかない。
俺としては、すぐに怪我したと言って抱き上げて差し上げたい所だが、それは使用人の判断することではない。あくまで主に従わなければ・・・

レイラお嬢様は歩くことを覚悟して動き始める。
俺はすぐ後ろから何時でも支えられるようついて行くことしか出来ない。

ホールを抜けた所で、レイラお嬢様が一息つかれる。
そこが俺にはもう限界だった。
周りに人は居ない。一声掛けると、俺はレイラお嬢様を抱き上げた。
人目に付く前に馬車まで走る。

レイラお嬢様は慌てて周りを気にしていたけど、俺が走り出すと、俺の首にしがみついてくれた。
こんな時に不謹慎だが、俺に身を委ねるレイラお嬢様に幸せを感じてしまう。

うん、レイラお嬢様、じっと俺を見ないでくれませんか?照れます。


足を見ると、やはりかなり腫れ上がっている。
しばらく歩けないだろう。

レイラお嬢様をお守り出来ず、お怪我をさせてしまったんだ。しばらくはレイラお嬢様を甘やかして差し上げよう・・・



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

【完結】ヤンデレ王子と面食いヒロイン『作られた運命』の物語

うり北 うりこ
恋愛
王子顔が正義! 性格なんて何でもいい! というヒロインと、ヒロインと結ばれるために運命を作り上げたストーカー系王子の物語。 私の大好きなヤンデレ。性癖を裏sideに詰め込みました!!

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

夢見る乙女と優しい野獣

小ろく
恋愛
王子様のような男性との結婚を夢見る、自称ロマンチストのエマ。 エマと婚約することになった国の英雄、大きくて逞しい野獣のような男ギルバート。 理想とはまるで違う婚約者を拒否したいエマと、エマがかわいくて楽しくてしょうがないギルバート。 夢見る伯爵令嬢と溺愛侯爵子息の、可笑しな結婚攻防のお話し。

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...