クロラ

方正

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訪れるもの・過ぎ去るもの

背負うモノ

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「ユリ、起きろ」
リュウの声で目を覚ます。私の頭の近くに丸い筒状のエナジードリンクを置いた。
 寝袋から出て、眠たい目を擦りながら起き上がる。腕時計を見ると午前6時だった。
 栓を開けて、口を付けて飲む。ほとんど味がなく、美味しくもない。
「はぁ、まったく美味しくない。もっとましな物を、仕入れてよ」
 私は不満をリュウにぶつける。リュウも同じ物を飲んでいたが、特に不満はなさそうだ。
「文句言うな。効率重視の戦闘食品はこんなもんだろ」
 もっともらしい言葉を私に言う。空になったエナジードリンクを地面に捨てた。
 私は大きく背伸びをして、朝焼けの空を見る。薄暗く崩れかけた、この廃都市を照らす。
 少しずつ気温が上がっていくのを静かに流れる風が、私の頬に当たって伝えてくれる。
 黒いライダースーツを着直して、革製の茶色の手袋をはめる。
 手を開いたり、閉じたりして手の形に馴染ませる。
 バイクを押して、トレーラーの運転席隣に止める。
「ほら、新兵器に対応させた新しいヘルメットだ」
黒いボールのような物を私に投げる。両手で受ける。私向けに改造された専用のフルフェイスヘルメットだ。
 後頭部にあるスイッチを入れると、燃料のメーターと弾の残段数、マップが表示される。
 それに新兵器の丸い2つの円が、私の視線の合わせて動き回る。
「練習はしたけど、ぶっつけ本番みたいなものか」
 そう呟いて、自動迎撃装置を起動させる。
 1キロ内の機械が発するエンジンなどの熱源を探知して攻撃する。
 もちろん、自分たちのトレーラーは探知されない様になっているらしい。
 見方は探知されない様にカスタマイズできるらしい。
 チューニングはリュウがやってくれるから詳しい内容は知らない。
 周波数とか、GPSとか様々な仕組みを取り入れているらしい。
『壊すなよ、強力だが値は張るぞ』
ヘルメットに内蔵されている無線からリュウの声が聞こえる。
 ホログラフの様に浮き上がったマップに赤い点が浮かび上がる。今回の目的地だ。
 まずは、敵拠点の蹂躙して半壊させれば任務達成。
 例の無人起動兵器を壊すことが出来れば、数に応じて報酬の金額が跳ね上がる。
 四機配備されているらしい。二機が近接型で一機が遊撃、もう一機が後方より遠距離支援。自動化された殲滅する為だけの兵器、早く殺せという事だけをプログラムされた兵器。
 この戦争に投入して、戦闘データを取る事とAIの強化する事が目的だろうか。試験投入でなく実戦投入であれば、もっと目撃されているかな。
 私の白いバイクに乗り、エンジンを起動させる。独特のリズムが機体を揺らして私に伝える。
「行くよ。フェンリル」
 そう呟いて、発進させて敵拠点に向かって加速させる。緑とコンクリートのジャングルを抜けるとそこは荒野だ。
 枯れた大地で土埃を上げて突き進む。マップに表示された白い三角形が赤い点に向かって、点滅しながら進んでいる。
 残りの距離を数字で表示され、残り5キロほどで到着する。
 ドローン二機を展開。私を挟むように並走する。
 自動迎撃機能を一時的に止めて、視線による射撃へと切り替える。
 相手の陣営はフェンスで囲い、簡易的なテントと輸送トラックに武装車両をきれいに三列に並べているらしい。
 四角形に形を取り、北と南に出入り口で交代で巡回して見回り。二つの出入り口に武装を配置して、門の代わりにしている。
 ここまでは偵察兵の情報通りだけど、例の無人の高速機動兵器は確認されなかったという。
 距離が離れた位置に待機させられているのか、それとも別の場所へ移動したのか。
「見えた。軽武装車両二機に門番が二人を確認、行くよ」
ドローンより白い真っすぐな糸が直線で放たれる。その白糸は布を針で刺すように貫いた。あとは閃光と破裂音があたりにまき散らす。
 ドローンを元の位置に戻して非戦闘モードへ、右手をハンドルから離して超振動ブレードを抜く。
 左手でアクセルを加速させ、トリガーに指をかけて引く。
 狙いは門番の兵士。何が起きているかわからなさそうに、うろたえていたけど、数発の大経口の弾丸を浴びて体は破裂する。
 そして、もう一人の横をすり抜けると頭が宙を飛んだ。
 南側から入った私。リュウから無線が入る。
『入ったな。さっきサーチした破壊対象をマークするぞ』
ヘルメットのガラス越しに表示されているマップに白い四角形が、敵陣営内に表示される。
 武装車両と輸送トラックの二つを示している。
 移動手段と攻撃手段を封じれば、今回の任務は成功する。
 陣営に突入して、車体を90度方向を右に変えて一列に並んだ輸送トラックと正面を向き合うようにして、横に滑る。
 トリガーを引き、機関砲から弾丸を放ち続ける。
 弾丸はエンジン部分からトラックを貫く。エンジンを穴だらけにされてしまえば、修理する事は不可能だ。
 私の後ろ側に並ぶテントから、兵士たちが出てきてライフルで弾を撃つ。
 襲撃されることは予想していなかったのだろうか。
『輸送トラックの全破壊を確認した。次は武装車両だ』
「わかってる」
次はトラックの反対側に並んでいる武装車両を狙う。
 けど、一度態勢立て直すには時間が掛かりすぎる。数台はすでに動き出していた。
 焼いちゃえ。
 ドローンを殲滅モードへと切り替える。
 ドローンの動きは、ただ動くものを攻撃するだけ。
 放たれる光線は、辺りにある物をすべて貫いた。
 兵士や車両、すべて無差別に。
 横滑りが止まり、すべての輸送トラックを穴だらけにした後の惨状は、焼け焦げた匂いが立ち込めていた。
 機体を南方向に向けて、私たちのトレーラーへと向かう。
 ドローンは燃料切れの為、左後ろにある本体へ戻る。
『目標は破壊したか、回収地点の座標を送る』
 マップに青い長方形が表示された。回収地点まではおおよそ20分ほど。
 私はその方向へ向かってバイクを発進させた。
 これで終わり。ただ、バイクで横滑りして弾をばら撒いて、レーザーで打ち抜く簡単な仕事。
 私の命の価値は弾丸一発と同じ。生き残ればその何十倍のお金をもらえる。
 この世界では自分の身を切って生きるか、人の命を利用して生きるしかない。
 正面から向かってくる機影が4つ。民間機だろうか?それとも敵の軍事車両か。
 弾丸が私の顔の右隣をかすめる。
『ユリ!あいつらだ!』
 1機が急加速して接近。二輪の黒塗りの無人機。
 私達の高機動二輪車両と形は同じでほとんどバイクだ。座席は無く。代わりにサッカーボールのような柄の半球体がある。
 それが目だろうか、頭脳だろうか。
 機体を180度反転させる。このまま正面向いての戦闘は数の差で圧倒的に不利になる。
 近づいてきた無人機のアームに搭載されたブレードをアームごと超振動ブレードを抜いて斬り落とす。
「……?」
 おかしい。私の首を取りに来た動きをしたけど、キレがない。
 戦場に出たばかりの新米兵士のような未熟さを感じる。
 別の二台が前に出る。私の右前と左前へ。
 後ろには、荷台並列して走行している。囲まれたな、集団での戦いは囲むことが基本だけど。
 私から仕掛ける。思いっ切り右へ車体を傾けて、右前を走行していた敵に射線が重なった瞬間に弾丸を数発当てる。
 アクセルから離して、一気に減速する。後方に追ってきた、右後ろの真っ黒な機体が真後ろにいる。
 すれ違った瞬間に、前輪と本体の接合部を斬り落とす。
 バランスを崩した、黒い塊が宙を飛んで転げまわった。
 残りは二機。今度は私を左右に挟むようにして、並走を続けた。
 機動性は異常なまでに早い。機械だからこそ成せるのだろう。人が乗っている時点でこの速さは無理、限界がある。
『そのまま、走れ。鉄橋を早く走りぬけろ!』
「何か作戦でもあるわけ!?」
ヘルメットに内蔵されている無線からリュウの声に対して乱暴な声で返答する。
 長々と返答する余裕はない。徐々にスピードを上げていく二機より早く走らないと、追い抜かれてから横向き車体を変えて、挟み撃ちにされた後で穴だらけにされる。
 まさにデスレース、早く走れば何とかなる。
『この先に100mほどの陸橋がある。お前が走り抜けた瞬間と同時に爆発させて崖の下に落とす』
「了解。早く走ればいいって訳ね」
 私は思いっ切りアクセルを回す。
 独特の振動が私に伝える。
 ハンドルをただ固定することに専念、ちょっとでもハンドルを曲げると転ぶ。
 ただ早く。トップギアでアクセルは全開。およそ1分ほどで陸橋に着く。
 高速で走っているけど、時間が経つの遅い。目標地点までのたった1秒過ぎるのが遅すぎる。
 死ねないという思いだけが、気を失いそうなスピードの中、心の中で思い続ける。
 灰色で所々崩れかけている、宙を柱で支えられた一本道。
「リュウ!」
『行くぞ!』
 陸橋に入った瞬間、次々と橋を支える支柱が爆破共に崩れていく。
 1機は崩れていく道へ吸い込まれるように、遥か下の奈落へ落ちていく。
 もう1機は、私より少し遅いぐらいで左側を走る。
 ―――仕方ないか。
 後方に取り付けているスモーク弾と、ドローンをパージする。
 外された二つのパーツは、回転しながら後方に落下し、鉄くずへとあっという間に変わり果てた。
 これで若干有利。さっきよりも軽くなったおかげで、さらに早く走れる。
 でも、互い崩れ落ちる陸橋を抜けてしまった。
「……チッ」
 舌打ちと同時に車体を思いっ切り減速させて、バイクの頭を左側へ向けて、車体ごと横向きにする。
 動きから察したのだろう、移動方向を私の右側に変えて、先頭を走る。
 私は態勢を立て直して追う。
「いい加減に!壊れろ!!」
 車体を反転させた相手と正面を向いての撃ち合い。
 ぶつかる前に私は右側に車体を横向きにして、お互い右回りに機体を回転させて弾丸をひたすらに撃つ。
 横滑りと、車体のスピンの中での撃ち合い。
 何やってるんだろう私。こんな退屈な世界で命を張って。
 いくつもの薬莢は硝煙をあげて空を舞う。
 すべてがスローモーション。
 こんな綱渡りは早く終わってほしい。
 弾丸の軌跡さえも見えてしまいそうだ。
 機体を傾けた状態での銃撃は簡単。先にバランスを崩して倒れた方が負け。
 でも、この状態では私の方が勝ち。
 実戦経験が多いからだろうか、それとも死神が死に場所はここではないと囁いたのだろうか。
 先に倒れた無人機は駒の様に回転している。
 私は倒れる直前に超振動ブレードを抜いて、相手のエンジンを突き刺す。
 一本のブレードで私のバイクを支える。
「終わった……お疲れ様フェンリル」
 バイクを立ててから、ヘルメットを脱ぐ。
 発信器のスイッチをオンにする。これで、リュウが回収に来てくれるだろ。
 ライダースーツのチャックを開けて、袖を作業着の様に腰で結ぶ。
 下に着ていた汗でぬれたタンクトップで、体をバイクに腰掛ける。
 目を閉じて、過剰分泌していたアドレナリンを深呼吸で、落ち着かせていく。
 このまま、体を冷まして居よう。回収された後はそのまま眠ってしまおう。
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