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訪れるもの・過ぎ去るもの
邂逅と新天地へ
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「よっと……」
ジャージに着替えて、空のガレージの中で前屈姿勢になって身体の筋を伸ばす。
香港に戻って1ヵ月。ほとんど治ったと言っていい。
けれど、体が完全に鈍っている。少し動かすだけで筋肉が軋むし、筋が硬くなっている。
さらに疲労骨折した右腕の筋力が落ちていた。元の体の状態に戻すまでもうしばらく掛かりそうだ。
柔軟運動をしてから、ガレージ端にある予備のライフルを持ち上げる。
試しにライフルを片手で持ってみるが、一定の高さを保つ事が少しだけ辛い。
銃口を地面に着けて、肺に溜まっていた生暖かい息を吐く。
レバーを引いて、薬室へガチャリと音を立てて弾薬が入る。
ガレージの隅にある、コンクリートの銃痕だらけの的へ狙いを定めて引き金を引く。
私が放った弾丸は、すべて的に当たった。止まっている的に当てる事は簡単な事だけど。
それから、外に出てこの区画の外回り4キロを軽く走った。
ジャージの中に着た汗ばんだシャツが気持ち悪い。
「シャワー浴びよっと」
ガレージの中に戻って、シャワールームへ移動する。
シャツとジャージ、下着を脱ぎ捨てて、洗濯機の中に突っ込んだ。
水と温水のハンドルを捻って、手で触りながら温度を調節する。今日は若干ぬるいぐらいが調度いい。
頭から温水を浴びて、腕や肩を手で撫でながら皮膚についた汗を落していく。
1か月の間に、福建省を取り戻す事が出来たという情報を聞いた。小さい基地はあるものの、敵の本隊は上海まで下がらせる事が出来たわけだ。
けれど、インドの強化兵士部隊はチベット高原で壊滅してしまったらしい。
壊滅というよりは、手に負えなかったので撤退したのだろう。河南省で戦ったAI兵器に類似した兵器が出現したという事も聞く。
チベット高原は、位置的に重要な場所になっている。
インドと香港を繋いでいた場所だった為、切り離された状態になってしまった。
私達もチベット高原を経由して、インドから香港に移動してきたわけだ。
海路は繋がっているが、かなりの遠回りなる。
ハンドル捻って温水を止めた。バスタオルで身体を拭いて、Tシャツと短パンに着替える。
濡れた髪をタオルで拭きながら、シャワールームを出るとリュウが戻っていた。
ソファーに横になってタブレットを操作していた。
「おかえり。リュウ」
私を見ると、テーブルの上に置いてあった茶色のパンパンに膨らんだ封筒を指さした。
中を開いて確認すると、写真と報告書類が詰まっていた。
中国語で書かれた紙と河南省で見覚えのある兵器が写真に写っていた。
「次の標的はこれってこと?」
リュウの反対側のソファーに座って、ざっと他の書類を見る。
簡単な中国語しかわからないが、AI兵器についてだった。
「いいや、西部戦線の情報を探っただけさ。俺達にはまだ何の連絡も来ていない」
てっきり、AI兵器と戦ったことのある私達が駆り出されると思ったが違うとのこと。
封筒に書類と写真を納めると、タオルで髪をもう一度拭き始める。
リュウは体を起こして、私をジッと見つめる。
「お前が討ち取った奴は神矢の分隊長にされて、称号と階級アップだとさ。そんで俺達にはこれ」
金の延べ棒が隙間なく詰められたトランクケースを開いた。
基本の報酬と敵司令官を討ち取った分の報酬だ。
つまり、香港での契約終了を伝えられたという事になる。
「格安でAI兵器を倒してやると交渉してきたが、自分たちで何とかするだとさ」
本当だったら、冬の始まりまでの契約だったけど、4月から7月までで一方的に契約を切られたわけだ。
「私達はどうする?香港での仕事はこれで終わりだけど」
リュウの持っていたタブレットを私に見せる。南米からの依頼内容が書かれたメールだった。
反乱軍から雇いたいとのこと。
SOLという反乱組織で、南米大陸を支配しているノーマサンタブランカに対して侵攻するとの事。
「南米……ギャングまがいの連中が支配していると聞いているが、律儀な連中がいたものだな」
契約期間は半年、契約条件は遊撃戦力として使いたいと書いてある。
基本的に一人で行動する事になるという事だ。
それに、敵将と敵拠点を陥落させる度に報酬は上乗せされる。
美味しい内容だ。討伐すればするほどこちらの報酬は上乗せされていく。
「これ、受けよっか。移動は船?」
私は笑みを浮かべて、リュウを見る。頷いてから、タブレットの画面を暗くした。
今度は待遇がいいところだといいな。
金を払っているから何でもやれとか言わない人がいい。
「いいや、潜水艦だ。それも懐かしい連中が送り届けてくれるのさ」
懐かしい連中という言葉に驚いた。
東京コロニー再興を誓った同志たちにあると思うと心が躍る。
彼らと会うのは実に2年ぶり。リュウと世界を旅する前に一度集まった以来だ。
傭兵に成った人が多かった。
「つまり、コロニー再興にもう少しって事だ。今回はある意味、神羅との前哨戦のつもりだ」
東京コロニー再興において、神羅との戦闘は間違いなく起きる。
反乱組織に表向きは雇われる事だが、裏では私達の反撃戦の練習。
リュウがAI兵器を格安で請け負う理由は、アジア通商連合に貸しを作っておきたかったわけか。
開始時期は10月、今から3か月後に再び別の戦場で走り回る事になる。
あの男のような、猛者に会えるだろうか。
全身の血が沸騰するような感覚をもう一度だけ味わいたい。
こんな考えをするようになった私は、戦闘狂だろう。
「3か月の夏休みだね。一度東京に戻ろうよ」
次の戦闘の猶予期間は3か月。
それまでは、故郷で過ごしたい。リュウも東京で過ごす事に同意した。
「なら、2週間後にはここを出よう。丁度、香港の連中からも1か月以内に出て行けと言われているからな」
何かが気に食わなかったのか。それとも、敵将を倒したのが私だからだろうか。
どちらにしろ香港との契約は終わった。今更考えても仕方ないかな。
これでアジアとはしばらくお別れだ。
私は心の中で、ここで戦った事を刻んだ。
香港の管理機関は気に食わなかったが、楽しかった期間だった。
ジャージに着替えて、空のガレージの中で前屈姿勢になって身体の筋を伸ばす。
香港に戻って1ヵ月。ほとんど治ったと言っていい。
けれど、体が完全に鈍っている。少し動かすだけで筋肉が軋むし、筋が硬くなっている。
さらに疲労骨折した右腕の筋力が落ちていた。元の体の状態に戻すまでもうしばらく掛かりそうだ。
柔軟運動をしてから、ガレージ端にある予備のライフルを持ち上げる。
試しにライフルを片手で持ってみるが、一定の高さを保つ事が少しだけ辛い。
銃口を地面に着けて、肺に溜まっていた生暖かい息を吐く。
レバーを引いて、薬室へガチャリと音を立てて弾薬が入る。
ガレージの隅にある、コンクリートの銃痕だらけの的へ狙いを定めて引き金を引く。
私が放った弾丸は、すべて的に当たった。止まっている的に当てる事は簡単な事だけど。
それから、外に出てこの区画の外回り4キロを軽く走った。
ジャージの中に着た汗ばんだシャツが気持ち悪い。
「シャワー浴びよっと」
ガレージの中に戻って、シャワールームへ移動する。
シャツとジャージ、下着を脱ぎ捨てて、洗濯機の中に突っ込んだ。
水と温水のハンドルを捻って、手で触りながら温度を調節する。今日は若干ぬるいぐらいが調度いい。
頭から温水を浴びて、腕や肩を手で撫でながら皮膚についた汗を落していく。
1か月の間に、福建省を取り戻す事が出来たという情報を聞いた。小さい基地はあるものの、敵の本隊は上海まで下がらせる事が出来たわけだ。
けれど、インドの強化兵士部隊はチベット高原で壊滅してしまったらしい。
壊滅というよりは、手に負えなかったので撤退したのだろう。河南省で戦ったAI兵器に類似した兵器が出現したという事も聞く。
チベット高原は、位置的に重要な場所になっている。
インドと香港を繋いでいた場所だった為、切り離された状態になってしまった。
私達もチベット高原を経由して、インドから香港に移動してきたわけだ。
海路は繋がっているが、かなりの遠回りなる。
ハンドル捻って温水を止めた。バスタオルで身体を拭いて、Tシャツと短パンに着替える。
濡れた髪をタオルで拭きながら、シャワールームを出るとリュウが戻っていた。
ソファーに横になってタブレットを操作していた。
「おかえり。リュウ」
私を見ると、テーブルの上に置いてあった茶色のパンパンに膨らんだ封筒を指さした。
中を開いて確認すると、写真と報告書類が詰まっていた。
中国語で書かれた紙と河南省で見覚えのある兵器が写真に写っていた。
「次の標的はこれってこと?」
リュウの反対側のソファーに座って、ざっと他の書類を見る。
簡単な中国語しかわからないが、AI兵器についてだった。
「いいや、西部戦線の情報を探っただけさ。俺達にはまだ何の連絡も来ていない」
てっきり、AI兵器と戦ったことのある私達が駆り出されると思ったが違うとのこと。
封筒に書類と写真を納めると、タオルで髪をもう一度拭き始める。
リュウは体を起こして、私をジッと見つめる。
「お前が討ち取った奴は神矢の分隊長にされて、称号と階級アップだとさ。そんで俺達にはこれ」
金の延べ棒が隙間なく詰められたトランクケースを開いた。
基本の報酬と敵司令官を討ち取った分の報酬だ。
つまり、香港での契約終了を伝えられたという事になる。
「格安でAI兵器を倒してやると交渉してきたが、自分たちで何とかするだとさ」
本当だったら、冬の始まりまでの契約だったけど、4月から7月までで一方的に契約を切られたわけだ。
「私達はどうする?香港での仕事はこれで終わりだけど」
リュウの持っていたタブレットを私に見せる。南米からの依頼内容が書かれたメールだった。
反乱軍から雇いたいとのこと。
SOLという反乱組織で、南米大陸を支配しているノーマサンタブランカに対して侵攻するとの事。
「南米……ギャングまがいの連中が支配していると聞いているが、律儀な連中がいたものだな」
契約期間は半年、契約条件は遊撃戦力として使いたいと書いてある。
基本的に一人で行動する事になるという事だ。
それに、敵将と敵拠点を陥落させる度に報酬は上乗せされる。
美味しい内容だ。討伐すればするほどこちらの報酬は上乗せされていく。
「これ、受けよっか。移動は船?」
私は笑みを浮かべて、リュウを見る。頷いてから、タブレットの画面を暗くした。
今度は待遇がいいところだといいな。
金を払っているから何でもやれとか言わない人がいい。
「いいや、潜水艦だ。それも懐かしい連中が送り届けてくれるのさ」
懐かしい連中という言葉に驚いた。
東京コロニー再興を誓った同志たちにあると思うと心が躍る。
彼らと会うのは実に2年ぶり。リュウと世界を旅する前に一度集まった以来だ。
傭兵に成った人が多かった。
「つまり、コロニー再興にもう少しって事だ。今回はある意味、神羅との前哨戦のつもりだ」
東京コロニー再興において、神羅との戦闘は間違いなく起きる。
反乱組織に表向きは雇われる事だが、裏では私達の反撃戦の練習。
リュウがAI兵器を格安で請け負う理由は、アジア通商連合に貸しを作っておきたかったわけか。
開始時期は10月、今から3か月後に再び別の戦場で走り回る事になる。
あの男のような、猛者に会えるだろうか。
全身の血が沸騰するような感覚をもう一度だけ味わいたい。
こんな考えをするようになった私は、戦闘狂だろう。
「3か月の夏休みだね。一度東京に戻ろうよ」
次の戦闘の猶予期間は3か月。
それまでは、故郷で過ごしたい。リュウも東京で過ごす事に同意した。
「なら、2週間後にはここを出よう。丁度、香港の連中からも1か月以内に出て行けと言われているからな」
何かが気に食わなかったのか。それとも、敵将を倒したのが私だからだろうか。
どちらにしろ香港との契約は終わった。今更考えても仕方ないかな。
これでアジアとはしばらくお別れだ。
私は心の中で、ここで戦った事を刻んだ。
香港の管理機関は気に食わなかったが、楽しかった期間だった。
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