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初の聖地

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Kはプレハブが人生三度目のテレポートとなった。

第一の地と第二の地はいま思えば、楽しかった思い出もないことはない。

しかし、挫折や疲労が甦る。

人生の大半を過ごした最初の地はKにとって環境が欠落した地であった。

西へ歩けば、こじんまりとした個人経営の店が立ち並ぶアーケート街にそれを取り巻く排気ガス。

東へ歩けば、ザワザワと若者の声がこだまする自分には何の関係もない繁華街。

思春期や青年期を過ごしたKにとって個性を発揮できる場所ではなかったからだ。

また、こないだまで過ごした第二の地もしかり…

仕事をすれば難癖を付けてくる連中の巣だった。

頭のてっぺんから足の裏までのからだ全体を温めてくれる【だれか】がもしいたのならば、現実的なものでさえ
ダイヤモンドの原石に変えられた事実があったはずだ。




しかし、

いまは違う、マーブルに出会えたこと、進や森山に出会えたこと、由比に出会えて人生初の彼女ができたこと。

いままでの排気ガス、黒一色の世界をパンジーの咲く花畑に誘ってくれた第三の地であった。




◆9月Kの誕生日プレゼント

9月の中旬、勉強に集中していた由比から連絡があった。

「Kさん、もうすぐ誕生日でしょ、プレゼント何がいいの?」

「欲しいものは特にないけど…そうだ、この前行ったビーチを一緒に歩きたい、これが僕への誕生日プレゼントにしてほしいんだ」

「花火大会で行った海岸のこと?」

「そうそう、その海岸にもう一度行って、由比さん、君ともう一度一緒に歩きたいんだ」

「Kさんの誕生日は?」

「次の土曜日」

「それじゃあその日は空けとくわ」

「サンキューベリーフラワー」(笑)


◆誕生日当日の土曜日

「なんか夜の海岸も雰囲気が違うね、花火大会のときは人が多かったけど静かでいいね」

「そうね」

「ワンワン!」

「一緒に歩きたかったんだ、あっごめん、勉強のじゃましちゃったかな」

「うんうん、年に一度の誕生日だから」

「そうだね、僕、心開いた仲良くなった人からは少し変わってるって言われるけど」

「そうかな、Kさん結構緊張しーでロマンチストだよね」

「そうかな、ロマンチストと言えば進さんもロマンチストじゃないかなあ」

「お父さんが?…お父さんとお母さんはずっと一緒だったから」

「お母さんが亡くなるまで、小さい頃からずうっと、幼馴染として結婚したの、いまどき珍しいよね、こんな夫婦」

「いやいや素敵だよ、ずっと一緒で、いいお父さんといいお母さんで」

「お父さんがね、Kさんのこと言ってたわ、命の恩人だって、お父さんってね、ふだんは普通に優しいんだけど、たまに自分がわからなくなることあるの、Kっていう家族ができて、こんなしょうもない俺を癒してくれたって」

「×△×、ワンワン!!」

その時、マーブルが人間の声を発したような言葉と不可思議な現象が起きた。

そして、丸いビーダマのような瞳は夜の暗闇で、青いカラーコンタクトを入れたかのように青く光った。

「Kさん、いまマーブルちゃん、人の言葉をしゃべったように聞こえたけど気のせいかな?」

「実は僕も気になっていたけど、由比さんと出会ってからなんだ、マーブルを肌身離さず見ていた僕だからわかるんだ。何か信号を送っているんだ」

「え?わたしが来てから?信号って、合図みたいなもの?」

「きっと、テレパシーみたいに伝えたいことがあるんだよ、僕がマーブルと出会った始めのころ、お腹の真中のやわらかいとこをなでたんだ、そうしたら…」

「そうしたら?」

「毎日僕にキスして起こしてくれたんだ、毎日同じ時間に目覚まし時計みたいに、犬の腹時計だよきっと」

「一度、マーブルちゃんに触ったら覚えてくれるの?」

「触れた温かかみから何かを伝えたいんだよ、由比さんはプレハブの家族だから信頼してるし、マーブルも由比さんのことが大好きなんだよ!」

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