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1章「運命の幕開け」

6話 それは目覚めの予兆……?

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「すごい……」

 リオンと一緒に訓練場に足を踏み入れたわたしは目の前の光景に目を瞬かせた。
 そこはまさしくゲームなどに出てくる武器の訓練場。
 様々な武具があり、広場のようなところには樽や的、カカシなど様々なものが置かれている。
 そこでは防具を身に纏ったたくさんの人たちが自身の武器の鍛錬に精を出していた。

「……お嬢! リオンさん!」

 その内の一人がわたしたちに気づき、大きく手を振った。
 ゲームの初期装備のようなザ・冒険者風の格好をしたお兄さん。きっと冒険者になりたての人に違いない。

「お嬢、体調よくなったんっすね」

 彼は剣を納めニコニコとわたしたちに歩み寄ってくる。
 その大きな声で他の人たちもこちらに気づいたようで、挨拶がわりに頭を下げていた。

「訓練の邪魔してごめんなさい。どうしても訓練場がみてみたくて、リオンに我が儘いって連れてきて貰ったの」
「私たちはすぐに屋敷に戻るから、気にせず訓練を続けて構わないよ」

 優しく部下に声をかけるリオン。
 リオンはクランメンバーからも一目置かれているらしく、次々といろんな人から声がかかっている。
 その隙にわたしはそっとリオンの側から離れ、訓練場のすぐ傍にある武器がたくさん立てかけてある棚を見た。

「剣に槍、弓、盾……ダガーもある」

 そこにはずらりと練習用の武器が並んでいた。
 どれもゲームの世界で見たものばかり。もしかすると「ドラゴンズ・サーガ」で見たジョブが多くあるのかもしれない。

「お嬢も興味あるんですか?」
「わっ!」

 さっきのお兄さんが後ろからひょこりと顔を覗かせた。

「うん、大きくなったらお父様みたいな冒険者になりたいんだ」
「マスターはオレの憧れなんですよ。オレも早く強くなってSランクの冒険者になるのが夢なんですよ」

 お兄さんは優しくわたしに色々な武器を教えてくれた。
 ふと訓練場に視線を戻すと、中央にリオンが立っているのが見えた。

「……リオンも戦うの?」
「リオンさんは元冒険者なんですよ。引退した今もこうしてオレらの手合わせとか面倒みてくれてるんです。サブリーダーのフィスさんは怖いんすけど、マスターとリオンさんは好きです」
「へぇ……」

 たくさんの人たちが一度にリオンに切り掛かっている。
 けれどリオンはシャツの袖を軽く捲り、木刀片手に軽く彼らの攻撃をいなしている。汗一つかかずに最小限の動きで戦う彼の姿は素直に格好良かった。

「ねぇ、リオン! わたしも混ざっていい!?」

 手すりから身を乗り出してリオンに声をかけると、彼はぎょっとした表情でこちらを見た。

「ダメだよ! まだリラは病み上がりなんだから!」
「一回だけ! 一回だけだからっ! ねぇっ、お願い!」

 声を張り上げてお願いすると、リオンは盛大にため息をついて最後の一人の攻撃をはじき返した。
 現役の冒険者十人ほどが束になってもリオンは呼吸一つ乱すことはなかった。

「一度、だけだからね。これが終わったら屋敷に帰るよ! いいね!」
「わかった! ありがとう!」

 了承を得ると、わたしは手近にあった木刀を手にリオンの元へ走っていく。

「お嬢、頑張って!」
「ありがとう!」

 これで冒険者へ一歩近づける。
 わたしは上機嫌に訓練場にたち、リオンと向かい合った。

「リラ、本当にやるのかい?」
「ええ、勿論。紳士に二言はないでしょう?」
「はぁ……本当に我が儘なお嬢様だ。いいよ、さぁ。どこからでも仕掛けておいで」
「思いっきり打ち込んでいいのね?」
「もちろん」

 リオンは余裕綽綽といった顔でわたしを見下ろしている。
 体格的にも彼に敵うはずがないと分かっているが、こうも明らかに下に見られていると燃えあがってくる。
 実際に剣を握るのはこれが初めて。
 両手で重い木刀をぎゅっと握り、リオンを真っ直ぐに見つめる。息を吸い、一呼吸つくと思い切り踏み込んだ。

「やあっ!」

 リオンに向けて思い切り振り下ろす。

「いい踏み込みだけど、振りが大きすぎる! それじゃあ剣に遊ばれているだけだよ!」

 それは軽々とリオンにはじき返されてしまった。

「わっ!」

 その衝撃にわたしは思わずよろける。
 その瞬間、びりっと脳内に電気のようなものが走った。

「——っ!?」

 頭から全身に走る電気のような痺れ。
 そして脳内によぎる映像。これは、前世の記憶――いや。前世の七海由良がやっていたゲームの記憶?
 最初に選択されているジョブ・剣士。その最初に入手できる攻撃スキル「突進突き」の映像だった。
 剣を上段に構え、腰を低く落とす。そして敵目がけて一直線に突進し、剣を突く――。

「あれ……」

 目を瞬かせた。
 この感覚。体に何かが馴染んだような不思議な感覚だった。
 握った木刀がさきほどよりも手に馴染んでいるような気がした。なんだかとても軽い。

「リラ、大丈夫かい? 強く弾きすぎてしまったかな」

 リオンが心配そうに見つめている。
 慌ててこちらに歩み寄ろうとする彼を、わたしは制した。

「ううん、なんでもないの。リオン、もう一回だけ打ち込んでみてもいい?」
「いいよ。どこからでも、どうぞ」

 もしかしたら、もしかして。
 わたしはリオンを見据えて、今一度木刀を構えた。
 ふっ、と息を止めると手は自然と上に向かい、足が引き、腰が落とされる。これはまさに「突進突き」のモーション。
 それはまるで自分の体ではないようで。
 敵をロックオンするように、リオンを真っ直ぐ見据えて剣を強く握りしめる。

「———っ」

 それを見たリオンの目の色が変わった。
 これはいけるかもしれない。そうして足を一歩踏み出そうとした瞬間だった。


「——リオンさん! マスターが!!」

 訓練場に大きな声が響いた。
 私は驚いて剣を下ろし、リオンを見る。彼も困惑気味に私を見つめていた。
 暗雲立ちこめる訓練場。穏やかに続くと思っていたわたしの日常は終わりを告げたのであった。
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