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1.「だいこうぶつ」
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この世を去ってしまった大切な人に会いたいと思ったことはありますか。
用意するものは、はがきを一枚と、筆記用具のみ。
はがきに書くことは以下のとおりです。
1.あなたの住所と名前
2.会いたい死者の名前と、その人と一緒に食べたいもの
その二つを書き終えたら、宛先を書かずにポストにはがきを投函して下さい。
二、三日待って宛先不明で手元に返送されなければ、成功です。
手紙を出したことすら忘れた頃に、死者と会える日時と場所が指定された招待状が届くでしょう。
その招待状を持っていると、あの世とこの世の境の三途の川にある小さな屋台「よみじや」へと誘われます。
蜃気楼のように現れる屋台――「よみじや」が、あなたと、死んでしまった大切な人とを繋いでくれることでしょう。
*
――深夜。薄暗い寝室。
ベッドの上に寝転びながらスマートフォンを弄る男の顔を淡い光が照らしている。
真夏の寝苦しい夜。中々寝付けずに、肝試しついでにネットで怖い話や都市伝説を調べていたところ、偶然この記事に辿り着いた。
「死者と会う方法」という文字が目に止まり読んでみると、明らかに嘘くさい内容にとんだ肩透かしを食らった気分だった。
「アホらし」
携帯を枕元に置いて仰向けに寝返りを打つ。
視界の端にオレンジ色の豆電球が揺れている。開けた窓からは夜風がそよぎ、カーテンが靡いている。
気づけば時刻は深夜二時半を回ろうとしているのに眠気は一向に襲ってくる気配がなく、数え切れない程の寝返りをずっと繰り返していた。
「……ダメだ。眠れない」
目を固く閉じ、遥か遠くにいるであろう睡魔に懸命に手を伸ばすが一向に意識が沈む様子はない。
このままではラチがあかないと、水でも飲みに行こうと自室を出て階段を降りた。
母親はとうに寝静まり、暗い室内の中台所の明かりを点ける。
耳をすませばボイラーや換気扇の音が妙に大きく聞こえる。少し離れたとはいえ生まれ育った我が家だというのに、何故夜になるとこうも不気味に感じてしまうのだろうかと不思議に思ったことは何度もあった。
冷たい麦茶で喉を潤し一息つくと、居間の隅に置かれた小さな仏壇に飾られた父の遺影と目があった。
その瞬間、ふと脳裏に蘇る先ほど読んだくだらない記事。
「……バカか」
一瞬妙な考えが過ぎった自分に思わず嘲笑を浮かべた。
あんな子供騙しに踊らされるなんて中学生くらいまでだ、と苦言を飲み込みように男はグラスに残っていた麦茶を一気に流し込む。
自室に戻り、ぼすりとベッドに体を沈ませながら部屋に入り込み心地よい夜風を感じながら目を閉じた。
やはりまだ睡魔は襲ってこないが、もう男は目を開けることなく暗闇の静寂に身を任せた。
用意するものは、はがきを一枚と、筆記用具のみ。
はがきに書くことは以下のとおりです。
1.あなたの住所と名前
2.会いたい死者の名前と、その人と一緒に食べたいもの
その二つを書き終えたら、宛先を書かずにポストにはがきを投函して下さい。
二、三日待って宛先不明で手元に返送されなければ、成功です。
手紙を出したことすら忘れた頃に、死者と会える日時と場所が指定された招待状が届くでしょう。
その招待状を持っていると、あの世とこの世の境の三途の川にある小さな屋台「よみじや」へと誘われます。
蜃気楼のように現れる屋台――「よみじや」が、あなたと、死んでしまった大切な人とを繋いでくれることでしょう。
*
――深夜。薄暗い寝室。
ベッドの上に寝転びながらスマートフォンを弄る男の顔を淡い光が照らしている。
真夏の寝苦しい夜。中々寝付けずに、肝試しついでにネットで怖い話や都市伝説を調べていたところ、偶然この記事に辿り着いた。
「死者と会う方法」という文字が目に止まり読んでみると、明らかに嘘くさい内容にとんだ肩透かしを食らった気分だった。
「アホらし」
携帯を枕元に置いて仰向けに寝返りを打つ。
視界の端にオレンジ色の豆電球が揺れている。開けた窓からは夜風がそよぎ、カーテンが靡いている。
気づけば時刻は深夜二時半を回ろうとしているのに眠気は一向に襲ってくる気配がなく、数え切れない程の寝返りをずっと繰り返していた。
「……ダメだ。眠れない」
目を固く閉じ、遥か遠くにいるであろう睡魔に懸命に手を伸ばすが一向に意識が沈む様子はない。
このままではラチがあかないと、水でも飲みに行こうと自室を出て階段を降りた。
母親はとうに寝静まり、暗い室内の中台所の明かりを点ける。
耳をすませばボイラーや換気扇の音が妙に大きく聞こえる。少し離れたとはいえ生まれ育った我が家だというのに、何故夜になるとこうも不気味に感じてしまうのだろうかと不思議に思ったことは何度もあった。
冷たい麦茶で喉を潤し一息つくと、居間の隅に置かれた小さな仏壇に飾られた父の遺影と目があった。
その瞬間、ふと脳裏に蘇る先ほど読んだくだらない記事。
「……バカか」
一瞬妙な考えが過ぎった自分に思わず嘲笑を浮かべた。
あんな子供騙しに踊らされるなんて中学生くらいまでだ、と苦言を飲み込みように男はグラスに残っていた麦茶を一気に流し込む。
自室に戻り、ぼすりとベッドに体を沈ませながら部屋に入り込み心地よい夜風を感じながら目を閉じた。
やはりまだ睡魔は襲ってこないが、もう男は目を開けることなく暗闇の静寂に身を任せた。
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