カフェひなたぼっこ

松田 詩依

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メニュー2「きゅうそくのホットケーキ」

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「--社長。どうしましょう」

 経営者というものは常に選択を迫られる。
 この選択一つで、何十、何百の金が動くこともある。選択を誤れば明日の生活が危ぶまれることもある。
 経営者の肩には常に、従業員、そしてその家族の生活が重く重くのし掛かってくるのだ。
 幾ら部下達と相談を重ねたところで、最後に決めるのは責任者。結局は己との戦い。
 毎日見慣れたこの景色。ふと違う場所でじっくり考えを巡らせたいこともある。

「……一時間だけ時間をちょうだい」

 男は席を立ち会社を出た。
 オフィス街を抜け、ひより商店街に足を運ぶと相変わらずの賑わいが広がっている。
 午後三時半をまわり、主婦達が夕飯の買い出しに訪れている。八百屋や肉屋はここぞとばかりに声を張り上げ通行人に声をかける。
 近年中々見慣れない、下町情緒溢れるこの商店街を日和町の住人は皆愛していた。

「……いて」

 よそ見をしながら歩いていると、何かが肩にぶつかった。
 視線を戻すと、スーツ姿のサラリーマンが慌てた様子で男を見上げている。どうやら彼にぶつかってしまったのだろう。

「申し訳ない。こちらの前方不注意で……怪我はないですか?」
「い、いえっ! 大丈夫です! 申し訳ありませんでした!」

 サラリーマンは顔面蒼白になりながら深々と頭を下げると、慌てた様子でその場を走り去っていった。
 怪我がなくてよかったが、そこまで怯えなくても……。

「そんなに俺って怖い顔してるかね」

 ふと独り言を呟いた。
 首を傾げながら視線を前方にやると見慣れた店が見えたので「ああ……」と男の中で一つの予想が思い浮かんだ。
 もしかして今のサラリーマンは--。
 ふっ、と笑みを零しつつ一軒の店の前で足を止めた。
 「カフェひなたぼっこ」よく見慣れた看板の下。軒下の専用ベッドでひなたぼっこをしている看板猫と目があった。

「よぉ、トラ坊。今日も変わらずふてぶてしい顔してるな」

 俗にいう“ぶさかわ”な茶トラの猫に声をかけると、彼は不機嫌そうに一声鳴くと寝床を離れ散歩に出かけていった。
 自分が来るとこの猫は煩わしそうな顔をしてどこかへ立ち去っていく。もしかしたら嫌われているのかもしれない。
 男は尻尾を揺らして歩く虎次郎を見送り、店の扉を開けた。



 男--三浦俊史みうらとしふみは仕事に行き詰まると必ずこの店を訪れる。
 昔馴染みの男。瀬野弘太郎が一人営む、このこぢんまりとした小さなカフェへ。
 
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