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城へ
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ユリアが離宮を離れて数日、王と王妃、妃たちは避暑を終えて城へ戻ることになった。公爵から指導を浮けるために呼ばれていた親衛隊の者たちも王たちの護衛をしながら共に城へ戻る。
馬車が城門をくぐり車寄せで停まる。宰相に出迎えられて王と王妃、妃たちはそれぞれ馬車を降りると城へ入った。大臣や貴族たちが遠巻きに眺めているのがわかる。彼らはユリアの姿がないことに気づくとすぐにひそひそと噂話を始めた。
「相変わらず暇な方々ですこと」
それに気づいたイリーナが呆れたように呟く。王妃は苦笑すると軽くたしなめた。
「そのように言うものではありませんよ。きっとそれしか楽しみがないのでしょう」
いつもほとんど口を開かない王妃の口から出た辛辣な言葉。しかもそれはわりと大きな声で、遠巻きにしていた大臣や貴族たちの耳にしっかり届いていた。大臣や貴族たちは自分の耳がおかしくなったのかと目を丸くして顔を見合わせている。王は許可のない者が入ることができない王族の居住区に入ると堪えきれずに笑い出した。
「リーシュ!いきなりあんなことを言うものだから笑うのを堪えるのが大変だったじゃないか」
「それは、失礼いたしました」
笑いながら言う王に王妃が困ったように言う。妃たちもクスクスと楽しげに笑った。
「あのようなお顔、そうそう見るものではありませんわ」
「これに懲りて少し大人しくなってくださればいいのですけれど」
「あら、懲りないようなら今度は私たちも容赦しなくてよろしいでしょう?」
妃たちの言葉に王はほどほどにするようにと言うと、急ぎの仕事がないか確認するためヒギンズを連れて執務室に向かった。
「皆様も今日は移動でお疲れでしょう。ゆっくりお休みくださいね」
「王妃様もご無理なさらずに」
王妃の言葉に妃を代表してカリナが答える。王妃は小さく微笑みながらうなずくと先に部屋へと戻っていった。
翌日、城内は王妃たちの噂でざわめていた。今まで大臣や貴族たちに特に反応することがなかった王妃が辛辣な言葉を発したこと、離宮に共に行ったはずのユリアが戻っていないこと。ユリアのことは母親が急病いうことも広まっていたためすぐに納得されたようだが、王妃の変わりようは皆を驚かせるには十分だったようだ。
「陛下、今日の会議は荒れそうですね」
午後に予定されている御前会議の資料に目を通していると宰相のロベールが声をかける。王は苦笑すると肩をすくめた。
「そうだな。だが、王妃と妃たちが決めたことだ。それに、王妃と妃たちが不仲であるなどと私は公言したことはないし、王妃や妃たちもそうだろう?」
王の言葉に宰相は苦笑しながらうなずいた。事実、王妃と妃が不仲だという話は周りの者たちが勝手に思い込んで広めた噂にすぎないのだ。本人たちが王妃の、あるいは妃の陰口を言ったことなどないし、誰かの面前でいざこざを起こしたこともない。全て周りが誤解しているにすぎないこと。ただ、王妃も妃たちも積極的に否定しなかったし、わざと仲良くしているところを見せようとしなかっただけのことなのだ。
「それに、後宮内で不穏な動きがないことは何よりだろう?先代の後宮は荒れすぎだ。あんなものを見ていた私が同じ過ちを犯すはずがないだろう」
王の言葉に宰相は最もだとうなずいた。先王は優秀な王ではあったが、後宮をまとめることだけはできなかった。それは王妃の気性が激しく、発言力が強すぎたこと。他の妃たちを力で支配しようとしたことにある。しかも、おしとやかな妃では王妃に潰されてしまうからと妃として送られる令嬢はどれも気性が激しかったのだ。そんな荒れた後宮を見て育った王であるからこそ、妃として後宮にいれる令嬢は吟味に吟味を重ねたのだ。
「何はともあれ、後宮の件で文句を言われる筋合いはない」
「そうですね。ところで、ユリア様のお帰りはいつ頃になりそうですか?」
「そうだな。ギルバートの話ではやはり実家に戻ってからは体調も少し安定しているようだ。城に戻るよりは落ち着くまで実家においてやりたいが」
険しい表情で言う王に宰相は眉間に皺を寄せた。
「恐れながら、それは無用な憶測を生むかと」
「わかっている。まだはっきりしない以上、ユリアにも近々戻ってきてもらわなくてはならない。王妃や妃たちもそのことは理解しているから、早急に後宮内をユリアが過ごしやすいようにするだろう」
王の言葉には後宮内にいる不穏分子を一掃するという意味も込められていた。ユリアが過ごしやすいように、口の軽いものや王に敵対する者と通じる可能性があるものを締め出す。王妃は離宮を離れる前に王にそのことを伝え、了承を得ていた。
「しばらく貴族たちはユリア様どころではなさそうですね」
後宮にいる者は貴族たちの推薦で働いている者も少なくない。一体どれだけの者が後宮から出されるかわからないが、推薦した貴族たちも心中穏やかではないだろうと思われた。
「そういうことだ。そちらが落ち着く頃にはユリアのことも確定しているだろう。ロベール、今のうちに後宮の警備に当たる親衛隊の数を増やしておけ。城内の警備のほうも強化しておいてくれ」
「わかりました。以前から後宮の警備は増やしたいと思っておりましたし、城内の警備も手薄になるよりはいいでしょう」
にこりと笑ってうなずく宰相に王は頼むと異って微笑んだ。
馬車が城門をくぐり車寄せで停まる。宰相に出迎えられて王と王妃、妃たちはそれぞれ馬車を降りると城へ入った。大臣や貴族たちが遠巻きに眺めているのがわかる。彼らはユリアの姿がないことに気づくとすぐにひそひそと噂話を始めた。
「相変わらず暇な方々ですこと」
それに気づいたイリーナが呆れたように呟く。王妃は苦笑すると軽くたしなめた。
「そのように言うものではありませんよ。きっとそれしか楽しみがないのでしょう」
いつもほとんど口を開かない王妃の口から出た辛辣な言葉。しかもそれはわりと大きな声で、遠巻きにしていた大臣や貴族たちの耳にしっかり届いていた。大臣や貴族たちは自分の耳がおかしくなったのかと目を丸くして顔を見合わせている。王は許可のない者が入ることができない王族の居住区に入ると堪えきれずに笑い出した。
「リーシュ!いきなりあんなことを言うものだから笑うのを堪えるのが大変だったじゃないか」
「それは、失礼いたしました」
笑いながら言う王に王妃が困ったように言う。妃たちもクスクスと楽しげに笑った。
「あのようなお顔、そうそう見るものではありませんわ」
「これに懲りて少し大人しくなってくださればいいのですけれど」
「あら、懲りないようなら今度は私たちも容赦しなくてよろしいでしょう?」
妃たちの言葉に王はほどほどにするようにと言うと、急ぎの仕事がないか確認するためヒギンズを連れて執務室に向かった。
「皆様も今日は移動でお疲れでしょう。ゆっくりお休みくださいね」
「王妃様もご無理なさらずに」
王妃の言葉に妃を代表してカリナが答える。王妃は小さく微笑みながらうなずくと先に部屋へと戻っていった。
翌日、城内は王妃たちの噂でざわめていた。今まで大臣や貴族たちに特に反応することがなかった王妃が辛辣な言葉を発したこと、離宮に共に行ったはずのユリアが戻っていないこと。ユリアのことは母親が急病いうことも広まっていたためすぐに納得されたようだが、王妃の変わりようは皆を驚かせるには十分だったようだ。
「陛下、今日の会議は荒れそうですね」
午後に予定されている御前会議の資料に目を通していると宰相のロベールが声をかける。王は苦笑すると肩をすくめた。
「そうだな。だが、王妃と妃たちが決めたことだ。それに、王妃と妃たちが不仲であるなどと私は公言したことはないし、王妃や妃たちもそうだろう?」
王の言葉に宰相は苦笑しながらうなずいた。事実、王妃と妃が不仲だという話は周りの者たちが勝手に思い込んで広めた噂にすぎないのだ。本人たちが王妃の、あるいは妃の陰口を言ったことなどないし、誰かの面前でいざこざを起こしたこともない。全て周りが誤解しているにすぎないこと。ただ、王妃も妃たちも積極的に否定しなかったし、わざと仲良くしているところを見せようとしなかっただけのことなのだ。
「それに、後宮内で不穏な動きがないことは何よりだろう?先代の後宮は荒れすぎだ。あんなものを見ていた私が同じ過ちを犯すはずがないだろう」
王の言葉に宰相は最もだとうなずいた。先王は優秀な王ではあったが、後宮をまとめることだけはできなかった。それは王妃の気性が激しく、発言力が強すぎたこと。他の妃たちを力で支配しようとしたことにある。しかも、おしとやかな妃では王妃に潰されてしまうからと妃として送られる令嬢はどれも気性が激しかったのだ。そんな荒れた後宮を見て育った王であるからこそ、妃として後宮にいれる令嬢は吟味に吟味を重ねたのだ。
「何はともあれ、後宮の件で文句を言われる筋合いはない」
「そうですね。ところで、ユリア様のお帰りはいつ頃になりそうですか?」
「そうだな。ギルバートの話ではやはり実家に戻ってからは体調も少し安定しているようだ。城に戻るよりは落ち着くまで実家においてやりたいが」
険しい表情で言う王に宰相は眉間に皺を寄せた。
「恐れながら、それは無用な憶測を生むかと」
「わかっている。まだはっきりしない以上、ユリアにも近々戻ってきてもらわなくてはならない。王妃や妃たちもそのことは理解しているから、早急に後宮内をユリアが過ごしやすいようにするだろう」
王の言葉には後宮内にいる不穏分子を一掃するという意味も込められていた。ユリアが過ごしやすいように、口の軽いものや王に敵対する者と通じる可能性があるものを締め出す。王妃は離宮を離れる前に王にそのことを伝え、了承を得ていた。
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「わかりました。以前から後宮の警備は増やしたいと思っておりましたし、城内の警備も手薄になるよりはいいでしょう」
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