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警戒

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 翌日、王妃は早速妃たちを秘密の部屋に呼び出した。
「王妃様、何事かありましたか?」
王妃が妃たちを集めることはめったになく、カリナが心配そうに尋ねる。王妃はうなずくとユリアに目を向けた。
「新しく侍女として入ってきたアメリアという方、ユリア様の部屋付きになったのでしたかしら?」
「はい。アメリアでしたら私の部屋付きになっていますが、アメリアが何か?」
尋ねられたユリアが驚きながらうなずく。他の妃たちは察しがついたのか難しい顔をしていた。
「実は、新しく後宮で働く侍女は全員わたくしと顔を会わせるのですけど、アメリアはなんだか変な感じがして。今わたくしの侍女に身元を確認させているところなのです」
「王妃様の人を見る目は確かです。王妃様のおかげで大事にならずにすんだことは多々ありますし」
「侍女を潜り込ませるのは久しぶりですけどね。てっきりことごとく王妃様に見破られたから諦めたのかと思っていましたのに」
エリスをイリーナの言葉にユリアは青ざめた。
「ユリア様、まだアメリアが本当に謀のためにきたとは限りません。わたくしの侍女にも内密に調べるようにと言ってあります。ユリア様は何も心配しなくて大丈夫ですよ」
王妃がそう言ってユリアの隣に座りそっと手を握る。ユリアはうなずくと「なぜ私の部屋付きになったのでしょう」と尋ねた。
「それは、きっとユリア様が最近後宮にいらして、一番お若いからだと思います。わたくしたちの仲は悪いと思われていますもの。何かあっても後宮に入ったばかりのユリア様は誰にも相談できない。きっとそう思っているのだと思いますわ」
「こうして私たちは情報共有しているとも知らずにね」
にこりと笑ったエリスがユリアの肩にそっと手をおく。ユリアはうなずくと小さく息を吐いた。
「では、私は何も知らないふりをしていればいいのでしょうか?」
「ええ。何か確証が得られるまでは、何も知らない、気づかないふりをしてくださいませ。でも、何か気づいたことがあったらここで教えてくださいませね」
「わかりました」
王妃の言葉にユリアは落ち着きを取り戻してうなずいた。
「やはり、カイル様が登城されて帝王学を学ぶようになられたことが原因でしょうか」
イリーナの問いに王妃は曖昧にうなずいた。
「最近変わったことといったらそれくらしかありませんから。カイル様だけでなくキース様も後宮への出入りを許されています。たとえば、わたくしとキース様の醜聞などが噂されれば、最悪わたくしは実家に返され、キース様の名にも傷がつきます。そして、カイル様が次期国王として相応しいのか、という議論になりかねませんわね」
「あるいは、カイル様が国王として勤めを果たせなくなれば、次期国王となることはなくなりますわね」
カリナの言葉に王妃と妃たちはハッとした。
「カイル様に危険が迫っているかもしれませんね」
「兄に、それとなく伝えてみます」
「お願いいたします」
王妃の言葉にカリナはしっかりとうなずいた。
「それにしても、このようなはかりごとをなさるのはどなたでしょうね」
エリスの言葉に王妃は困ったように微笑んだ。
「野心をお持ちの貴族の方々はたくさんいらっしゃいますからね」
「まさか、カイル様に直接危害を加えたり、なんてことはなさらないですよね?」
不安そうな顔をして言うユリアに王妃たちは難しい顔をした。
「否定できませんわ。皆様、カイル様の身辺にもできるだけ気を配ってくださいませ」
「わかりました」
王妃の言葉に妃たちは真剣な表情でうなずいた。

 部屋に戻ったユリアはため息をついて寝室の窓際の椅子に座った。
 家にいる頃は貴族の謀や思惑など気にすることはなかった。だが、ここにきて自分はかなり恵まれていたのだと気づかされた。王妃や妃たちは常に貴族の思惑に気を配っている。そうしないと自分や、自分の大切なものを守れないのだと知った。それでも、今までそんなこととは無縁だったユリアにはまだどうしていいかわからないことだらけだった。
「私も、もっとしっかりしないと」
小さく呟いたユリアはふと兄と姉のことを思い出した。自分よりずっとしっかりしているふたり。兄は親衛隊の騎士だし、姉はまだ結婚してはいないが、子どもの頃から仲のいい許嫁がいた。
「お兄様とお姉様にお会いしたいわ」
「では会わせてあげようか?」
小さく呟いた言葉に返事がある。驚いてユリアが立ち上がると、そこには王が立っていた。
「陛下!おいでに気づかず申し訳ありません!」
慌ててユリアが頭を下げる。王がクスクス笑いながらユリアのそばに歩み寄った。
「私こそ急にきてすまなかったね。ところで、兄君と姉君に会いたいのかい?」
「あ、申し訳ありません」
真っ赤になってうつむくユリアに王は優しく微笑んだ。
「何も謝ることはないよ。王妃や妃たちも年に数回実家に帰ったり、家族と城で面会したりしているからね。ユリアの兄は、確か親衛隊にいたね?」
「はい。兄は親衛隊の騎士です」
「では呼びやすいな。今日の午後にでも呼んであげよう。後宮で会うことはできないから、城の応接室を使うといい」
王がそう言うとユリアは困惑しながらも嬉しそうに微笑んだ。
「陛下、本当によろしいのですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます!」
ユリアは嬉しそうに笑うと王に礼を言って頭を下げた。
 王がユリアの部屋を急に訪れたのは王妃から知らせがあったからだった。アメリアがユリアの部屋付きであることを告げたときの様子が気になった。心配だから声をかけてあげてほしいと言われたのだ。
「では、詳しいことは親衛隊のほうに知らせてから教えてあげるから」
「はい。ありがとうございます」
王の言葉にユリアは嬉しそうにうなずいた。
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