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カイルとのお茶会

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 キースとカイルを交えての晩餐はいつも以上に穏やかな時間だった。
 王とキースが楽しげに会話をし、それを王妃や妃たちが聞く。カイルは妃たちも感心するほど綺麗な所作で食事をしていた。
「カイル、王妃がお茶会に呼びたいのだそうだが、呼ばれてくれるかい?」
食事が終わったあと、珍しく紅茶を飲みながら歓談しているときに王がカイルに声をかけた。王妃のお茶会と聞いて妃たちは内心浮き足だってカイルを見つめた。
「僕がお邪魔してもいいのでしょうか?」
「王妃がぜひカイルを呼びたいと。妃たちも参加するお茶会だ。女性たちの中にカイルひとりでは心細いだろうから、キースも一緒に参加するといいよ」
「私もこのように美しい女性たちに囲まれれば緊張するのですか、喜んで出席させていただきます」
悪戯っぽく笑って言う王にキースが苦笑しながら答える。父の答えを聞くとカイルも王妃に向けて頭を下げた。
「王妃様、お茶会を楽しみにしています」
「わたくしも、楽しみしています」
短く答えた王妃は部屋に戻ることを告げると先に退室していった。

 それから数日後、正式に王妃からお茶会への招待があった。
「メイ、明後日は王妃様のお茶会よ。ドレスを準備してちょうだいね」
「わかりました。先日のお茶会の際、ドレスはレースが少ないほうがいいとおっしゃられていましたし、ユリア様がお家からお持ちになったピンクの細身のドレスはいかがでしょうか?」
「いいわね。それに白いストールをつけてちょうだいね」
ユリアの言葉にメイは笑顔でうなずいた。
「ユリア様、ドレスを新調なさるおつもりはございませんか?お家から持ってこられたドレスと、最初にお贈りいただいたドレス以外ありませんが」
「私は今のままで困らないのだけど、いけないかしら?」
「あまり頻繁に新調するのもいけませんが、時々でしたらよろしいかと。他のお妃様たちも数ヵ月に一度は新調なさっていますし」
「では今度陛下にお伺いしてみるわ」
メイの言葉にユリアはにこりと笑って言った。ユリア自身は家にいたころからあまり着飾ることに興味がなかったが、妃となったらあまり質素すぎてはいけないと母にも言われたのを思い出した。
「私はあまりドレスや装飾品に興味がないの。綺麗だなとは思うけど、そんなにたくさんほしいとは思わなくて。でも、妃になったらそれではいけないとお母様に言われていたのを思い出したわ。メイ、また何か気になることがあったら遠慮なく言ってね?」
「ユリア様は今のままでもお妃として十分と思いますよ?でも、そのように言っていただけると嬉しいです」
はみかむように頬を染めるメイにユリアは微笑んだ。

 キースをカイルを招待してのお茶会当日、ユリアはあまりレースのないすっきりした薄いピンクのドレスの上に白いストールを羽織って王妃の温室に出掛けた。
「ユリア様、ようこそおいでくださいました」
温室の前に立っていた侍女がユリアに頭を下げる。ユリアは微笑んでうなずくと、メイに部屋に戻っているよう言って温室の中に入った。
「王妃様、お招きくださいましてありがとうございます」
「あら、ユリア様、今日はいつもと少し感じが違うドレスをお召しですね」
椅子に座っていた王妃がユリアを見て立ち上がる。ユリアは王妃の言葉に少し照れ臭そうに頬を染めた。
「家から持ってきたドレスなのですが、レースが少ないので王妃様のバラを傷つけてしまうことがないかと思いまして」
前回のお茶会の際、バラを見ていたユリアは何度かドレスのレースがバラの棘に引っ掛かりそうになったのだ。王妃が大事に育てているバラを傷つけてはいけないと、今日はドレスもストールもレースが少ないものを選んだ。
「そのように気に掛けてくださってありがとうございます」
王妃は嬉しそうに微笑むとユリアを椅子に座らせた。
「そろそろ皆様いらっしゃると思いますわ」
そう言っているとちょうどカリナ、イリーナ、エリスがやってきた。
「王妃様、お招きくださいましてありがとうございます」
「ユリア様、ごきげんよう」
それぞれが挨拶を交わしていると、キースとカイルもやってきた。
「失礼いたします。王妃様、お招きいただきありがとうございます」
「いらっしゃいませ。さ、皆様テーブルにどうぞ」
にこりと笑う王妃にカイルは驚いた顔をしていたが、キースは王妃のことを知っていたようで特に反応はなかった。

「皆様、わたくしのお茶会に来てくださってありがとうございます。キース様とカイル様も、急なお誘いでしたのにありがとうございます。ここに入れるのはわたくしの侍女だけ。どうぞ気楽になさって、楽しんでくださいませ」
王妃の挨拶でお茶会が始まる。キースは今まで見てきた王妃とは別人のような王妃に驚いているカイルに声をかけた。
「カイル、大丈夫か?」
「あ、はい。少し驚いてしまっただけです」
「うふふ、驚かせてしまってすみません。わたくし、人前では緊張してしまって、うまく話せないんです。だからこうして時々侍女を入れないお茶会を開くのです」
カイルの言葉に王妃が苦笑しながら言う。カイルはそれを聞くと慌てて首を振った。
「すみません。でも、王妃様の笑ったお顔はとても素敵です」
「あら、お上手ですこと」
クスクス笑いながら王妃が白いレースの扇で口元を隠す。その様子は照れているようだった。
「カイル様、お城でのお勉強はいかがですか?」
そう尋ねたのはカリナだった。カリナはカイルの専属教師が兄であるのでとても気になるようだった。
「僕に帝王学を教えてくれる先生はカリナ様のお兄様と聞きました。とてもわかりやすく丁寧に教えてくださる先生です」
「そうですか。兄が何か困ったことをしたら教えてくださいませね?」
カイルの言葉にホッとしながらもカリナは何かあったら言ってほしいと言っていた。
「失礼いたします」
皆がそれぞれ歓談していると、王妃の侍女が王妃のそばにやってきた。
「王妃様、王弟殿下からケーキをいただきましたが、お出ししてよろしいでしょうか?」
「あら、そうなのですか?では、皆さんにお出ししてちょうだい。殿下、わざわざ申し訳ありません。ありがとうございます」
「いいえ。皆様には妻がいつもご迷惑をおかけしていますから」
そう言うキースに王妃は首を振った。
「殿下が謝ることではありませんわ。それに、奥様はご子息を3人も生まれています。貴族の娘であるならば、これほど誇れることはないでしょう」
王妃の言葉に、そこだけは同意するようで妃たちもうなずいていた。
「それに、あの方がいなかったらカイル様にお会いできませんでしたもの」
そう言って微笑む王妃は慈愛に満ちた表情をしていた。
「ありがとうございます。王妃様になら、カイルを安心してお任せできます」
キースはそう言うと隣に座る我が子の頭を優しく撫でた。
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