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3、夏祭り

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 まだまだ残暑が厳しい日、俺はバイト先の神路神社の境内にホースで水をまいていた。打ち水というらしいが、こう暑いと焼け石に水状態だった。
 そんなうだるような暑さの中、神様は社殿と鳥居をふわふわと行ったり来たりしていた。ここ最近ずっとそんな感じで、そわそわしているように見えた。
「隆幸さん、神社でなんかあるんですか?」
我慢できなくなって尋ねると、宮司の隆幸さんは一瞬何のことかわからないような顔をしたが、すぐに「ああ!」と笑った。
「お祭りがあるんだよ。屋台も出てね。人も結構くんるだよ」
「祭り。だからなんかそわそわしてるのか」
納得してふわふわ浮いてる神様に目を向けると、隆幸さんも俺の視線を追った。
「そわそわ?神様が?」
「いつもは社殿の屋根にいるんすけど、最近は鳥居と行ったり来たりしてなんか落ち着かないから。祭り、神様も楽しみなんすね」
俺が言うと隆幸さんはなんとも嬉しそうに笑った。
「冬馬くんが来てくれるようになってから、神様の様子を聞けるのが僕は嬉しいよ」
「そんな、別にたいしたことじゃ…」
「きみにはたいしたことなくても、僕にはたいしたことだよ」
あまり褒められたり礼を言われたりすることがない俺は顔を背けて頭を掻いた。耳まで熱くて隆幸さんの顔が見れなかった。
「お祭りの日は屋台を出す人たちが色々手伝ってくれるんだ。冬馬くんにも手伝ってもらうけど、お祭りが始まる前にあがっていいよ」
「え、でも…」
「だから、お母さんと一緒にお祭りにおいで。せっかくのお祭りなんだから、お母さんと楽しむといいよ」
隆幸さんの言葉に俺は唇を噛んで頭を下げた。そうしないと泣けてきそうだったから。
 俺は見た目がこんなだし、人と話すのは苦手だから、隆幸さんみたいに優しく接してくれる人はいなかった。

 お祭り当日、神様はあちこちふわふわ飛びながら屋台の準備を眺めたり、木々にかけられた紅白幕を揺らしたりといつも以上にそわそわしていた。俺は社殿の掃除を終えると早々に帰っていいと言われて家に帰った。
 家に帰ると母親が珍しく家にいた。いくつかのパートを掛け持ちしている母親だが、今日は夕方で仕事が終わったそうだ。
「あのさ、神社の祭り、行かないか?」
俺が躊躇いながらおずおずと誘うと、母親は驚いた顔をしたが、嬉しそうに笑ってくれた。
 暗くなってから、俺は母親と神路神社に行った。たくさんの提灯に灯りがついていて、少し離れたところからでも賑やかなのがわかった。境内には屋台が並び、子どもたちがクジや金魚すくいなどを楽しむ。大人たちは焼きそばやたこ焼きなどを買っていた。
 俺はこういう祭りの屋台は初めてだったから、とりあえず人の多さに驚いた。気を抜くと人混みにのまれそうになる。母親はそんな俺の手を引いて焼きそばとフライドポテトを買うと空いているベンチに座った。屋台なんて久しぶりだと笑う母親と食べる焼きそばは美味かった。
 ふと視線を上げると、神様はいつものように社殿の屋根に座って境内の様子を眺めていた。祭りが嬉しいのか、集まったたくさんの人を見るのが楽しいのか、神様はいつも以上ににこにこしていた。
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