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次の世
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少し躊躇ったその小さな唇が震えた・・・・。
「・・・・あき・・・・・あきらっ!!!!!!!!!!」
ドクン・・・
「「「!!・・・・」」」
ロスウェルとハリー、そしてレオンが名を呼んだ時、テオドールの身体が脈を打ったように光が淀んだ。
「・・・アキラ・・・?誰だ・・・・?」
オリヴァーは真っ赤な目をしながら口にする。
リリィベルが呼んだその名は、この世界には馴染みなく聞いたこともない。
ただ、ロスウェルに姿を変えてもらったままだったテオドールとリリィベルが、その名を口にした時、
まるで別人のように思えた。黒髪の自分の息子は・・・・。
「あきっ・・・・あきっ・・・ねぇあきっ!!!!起きてっっ・・・・・。
ねぇっ・・・どこにも行かないでっ!!!!」
暁は、どんな思いで私を抱いていた・・・?
冷たくなった私を、腕に抱いて眠ったあの光景が鮮明に蘇る。
私は、冷たくなるあなたの手に、震えと涙が止まらなくて、
きっと、暁も・・・そうだったんだよね・・・・?
「ぁきぃっ!!!!あきぃぃ!!!!!!!!!!」
その名を呼んだことで、リリィベルの我を忘れたようにテオドールの身体を揺すった。
≪・・・・ああ・・・・まったく・・・・≫
「・・・・っ・・・アレクシスっ・・・・。」
テオドールの前にアレクシスの姿が現れた。アレクシスは神々しく光を放ってそこにいた。
眩しくて少し目が眩んだ。
≪・・・魔術師とは厄介な‥‥‥≫
「・・・なんだっ・・・魔術師がなんだっ・・。」
涙を乱暴に拭った。その涙に濡れる瞳は震えている。
真実が胸を締め付ける。
もう2度と‥‥死に別れなどしたくない‥‥。
《その名を口に出させるとは‥‥お前達は一体、この世界のなんだ?》
アレクシスの問い掛けに、眉を顰めた。
「なんだっ‥‥うぐっっ‥‥‥おまっ‥‥‥‥」
アレクシスに、初めの時のように頭を掴まれた。
《‥‥‥お前は、記憶を取り戻した。》
「ってぇよっ‥‥はなせっ‥‥」
ギリギリとこめかみが締め付けられる。
アレクシスの表情は呆れていたのだ。
《そなたに礼蘭の記憶を返したのは私。
だが、そなたら2人とも、大事なことを‥‥見失うな。》
「っ‥‥ぁん?っ‥‥」
掴んだ頭、傷が出来たはずの箇所。
アレクシスは、その傷に触れた。
《もう‥‥‥前世は終わったのだ。》
「っ‥‥‥は‥‥‥っ‥‥‥‥」
そう言われた途端に、アレクシスの手を掴んでいたテオドールの身体の力が一気に抜けた。
そして、また、涙が溢れた。
《そなたらは‥‥今を生きている‥‥‥。
礼蘭の希望、お前の後悔‥苦痛‥‥‥絶望‥‥‥‥。
もう、手放せ‥‥‥。
そなた達は、テオドールと、リリィベル‥‥なのだろう?》
唇が悔し気に歪む。その頬を流れる涙。
《これが、最後の涙だ‥‥‥せっかく記憶を取り戻し、運命に結ばれ、そなたらは再び出会いを果たした。
そなたらが愛を育むのは、これから先の未来だ。前世をやり直したかったのは分かっている。
だが、なんでも同じでは無い。
生まれ育った環境、出逢うまでの時間‥‥。
前世とは違うだろう‥‥だが、それを悲しむのはやめろ‥‥。
見ていた‥‥ずっと‥‥そなたらの結婚式‥‥‥。
私が見届け、星と月の祝福を降らせた‥‥。
どうしようもないのだ。前世は終わった‥‥‥。
もう、眠らせてやれ‥‥‥暁も、礼蘭も‥‥‥。
心配するな、奪うことは無い‥‥‥。
だが、そなたらの悲しみが負の連鎖を呼ぶ。
2度と、離れないのだろう‥‥?
つらかったであろうが‥‥‥そなたらはテオドールとリリィベルで、もう新しい人生なのだ。
悲しみばかりに囚われてはいけない‥‥‥。
幸せを夢見ながら心の奥で、前世ばかり跡を追う‥‥‥。
もう、終わったのだ‥‥‥。》
優しい声が、テオドールに大粒の涙を流させた。
礼蘭を失った時の無念が、渦巻いて消えなかった。
ずっと不安だったけれど‥‥‥。
もう、終わった‥‥‥‥。
あぁ、そうだな‥‥‥。
暁と礼蘭は生まれ変わり、新しい人生が始まった。
この世界では、テオドールとリリィベルなのだから‥‥。
「おれのっ‥‥罪はっ‥‥‥っ‥‥‥」
《お前の罪は、死を受け止められず自殺を繰り返した。
だが、そなたは、この世で礼蘭を待ち続けた。リリィベルに生まれ変わった礼蘭を‥‥。待っていたな‥‥もう、十分だ。
そして、礼蘭は、長い間そなたを待ち続け、自らを封印した。
もはや、そんな愛ゆえの所業を誰が罰せると言うのだ‥‥。
私には、あの子を罰する事は、出来ない‥‥‥。》
「ぅっ‥‥‥ぅぅぅぅっ‥‥‥っ‥‥‥」
堪えきれない涙と声が溢れる。
テオドールは、深い悲しみと、これまでの礼蘭と歩んだ前世を手放す事が出来なかった。
そう思い続け生きる事は、この人生には不要だった。
《もう、これ以上悲しむな‥‥。そなたらは再び出会ったのだから‥‥そして願いは叶った‥‥‥。》
「だけどっ‥‥‥わっ‥‥‥忘れられないっ‥‥‥ぅぐっ‥‥ぅぅぅ‥‥っ‥‥‥俺を守ってっ‥‥礼蘭がっ‥‥‥っ‥‥‥」
《ああ‥‥皆、そうであろうな。愛する者を失って‥‥平気な者は居らぬだろう‥‥。だが、もう時は過ぎた。
どんな経緯であれ、それは果たされた‥‥。
お前は、如月 暁は、生を全うしただろう‥?》
「くやっ‥‥し‥‥っ‥‥礼蘭がっ‥‥‥ふぅぅっ‥‥礼蘭が消えてっ‥‥‥俺だけが‥っ‥‥‥」
《ああ、礼蘭が、そなたの幸せを願ったのだ‥‥‥。
星に、願えば‥‥‥叶う望みもある‥‥。
神を信じぬそなたの夢は、叶わなかった。
だが、礼蘭なら、リリィベルなら信じられるだろう‥‥?》
「ぅぅぅぅっ‥‥‥‥っ‥‥‥‥」
瞳をぎゅっと閉じた。それでも涙は溢れてくる。
礼蘭を失ったあの時のように、枯れることのない涙。
≪この世界で、リリィベルと出会った時を思い出せ・・・・。
確かに、そなたらは前世となんら変わらぬ姿だった。お前にはすぐに分かった。
魂もだ。お前はそれほどに、礼蘭を懇願していた。喉から手がでる程・・・・。
けれど、リリィベルと過ごした日々があるだろう。
以前お前に伝えたな?あれはお前とリリィベルが出会った夜・・・・。
どんな事を思い出しても、それでも壊れても構わぬと・・・。それぐらい強くなると誓ったであろう。
私は、そなたの願いを聞き入れた。けれどリリィベルはそれでもお前の身を案じ自ら身を削った。
だからあの日・・・。そなたら2人、同時に記憶を取り戻した。
それくらい・・・リリィベルはそなたを愛している。
前世を繰り返してはいけないと言ったであろう?
リリィベルに、同じ未来を与えてくれるなよ?≫
「ぐっ・・絶対っ・・・そんな事しないっ・・・・・俺はっ・・・・
リリィと生きられるならっ・・・・」
スッとテオドールはアレクシスの手から解放された。
へたりこむように座り込んだ。
「絶対だ・・・・。もう絶対っ・・・離れない・・・・天には返さないっ・・・・。」
その言葉にアレクシスはうっすらと笑みを浮かべた。
≪なら・・・前世に執着するのは・・・これで最後だ・・・・。
さすれば、お前が望むすべてが、叶うであろう・・・・。≫
その言葉に、テオドールはアレクシスを見上げた。
アレクシスの白い宝石ムーンストーンが白い光を放ち光り輝く。
≪ああ・・・リリィベルは、お前がその手で解放しろ・・・・。≫
「え・・・?でもっ・・俺・・・・・・」
確か・・・死んだって・・・・。
≪ふっ・・・・はははははっ・・・・私に命を操る力は初めからない。
さっさと帰れ?リリィベルが、そなたを呼んでいる。だが、暁ではなく、テオドールとして・・・・。
この次の世を全うせよ・・・。またここから始めればよい。
生きてさえいれば・・・失うモノもあり、得るモノもあると、肝に銘じておけ・・・・。≫
テオドールはハッと目を見開いた。
「っ・・・じゃぁっ!!!!俺が死んだっていうのはっ!!!!!!」
そう口にした時、アレクシスの妖艶なウィンクが見えた。
そして目の前が真っ白な光で覆われた。
「ざけんなアレクシス!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガバァ!!っとテオドールの身体は飛び起きた。
「っ・・・テオっ・・・・テオぉっ!!!!」
飛び起きたテオドールに、リリィベルはすぐに抱き着いた。
「うぉっ・・・あれっ・・・・?俺、寝てた?」
泣き続けているリリィベルを軽く抱き寄せ周りを見た。
同じく涙を流したマーガレットと、その肩を抱く赤い目のオリヴァー。
そして、疲れ果てた顔をした、三人の魔術師。
「・・・寝てたなんて・・・軽く言ってくれますね・・・・。まったく・・・・
貴方という人は・・・・・。」
額に汗をかき、その頬を伝う。ロスウェルがガクッと膝から崩れ落ちた。
「ロスウェル様!!!」
ハリーがすかさずロスウェルの身体を支えた。
「ぁ・・・・え・・・・?」
テオドールは、頭に傷があれど、血は止まっている。
だが、目覚めた時、その傷が痛んだ。
「い・・・ってぇ・・・・・。」
テオドールは後頭部をさすった。
「ダメですっ・・・傷がっ・・・傷がずっと・・っぐすっ・・治らなくてっ・・・・。」
リリィベルが、テオドールの腕の中から見上げた。
「・・・ぁ・・・そうなんだ・・・・。」
やっぱり、事故は起こっていた。けれど、疲れ果てたロスウェル達を見ると、
やはりアレクシスの力によって、魔術師達の力が及ばぬ異空間へ連れ去られ意識が戻らなかった。
差し詰めそんなところだろう。それなのに、ロスウェル達は力を尽くし守ってくれていた。
「テオっ・・・テオドールっ!!!!」
マーガレットが堪らずテオドールによろけながらも近寄った。
「母上・・・・ご心配をかけてすみません・・・っ・・・。」
涙を流す母を見て、胸が苦しかった。
「あなたがっ・・・死んでしまうかとっ・・・死んでしまうかと思ったわっ・・・。
冷たくなっていくのをっ・・っうぅぅっ・・・・。」
言葉にならず、ベッドの上で突っ伏した。
オリヴァーが側により、マーガレットの背を撫でた。
「・・・お前が冷たくなってしまうから・・・ロスウェル達が必死で時を遅らせる魔術をかけた。
これは、結婚式前夜もだ・・・。だが、お前の身体がどんどん冷たくなるから・・・。
リリィが・・・ずっとお前の手を握っていた・・・・。」
「・・・そう・・・だったのか・・・・・。」
腕の中ですすり泣くリリィベルを見下ろし、テオドールは優しく笑みを浮かべた。
「ありがとう・・・リリィ・・心配かけてごめんな?もう大丈夫だ・・・・。」
「っ・・・大丈夫ではありませんっ!!・・・まだ傷が癒えておりませんっ・・・・。」
その胸を小さな手がトンと叩く。それを受け止めテオドールはぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫なんだ・・・・本当に・・・大丈夫だよ・・・。リリィ・・・・・。」
それから数十分もの間、妻と母は泣き続けた。
その傍らで、ハリーがロスウェルに気力回復の魔術を送り続ける。
ロスウェルは干からびそうだった。万が一に備えて作り出した魔術は、二度もその機会を迎えた。
「・・・はぁ・・・っ・・・ありがとうハリー・・・お前もよくやってくれた。
もう大丈夫だ。」
ロスウェルはハリーの肩に手を置き、弱弱しく笑みを浮かべた。
「ロスウェル様の魔力がこんなに弱々しくなるなんてっ・・・どれだけ力を注いだんですかっ!」
「皇太子の一大事なのだ・・・。私が力を尽くさないでどうする?・・・それに、こうして殿下は目を覚ましてくれた。後はもう・・・大丈夫そうだから、適当に治癒魔術・・・かけといて?」
そういうとロスウェルは後ろに倒れこみ、安らかな笑みを浮かべて眠りについた。
まるでこちらが死を迎えたようだった。
「・・・テオっ・・・本当に大丈夫っ・・・?」
泣き腫らした目尻で、リリィベルは再度テオドールに問いかけた。
その顔に、テオドールは優しく微笑む。
そして・・・・思い返すのだった。
もう、悲しむのは・・・・終わりにしようと・・・・・・。
「・・・・あき・・・・・あきらっ!!!!!!!!!!」
ドクン・・・
「「「!!・・・・」」」
ロスウェルとハリー、そしてレオンが名を呼んだ時、テオドールの身体が脈を打ったように光が淀んだ。
「・・・アキラ・・・?誰だ・・・・?」
オリヴァーは真っ赤な目をしながら口にする。
リリィベルが呼んだその名は、この世界には馴染みなく聞いたこともない。
ただ、ロスウェルに姿を変えてもらったままだったテオドールとリリィベルが、その名を口にした時、
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「あきっ・・・・あきっ・・・ねぇあきっ!!!!起きてっっ・・・・・。
ねぇっ・・・どこにも行かないでっ!!!!」
暁は、どんな思いで私を抱いていた・・・?
冷たくなった私を、腕に抱いて眠ったあの光景が鮮明に蘇る。
私は、冷たくなるあなたの手に、震えと涙が止まらなくて、
きっと、暁も・・・そうだったんだよね・・・・?
「ぁきぃっ!!!!あきぃぃ!!!!!!!!!!」
その名を呼んだことで、リリィベルの我を忘れたようにテオドールの身体を揺すった。
≪・・・・ああ・・・・まったく・・・・≫
「・・・・っ・・・アレクシスっ・・・・。」
テオドールの前にアレクシスの姿が現れた。アレクシスは神々しく光を放ってそこにいた。
眩しくて少し目が眩んだ。
≪・・・魔術師とは厄介な‥‥‥≫
「・・・なんだっ・・・魔術師がなんだっ・・。」
涙を乱暴に拭った。その涙に濡れる瞳は震えている。
真実が胸を締め付ける。
もう2度と‥‥死に別れなどしたくない‥‥。
《その名を口に出させるとは‥‥お前達は一体、この世界のなんだ?》
アレクシスの問い掛けに、眉を顰めた。
「なんだっ‥‥うぐっっ‥‥‥おまっ‥‥‥‥」
アレクシスに、初めの時のように頭を掴まれた。
《‥‥‥お前は、記憶を取り戻した。》
「ってぇよっ‥‥はなせっ‥‥」
ギリギリとこめかみが締め付けられる。
アレクシスの表情は呆れていたのだ。
《そなたに礼蘭の記憶を返したのは私。
だが、そなたら2人とも、大事なことを‥‥見失うな。》
「っ‥‥ぁん?っ‥‥」
掴んだ頭、傷が出来たはずの箇所。
アレクシスは、その傷に触れた。
《もう‥‥‥前世は終わったのだ。》
「っ‥‥‥は‥‥‥っ‥‥‥‥」
そう言われた途端に、アレクシスの手を掴んでいたテオドールの身体の力が一気に抜けた。
そして、また、涙が溢れた。
《そなたらは‥‥今を生きている‥‥‥。
礼蘭の希望、お前の後悔‥苦痛‥‥‥絶望‥‥‥‥。
もう、手放せ‥‥‥。
そなた達は、テオドールと、リリィベル‥‥なのだろう?》
唇が悔し気に歪む。その頬を流れる涙。
《これが、最後の涙だ‥‥‥せっかく記憶を取り戻し、運命に結ばれ、そなたらは再び出会いを果たした。
そなたらが愛を育むのは、これから先の未来だ。前世をやり直したかったのは分かっている。
だが、なんでも同じでは無い。
生まれ育った環境、出逢うまでの時間‥‥。
前世とは違うだろう‥‥だが、それを悲しむのはやめろ‥‥。
見ていた‥‥ずっと‥‥そなたらの結婚式‥‥‥。
私が見届け、星と月の祝福を降らせた‥‥。
どうしようもないのだ。前世は終わった‥‥‥。
もう、眠らせてやれ‥‥‥暁も、礼蘭も‥‥‥。
心配するな、奪うことは無い‥‥‥。
だが、そなたらの悲しみが負の連鎖を呼ぶ。
2度と、離れないのだろう‥‥?
つらかったであろうが‥‥‥そなたらはテオドールとリリィベルで、もう新しい人生なのだ。
悲しみばかりに囚われてはいけない‥‥‥。
幸せを夢見ながら心の奥で、前世ばかり跡を追う‥‥‥。
もう、終わったのだ‥‥‥。》
優しい声が、テオドールに大粒の涙を流させた。
礼蘭を失った時の無念が、渦巻いて消えなかった。
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あぁ、そうだな‥‥‥。
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「おれのっ‥‥罪はっ‥‥‥っ‥‥‥」
《お前の罪は、死を受け止められず自殺を繰り返した。
だが、そなたは、この世で礼蘭を待ち続けた。リリィベルに生まれ変わった礼蘭を‥‥。待っていたな‥‥もう、十分だ。
そして、礼蘭は、長い間そなたを待ち続け、自らを封印した。
もはや、そんな愛ゆえの所業を誰が罰せると言うのだ‥‥。
私には、あの子を罰する事は、出来ない‥‥‥。》
「ぅっ‥‥‥ぅぅぅぅっ‥‥‥っ‥‥‥」
堪えきれない涙と声が溢れる。
テオドールは、深い悲しみと、これまでの礼蘭と歩んだ前世を手放す事が出来なかった。
そう思い続け生きる事は、この人生には不要だった。
《もう、これ以上悲しむな‥‥。そなたらは再び出会ったのだから‥‥そして願いは叶った‥‥‥。》
「だけどっ‥‥‥わっ‥‥‥忘れられないっ‥‥‥ぅぐっ‥‥ぅぅぅ‥‥っ‥‥‥俺を守ってっ‥‥礼蘭がっ‥‥‥っ‥‥‥」
《ああ‥‥皆、そうであろうな。愛する者を失って‥‥平気な者は居らぬだろう‥‥。だが、もう時は過ぎた。
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「くやっ‥‥し‥‥っ‥‥礼蘭がっ‥‥‥ふぅぅっ‥‥礼蘭が消えてっ‥‥‥俺だけが‥っ‥‥‥」
《ああ、礼蘭が、そなたの幸せを願ったのだ‥‥‥。
星に、願えば‥‥‥叶う望みもある‥‥。
神を信じぬそなたの夢は、叶わなかった。
だが、礼蘭なら、リリィベルなら信じられるだろう‥‥?》
「ぅぅぅぅっ‥‥‥‥っ‥‥‥‥」
瞳をぎゅっと閉じた。それでも涙は溢れてくる。
礼蘭を失ったあの時のように、枯れることのない涙。
≪この世界で、リリィベルと出会った時を思い出せ・・・・。
確かに、そなたらは前世となんら変わらぬ姿だった。お前にはすぐに分かった。
魂もだ。お前はそれほどに、礼蘭を懇願していた。喉から手がでる程・・・・。
けれど、リリィベルと過ごした日々があるだろう。
以前お前に伝えたな?あれはお前とリリィベルが出会った夜・・・・。
どんな事を思い出しても、それでも壊れても構わぬと・・・。それぐらい強くなると誓ったであろう。
私は、そなたの願いを聞き入れた。けれどリリィベルはそれでもお前の身を案じ自ら身を削った。
だからあの日・・・。そなたら2人、同時に記憶を取り戻した。
それくらい・・・リリィベルはそなたを愛している。
前世を繰り返してはいけないと言ったであろう?
リリィベルに、同じ未来を与えてくれるなよ?≫
「ぐっ・・絶対っ・・・そんな事しないっ・・・・・俺はっ・・・・
リリィと生きられるならっ・・・・」
スッとテオドールはアレクシスの手から解放された。
へたりこむように座り込んだ。
「絶対だ・・・・。もう絶対っ・・・離れない・・・・天には返さないっ・・・・。」
その言葉にアレクシスはうっすらと笑みを浮かべた。
≪なら・・・前世に執着するのは・・・これで最後だ・・・・。
さすれば、お前が望むすべてが、叶うであろう・・・・。≫
その言葉に、テオドールはアレクシスを見上げた。
アレクシスの白い宝石ムーンストーンが白い光を放ち光り輝く。
≪ああ・・・リリィベルは、お前がその手で解放しろ・・・・。≫
「え・・・?でもっ・・俺・・・・・・」
確か・・・死んだって・・・・。
≪ふっ・・・・はははははっ・・・・私に命を操る力は初めからない。
さっさと帰れ?リリィベルが、そなたを呼んでいる。だが、暁ではなく、テオドールとして・・・・。
この次の世を全うせよ・・・。またここから始めればよい。
生きてさえいれば・・・失うモノもあり、得るモノもあると、肝に銘じておけ・・・・。≫
テオドールはハッと目を見開いた。
「っ・・・じゃぁっ!!!!俺が死んだっていうのはっ!!!!!!」
そう口にした時、アレクシスの妖艶なウィンクが見えた。
そして目の前が真っ白な光で覆われた。
「ざけんなアレクシス!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガバァ!!っとテオドールの身体は飛び起きた。
「っ・・・テオっ・・・・テオぉっ!!!!」
飛び起きたテオドールに、リリィベルはすぐに抱き着いた。
「うぉっ・・・あれっ・・・・?俺、寝てた?」
泣き続けているリリィベルを軽く抱き寄せ周りを見た。
同じく涙を流したマーガレットと、その肩を抱く赤い目のオリヴァー。
そして、疲れ果てた顔をした、三人の魔術師。
「・・・寝てたなんて・・・軽く言ってくれますね・・・・。まったく・・・・
貴方という人は・・・・・。」
額に汗をかき、その頬を伝う。ロスウェルがガクッと膝から崩れ落ちた。
「ロスウェル様!!!」
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「ぁ・・・・え・・・・?」
テオドールは、頭に傷があれど、血は止まっている。
だが、目覚めた時、その傷が痛んだ。
「い・・・ってぇ・・・・・。」
テオドールは後頭部をさすった。
「ダメですっ・・・傷がっ・・・傷がずっと・・っぐすっ・・治らなくてっ・・・・。」
リリィベルが、テオドールの腕の中から見上げた。
「・・・ぁ・・・そうなんだ・・・・。」
やっぱり、事故は起こっていた。けれど、疲れ果てたロスウェル達を見ると、
やはりアレクシスの力によって、魔術師達の力が及ばぬ異空間へ連れ去られ意識が戻らなかった。
差し詰めそんなところだろう。それなのに、ロスウェル達は力を尽くし守ってくれていた。
「テオっ・・・テオドールっ!!!!」
マーガレットが堪らずテオドールによろけながらも近寄った。
「母上・・・・ご心配をかけてすみません・・・っ・・・。」
涙を流す母を見て、胸が苦しかった。
「あなたがっ・・・死んでしまうかとっ・・・死んでしまうかと思ったわっ・・・。
冷たくなっていくのをっ・・っうぅぅっ・・・・。」
言葉にならず、ベッドの上で突っ伏した。
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「・・・お前が冷たくなってしまうから・・・ロスウェル達が必死で時を遅らせる魔術をかけた。
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「・・・そう・・・だったのか・・・・・。」
腕の中ですすり泣くリリィベルを見下ろし、テオドールは優しく笑みを浮かべた。
「ありがとう・・・リリィ・・心配かけてごめんな?もう大丈夫だ・・・・。」
「っ・・・大丈夫ではありませんっ!!・・・まだ傷が癒えておりませんっ・・・・。」
その胸を小さな手がトンと叩く。それを受け止めテオドールはぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫なんだ・・・・本当に・・・大丈夫だよ・・・。リリィ・・・・・。」
それから数十分もの間、妻と母は泣き続けた。
その傍らで、ハリーがロスウェルに気力回復の魔術を送り続ける。
ロスウェルは干からびそうだった。万が一に備えて作り出した魔術は、二度もその機会を迎えた。
「・・・はぁ・・・っ・・・ありがとうハリー・・・お前もよくやってくれた。
もう大丈夫だ。」
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「ロスウェル様の魔力がこんなに弱々しくなるなんてっ・・・どれだけ力を注いだんですかっ!」
「皇太子の一大事なのだ・・・。私が力を尽くさないでどうする?・・・それに、こうして殿下は目を覚ましてくれた。後はもう・・・大丈夫そうだから、適当に治癒魔術・・・かけといて?」
そういうとロスウェルは後ろに倒れこみ、安らかな笑みを浮かべて眠りについた。
まるでこちらが死を迎えたようだった。
「・・・テオっ・・・本当に大丈夫っ・・・?」
泣き腫らした目尻で、リリィベルは再度テオドールに問いかけた。
その顔に、テオドールは優しく微笑む。
そして・・・・思い返すのだった。
もう、悲しむのは・・・・終わりにしようと・・・・・・。
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そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
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