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披露宴

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「さぁ、今日は皇太子テオドールと、皇太子妃リリィベルを、盛大に祝福してくれ。我が帝国を2人が必ずや今よりもっと豊かにしてくれる事だろう。」


 ダンスの後、皇帝オリヴァーの言葉がホールに集まった者達へ届けられる。

 ここには、同盟国メテオラ国からオスカー王子とシリウス王子が来ていた。そして、新たな同盟国ポリセイオ国からレオン王婿が出席していた。


 他国や貴族達からたくさんの祝いの品が贈られ城の一室を埋め尽くした。アルセポネからも祝辞と祝いのプレゼントが来ている
 サーテリア国の、王女ジュエルはさぞ面白くないのだろう。
 簡単な祝辞が国から送られたのみだった。


 リリィベルの父、ダニエルが、涙を浮かべながら2人を見つめる。そんなダニエルと目が合ったリリィベルは幸せそうな笑みを返した。


 そして隣にいるグレンも、複雑ながら寂しげな笑みが浮かべていた。
 グレンの顔を見たリリィベルは、その黒髪とその寂し気な微笑みにチクリと胸が痛んだ。

 これまでの生活。そして新しい人生。

 彼がこれまで自分のそばにいた。

 何も知らずに時を過ごした中、自分は、彼がそばにいたことに違和感を感じたことはない。
 けれど、幼少期の絵姿の話を聞いた時の事を思い出したところだ。

 無意識に、自分は暁を探していたのだと悟った。



 何もわからないはずなのに、暁を、テオドールを探していた。
 そんな自分のそばにいた新しい幼馴染は、いつも自分を守ってくれていた。

 大人たちの訓練に参加し、小さな体で剣を振る姿を今でも思い出せる。


 そして、自分を想い慕ってくれて、今日この場に来てくれた。
 前世では、なんの疑いもせず暁を愛した自分が、グレンに恋心を抱くことはなかったのは、
 暁のために生まれてきたからだ。

 ふと隣のテオドールの顔を見た。
 その視線に気が付き、テオドールがリリィベルを見た。
 とても、幸せそうな笑みを返してくれる。
 その笑顔が愛しくて小さく口を開いた。


「・・・愛しています。」
「ふっ・・ああ、俺もだ。リリィ。」

 合言葉のようにそう返してくれるテオドールは、まさに暁で待ちわびた運命の番(つがい)だ。


 彼以外を愛することができない。改めてそう感じた。


 どうか、大切な幼馴染も素晴らしい愛に巡り合うことを祈る‥‥それしか出来ない。



 豪華な料理と、キラキラ光る大ホール。祝いの言葉を伝えにやってくる貴族たち。
 彼らと話をしながら、これからの責務を実感する。

 リリィベルとして、妃教育を受けてそのすべては頭に叩き込まれている。
 優雅な所作、気品、社交界を統一するための話術や知識。そして帝国の国民たちを導くテオドールの支え。

 礼蘭としての、暁への強い思いは体に馴染んでいるが、
 ずっと眠り続けていた礼蘭がこの帝国の皇太子妃になるという事実はリリィベルの心に重圧をかけていた。

 続々と挨拶にくる貴族たちに笑って返すテオドールの隣で笑みを浮かべる。
 心の中は正直必死だったのだ。

 テオドールはこの世に生を受けてから暁でテオドールだった。
 礼蘭とは正直年季が違った。

 所作や言葉遣いでヘマをすることがないのは、この世界で生きてきた身体がなんとかしてくれるからだろう。


「皇太子殿下、妃殿下、この度はご結婚おめでとうございます。」
「ああオスカー王子、ありがとう。私たちの結婚式に出席してくれて。」
「ははっ、殿下と妃殿下との友好の証です。私の戴冠式にも是非、来てくださいね。」
「ははっそうか。それは是非2人で参加しよう。オスカーの戴冠式を盛大に盛り上げてやる。
 なんなら魔術師を連れて行こうか?花吹雪を降らせよう?」
「そりゃあありがたい。国民もさぞ喜ぶだろう。」

「あとは婚約だけなんですけどね。オスカーのやつ、妃殿下を見てから女性を見る目が肥えちゃって。」
 三人がワイワイと楽しそうに話している。三人は幼い頃から仲がいい。男三人が集まればそれは盛り上がる事だろう。

「リリィのような女性は世界中探したっていないからあきらめろオスカー。」
 そう言ってテオドールはリリィベルの肩をぐいっと引き寄せた。
「!!っ・・・」
 リリィベルはピクンっと跳ね上がりテオドールを見上げた。

 びっくりしたぁ・・・・。

「なぁリリィ?お前ほどの女神はこの世界に存在しない。」
 眩しいテオドールの笑顔がリリィベルに突き刺さる。
「まっ・・・まぁ・・そんなことはございませんっ・・オスカー王子にも素敵な女性が現れますよ。」
 にっこりと笑顔を浮かべてオスカーを見つめた。
 その瞳にオスカーは頬を染めて目をそらした。

「まったく、テオドールは幸せ者だ。帝国一の美人を妃に迎えたんだから・・・。」
「ははっ!そうだろ?俺は幸せ者ものなんだ。」
「オスカー、メテオラの公爵家の令嬢が妃候補なんだけど、どーもねぇ・・・。」
 シリウスが呆れた顔をしてため息をついた。その言葉にオスカーは眉を顰めて不機嫌になった。
「シリウス!お前だってあの令嬢とあってどう思った?うちの国には・・・っ・・・
 はぁっ・・・そんな話はしたくない。せっかくの結婚式が台無しだ。」

「なんだ?なにか問題でもあるのか?公爵家なら・・・。」
 その問いかけにオスカーはテオドールを睨んだ。
「恋愛結婚のテオドールにはわかんねぇよ。・・・・はぁ・・・・俺も恋愛結婚してぇなぁ・・・。
 決められた結婚なんて・・・冗談じゃねぇよ。」
「まぁ・・・テオドールが珍しいんだよ。婚約話が進む前に運命の出会いでもあればいいけど。」
 そう言ってシリウスは苦笑いをした。


 そうだ、ここは日本とは違う。お見合いのレベルでもない。
 政治に関わる政略結婚が主だ。

 それにしても、オスカー王子がそれほどに嫌がる令嬢とは?
 リリィベルは疑問を抱きながら近くに来た給仕からシャンパンを一つ手に取りその喉を潤した。

 三人が話し始めてかれこれ10分は経つ。寝不足のリリィベルの限界は近い。
 だが、まだまだ披露宴は続く。それにダンスもだ。


 そんな時のことだった。
「リリィ、大丈夫か?」
「あ・・・陛下。」

 オリヴァーがそこへやってきた。
「男三人の話は長いだろう?私と少し踊らないか?主役が席を外すのはまだ早いからな。」
 そう言って笑ったオリヴァーが神に見えた。

「はい、陛下。喜んで・・・。」
「えっ・・陛下、リリィと踊るって?」
 テオドールは慌ててリリィベルの手を掴んだ。
「たまにはいいじゃないか。お前たち三人で話でもしていろ。」
 そう言ってオリヴァーがリリィベルを連れてホールの中心に向かった。

「うわー父親に嫁さんとられてるウケる。」
「はははっ」
 オスカーとシリウスは盛大に笑った。
「ばぁかお前らがわちゃわちゃうるさいからっ」


 ガヤガヤする三人を後ろにオリヴァーとリリィベルはホールの中心にたどり着いた。
 そして静かにステップを踏み出した。

「疲れているのにダンスだなんて悪いな?リリィ、テオドールの側を離れることも難しいし、
 席に戻ったところでほかの者に囲まれるだけだと思ったのだ。」
「ふふっありがとうございます。陛下・・・。」

 リリィベルはオリヴァーの笑顔にほっと息をついた。
 ゆっくりとリードしてくれるオリヴァーはテオドールとは違う。

「私は、テオとは違ってくるくる回したりしないから安心してくれ。」
「うふふっ、とても安心いたしますわ。陛下。」
「身をゆだねてくれればあとは私がなんとかするから。」
「はい・・・陛下。」

 オリヴァーがリードのダンスはゆっくりと優雅でリリィベルに負担はなかった。
 流れるように身体が動く。まるでゆりかごに乗ったような気分だ。

「リリィ?」
「はい・・・。」
「2人には、これからも困難もあるだろうが、テオと2人で仲良く・・・楽しく・・・。
 そして時には勇ましく・・・私達を支えてくれ・・・。」

 オリヴァーのその言葉に、リリィベルは眉を下げて微笑んだ。

「昨日の出来事もあって・・・少し自信がなかったのですが・・・陛下のお言葉で身を引き締めることが出来ました。」
「あっ・・・圧をかけてるわけじゃないぞ?」
「ふふっ・・わかっています。陛下・・・。ただ・・・両陛下とテオと共に・・・この帝国の象徴としてしっかり・・・歩んでいこうと思います。どうか・・未熟ではありますが・・・

 皇帝陛下と皇后陛下の背を追い・・・皇太子殿下と共に生きたいです・・・。」

 オリヴァーの瞳をまっすぐに見上げてリリィベルは微笑んだ。
 その瞳に安堵したオリヴァーは優しく笑った。

「4人でもっとこの帝国を豊かにしていこう。な?リリィ。」
「はい、陛下。」

 2人は笑ってそのダンスを終えた。

 すると、見計らったようにテオドールがズンズンと大股で向かってくるのが見える。

「あっ・・テオ」

 リリィベルがテオドールを見つけた。
「陛下、私の妃を返していただいてもよろしいですか?陛下は皇后陛下とダンスをどうぞ?」
「何をへそを曲げてるんだ。お前も少しリリィを気遣ってやれ。お前たちのくだらない立ち話に付き合わされたリリィを休ませただけだ。まったく・・・嫉妬が激しくて困ったもんだ。」

 そう言ってリリィベルの手をテオドールに返した。
 リリィベルの手を取ると、テオドールは自分が身を寄せてその腰を抱きしめた。

「すまないリリィ、俺と少し席で休もうか。挨拶は少しの間護衛に控えさせるからそうしよう。な?」
「ありがとうございます。テオ・・・。」

 リリィベルの肩を抱き、テオドールとリリィベルは皇族席の飾られた自分たちの席へと歩んだ。


「ふぅ・・・。」
 その椅子に腰かけた時、リリィベルからため息がこぼれた。
「すまないリリィ、ほんとに・・・。俺すっかり浮かれちまって・・・睡眠時間も短かったのに・・。」
「大丈夫です。テオ、そんなに心配しないで?ね?少し座れば休まりますから。」

 テオドールが冷たい果実水を給仕に頼むと、それはすぐに運ばれてきた。
「ほら、お前の好きなオレンジの果実水だ。」
「有難うございます。」
 その冷たい果実水をテオドールの手から丁寧に渡される。
 心配そうにテオドールはリリィベルを見つめた。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですってば・・・・。」
「いや、申し訳なくてな。俺ばっか元気で。」

 普段鍛えているテオドールは多少の寝不足などなんの事でもない。
「あ、治癒魔術でもしようか?疲れが取れるだろ?」
「そんな、大したものでもないのに不要です。一日中働いてくださってるロスウェル様達に申し訳ないですもの・・・。」
「いや、俺だってできるし。」

 もごもごとテオドールは何か言っている。
 それを見てリリィベルはくすっと笑うと、テオドールの胸元に手を寄せた。



「それは・・・私たちが下がった後に・・・どうか、その手で私を癒してください・・・。

 ね?・・・・それがいいです・・・・。」


「っ・・・ぉ・・・・おまっ・・・・・。」


 リリィベルの妖艶な目つきにテオドールは頬を染めたのだった。

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