上 下
215 / 240

生涯の恋 1

しおりを挟む
 
【うっ‥‥‥なぁんで‥‥っっ‥‥‥なんでっ‥‥‥俺は‥‥っ
 礼蘭と一緒に生きたかったっ‥‥子供もっ‥‥‥何にも知らないでっ‥‥‥愛してるって‥‥伝えたかったぁっ‥‥‥っ‥ぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥。】




 ねぇ‥‥‥あき‥‥‥




【ぁぁぁっ‥‥‥れぃぃ‥‥‥俺はっ‥‥れいをまもるってっ‥‥‥ぜんぜん守れなかったぁぁぁぁ‥‥‥守れなかったぁぁぁぁ‥‥‥ぁぁぁぁぁっ‥‥‥ぅうぅっぅぅぁぁ‥‥‥っ‥‥‥子供もっ‥‥‥もぉいねぇぇ‥っ‥‥れいもぉっ‥‥‥子供もぉっ‥‥‥ぁぁぁぁあぁっ‥‥‥‥っ‥‥‥‥】







 あき‥‥‥ねぇ‥‥‥あき‥‥‥?






 私の声‥‥‥聞こえないよね‥‥‥‥






 こんなに泣いてるあきを見て‥‥私は‥‥‥‥




 どうしたらいいか‥‥分からない‥‥‥



 でもね、あきをね‥‥‥


 ただ1人にしてしまった事を‥‥‥後悔してるけど‥‥‥




 あなたを守ることが出来たことは‥‥‥



 後悔してないの‥‥‥



 一緒に‥‥生きて‥‥‥あきに赤ちゃんを抱かせてあげられなかった事‥‥‥



 あきと一緒に生きられなかった事‥‥‥



 とても‥‥‥悲しいよ‥‥‥‥




 あきにね‥‥‥



 ずっと、愛してるって‥‥‥伝えたいのに‥‥‥




 私の心は、体を‥‥離れて‥‥泣いてるあきを‥‥


 見てるしか出来ないの‥‥‥




 ねぇあき‥‥‥‥


 あき‥‥‥


 あき‥‥‥




 あいしてるよ‥‥‥‥‥







 世界が真っ暗で、目を開けてるのか、閉じているのか分からなかった。

 あきの、驚いた顔を見てからずっと‥‥‥。
 ここに居る。

 何度も、あたりに手を伸ばしたけど‥‥‥


 何もなくて‥‥‥


 暁も居なくて‥‥‥身体が冷たくて‥‥‥

 心にぽっかり穴が空いてるみたいに何もなくて‥‥


 不思議で、たまらなかったよ‥‥‥。




 《おや‥‥‥君がきたのかい?》


 しばらくすると、暗闇で声が聞こえた。
 色っぽい低い声が、頭に響いた。

「‥‥誰‥‥?‥‥どこ‥‥‥?」

 《死ぬ運命じゃなかった者が来てしまった‥‥おまけに2人もだ‥‥‥。》


「‥‥‥死ぬ‥‥?」

 この言葉の意味が分からなくて、床に手をついたまま、体は固まった。


 《あぁ、そうか‥‥‥気づく間もなかったんだね。

 君は、君の命は‥‥すでに消えてしまったよ?》



「‥‥‥死んだ‥‥‥の?」


 《そうだよ‥‥‥君の人生は‥‥‥》


「私っ‥‥‥明日‥‥結婚式‥‥なの‥‥‥。

 お腹に‥‥‥あきの赤ちゃんが‥‥‥‥‥」


 呆然と、呟いた。そして肩を落とした。


 《ああ、だから2人もの命が‥‥消えてしまったね‥‥。》

「‥‥死んだ‥‥?」

 《‥‥受け止められないのも無理はない。仕方ない‥‥。

 わかるまで、教えてあげるよ。君は死んでしまったよ?

 さっき、君は、君の夫を庇い車にぶつかっただろう?

 痛みで覚えていないのだ。その時だよ?


 死ぬのは幼い子供だったんだが‥‥まぁ、君の夫も無傷では無かったが‥‥。命はあったはずの運命だった。


 君は、身代わりに死んでしまったよ。》


「‥‥‥あの‥‥女の子‥‥‥?」

 《ああそうだ。君の夫が抱いていた幼い女の子だ‥‥。
 あの子の命は、あの事故で死ぬはずだった。君はあの子に命をあげてしまったんだね‥。理解できるかな?

 お腹の子と一緒に‥‥‥》



「死んだ‥‥‥じゃあ‥‥‥結婚式‥‥は‥‥‥」


 《花嫁の君が死んだのだから‥‥出来ないだろうね‥‥》


「‥‥ちょっと‥‥ぶつかっただけよ‥‥?」

 《混乱するのも無理ないけど、君の小さな身体が死んでしまうには十分だよ。頭を強く打ったんだ。

 まぁ、死んでしまったから‥‥痛くはないだろう‥‥?》




「‥‥痛く‥‥ないわ‥‥‥。」

 《痛みは感じないだろうね。それは幸いかな?》



「‥‥‥暁は‥‥?」



 《‥‥君の夫なら‥‥ずっと君を呼んでいるよ‥‥。》


「‥‥帰れない‥‥?」




 《言っただろう?君は死んだんだ。生きている者とは違うんだよ。ここには何もないだろう?

 人を助けて自分が死んでしまうなんて‥‥扱いに困ってしまうよ‥‥。そして、まだ理解出来ていないね‥‥。


 困ったなぁ‥‥‥私の元に来るなんて‥‥》



 その声は、とても頭に低く響いて、胸にストンと落ちてくる。





 私は‥‥‥死んだ‥‥‥。



 死んで‥‥しまった‥‥‥‥。





 死んでしまったら、どんな風なのだろうと、誰に分からないその死後の世界は、綺麗な草原も、三途の川も何もなくて



 こんな‥‥真っ暗闇なの‥‥‥?


 私はただ瞼を閉じているだけの様なのに‥‥。



 私が見た最後は‥‥‥暁のハッと驚いた顔‥‥。






 私は‥‥死んだ‥‥‥。


 だから、此処に‥‥暁は居ないのね‥‥‥。




 いつか、この感情も‥‥消えてしまうのだろうか‥‥。




「‥‥‥死んだ‥‥‥‥。」



 涙も出なかった‥‥‥信じられなくて、でも何もない、こんな所にただ1人で‥‥。私の時間は‥‥あの時止まってしまった‥‥。


 痛くもない‥‥‥。


 なにも‥‥‥ただ、死んだ‥‥‥。



「あ‥‥‥赤ちゃん‥‥‥‥。」


 まだほっそりとしたお腹に手を当てた。


 その時、自分の悲しみが込み上げた。

 暁との絆。暁との愛の証‥‥。


 生を受けるはずだった命‥‥‥。



「私の‥‥赤ちゃん‥‥‥私のせい‥‥‥っ‥‥でも‥‥‥。」



 暁を‥‥目の前にいた暁を‥‥‥。


 そう、あの女の子を抱き上げていた暁を見て‥‥。


 未来を思い描いた刹那‥‥‥。



 そんな幸せな未来も‥‥‥無くなってしまった‥‥‥。




「っ‥‥ごっ‥‥‥ごめん‥‥‥ね‥‥‥‥。」


 お腹の子は、このまま大きくなる事なく私と死んでしまった。


 無鉄砲な私は、暁を守りたい気持ちでいっぱいで、体を投げ出した。


 じゃなかったら‥‥暁を失ってしまうかもしれなかった。


 あなたを忘れた訳じゃないのに‥‥‥。


 ただ、暁を‥‥‥。




 《残念だけど、私は君を連れて行かないと‥‥‥。》

 また声が聞こえた。その声が聞こえた後、遠くで一点の光が見えた。それは星の輝きに似ていた。


「あそこに‥‥‥?」
 《ああ、そうだよ。怖いかい?》


 その声は、耳元で聞こえた。吐息も感じた。
 ふと反射的に振り返った。するとそこにはこの世の人とは思えない程の美しい男性がいた。

 神々しい金髪の男性だ。


「あなた‥‥は‥‥‥?」

 《私は、アレクシスと言う。星河礼蘭‥‥。あ、如月だったかい?‥‥君を次の人生へ導く者だよ。》

「次の‥人生‥‥?」


 《ああ、君は身代わりで死んでしまったからね。君の世界では一般的に生まれ変わるのには多少の時間を要するね。

 でも、私が君の案内役だ。次は、素晴らしい人生になる事を祈るよ。
 君の世界とは違う世界線だ‥。面白そうだろう?》


「‥‥私は‥‥いつも‥‥幸せだったわ‥‥‥?」

 《ふっ‥‥‥そうか‥‥君の夫は、君に手を合わせてもくれない夫だけど、それでも?》


「私は‥暁がいて‥‥毎日幸せだった‥‥‥素晴らしい人と‥‥素晴らしい人生だった。」

 《じゃあ、次も大丈夫だよ、君のその心は変わってしまうけれど、魂は変わらず、幸せになる事だろう。》






「‥‥‥‥このまま‥‥?もう行くの‥‥‥?」



 《君は、死んでしまったから‥‥ここで立ち止まる必要は無いよ。なんと言うのか、ああ、徳を積んだとでもいうのかな?‥‥‥君に降りかかる災難はないだろう。》




「‥‥‥っ‥‥‥暁に‥‥もう会えないの‥‥‥?」  



 《君が救ったんだ。彼の人生は続くよ。君は生まれ変わり新しい人生だ。彼は居ないよ。新しい人生で良い人が待っている事だろう。君の魂は‥‥星の様に輝いている。

 だから、私の所に来たのかな?》




 生まれ変わる‥‥



 暁のいない人生



 暁のいない世界‥‥



 暁を愛する事ができない心‥‥



「いや‥‥‥嫌っ‥‥‥そんな所は嫌!!!」



 初めて涙が流れた。

 死んでしまっても、涙は流れるんだね‥‥。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...