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繋がった未来の先に

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 凍りつく魔塔。自ら氷像にでもなるのかと思えるほどハリーは固まった。
 部屋の隅でその父と呼ばれたレオンは、萎れた青い花のようだ。

 ドラとフルー、ピアが気まずさに目を泳がせる。
 特攻爆弾である皇太子が、爆弾を投下しだらしなくもたれ掛かっている。


「おや、これはなんぞや。」
「おいどうしたみんな‥‥。」

 ピアの出した念話により現れたのは助け舟か、はたまた更なる大波かわからないロスウェルと、まさしく天の助けであろう皇帝だった。


「ロッ‥‥‥ロスウェルさまぁ‥‥‥。」
 ぴえんと言いたげなピアが2人に近づいた。
「どうしたんだピア、この寒さはなんだ。雰囲気が‥‥。」
 オリヴァーが察してくれたようだ。


 ポン、とロスウェルが両手を叩いた。


「もしかして、レオン殿の事を知ったのですか?ハリーが」
「本当なんですかぁ?ロスウェル様ぁ。」

 その問いにオリヴァーが口を開いた。

「ああ、ハリー、おいハリー??」
 返事もできないハリーにオリヴァーが近付いた。
「‥‥‥‥‥‥。」
 ゆらりとハリーの首はやっと動き出した。


「へっ‥‥‥陛下‥‥‥あ、の‥‥‥‥レティ‥‥王妃が、そこのっ‥‥‥ああああ青いロスウェル様と同じ‥‥‥。
 殿下と、リリっ‥リリィベル様をっ‥‥‥あのクソ女を作った馬鹿者どもが‥‥‥‥。」


 オリヴァーは、ハリーの強張った両肩に手を置いた。
「ハリー?‥‥‥落ち着きなさい。いいかい?私の話を良く聞くんだ。」


「だっ‥‥‥て‥‥‥‥‥。」


 ハリーの顔はどんどん青ざめた。



 レティーシャと夫とされる夫婦が、国王から逃れる為に使った魔術は、子供の魔力によって妨害された。

 そのために、2人は捕らえられレティーシャは王妃となり、レオンは心臓を捧げた。

 そして、罪人ライリーを魔術師としてこの国に送ってきたのも彼等だ。それにより、ハリーの大切だったテオドールとリリィベルは心に深い傷を負った。


「‥‥‥俺の‥‥せい‥‥‥ですよね‥‥‥‥。」


「ハリー、すまない‥‥テオが無神経な事を言ったのだろう。私が詫びる。だが、決してそなたの所為ではない‥‥。」

 優しい声色でオリヴァーはハリーを包んだ。
 今にも泣き出しそうなハリー。



「でもっ‥‥ことの発端は全部俺の魔力のせいで‥‥‥。」
「ハリー、小さな君になんの罪はない。レオンも王妃も。
 ただ、不幸な事が重なっただけだ‥‥‥。」
「でも‥‥‥じゃあなぜ‥‥‥お2人に害が出るような事態になったのです‥‥‥。俺は、殿下とリリィベル様を害になった奴らを作り出したも同然ですっ‥‥‥。」

 どんどんと呼吸が乱れるハリー、オリヴァーは戸惑った。


 その時、ガァン!とハリーの頭に拳骨が落ちてきた。

「いってぇぇ!!!」
「おおハリー、何言ってんだよ。自惚れんじゃねぇよ。」

 テオドールが拳を握り眉を吊り上げていた。

「お前のせいだぁ?誰がそんな事言った?俺とリリィに害が降り掛かったのはお前のせいだと?俺と一緒にリリィを探したのは誰だ?あん???俺と一緒に魔術を作り出したのは誰だ?おらぁ、言ってみろよ。」

「っ‥‥‥だって!!そもそも俺があの人達の子供なら!なんで!!彼等が逃げていれば!!こんな事には!」

「しょうがねぇじゃねぇか!そうなっちまったんだから!!!生きてるんだからいいじゃねぇか!!!」

 テオドールの怒鳴り声が魔塔に響く。
 ハリーの戸惑いはレオンの胸にも響いている。

 胸が苦しい。自分のせいだと思って欲しくない。

 テオドールの暁の視線が、ハリーを睨み付ける。

「俺はなぁ!お前に罪を被せるために明かしたんじゃねぇんだよ。お前が居なかったら俺は出会ってないんだ!
 そしたら治癒魔術もなくて!お前らの存在は日の目を見なくて!俺がリリィと出会ってなかったかもしれねぇぞ。


 俺はそんな未来いらねぇよ!!!


 過去にどんな事があったって!それがあるから今があるんだよ。

 レオンとレティーシャが可愛い子供のお前のせいにする訳ねぇだろ!

 お前のせいで引き裂かれたとでも言うのか!
 お前を助けるために自分が捕まっても魔の森へお前を逃した!そしてお前はこの帝国の魔術師となったんだ!
 お前の両親は時を経て助かったんだよ!
 それでいいじゃねぇか。俺達だって無事で居られたんだ!


 意味のねぇ事なんかねーんだよ!


 血縁に会えただけありがたく思えバカヤロー!!」


「‥‥‥だっ‥‥‥て‥‥‥‥」

 言われてることの意味はわかる。過去を振り返っても仕方がない。けれど、不憫だ。閉じ込められていた両親も、被害にあったリリィベルも‥‥。


 ペシっ!
「ッてぇな!!なんすか!!!!」
 今度はテオドールの後頭部がオリヴァーのぶっ叩かれた。


「お前がどうせ素っ頓狂に言ったんだろう!!!
 物事には順序があるんだ!突然知らされるハリーの気持ちを考えてから偉そうな口を叩け!それでも皇太子か!!!」

「皇太子ですけど!!!!」
「このボケてめ」
「あぁあぁあぁあぁやめてくださいやめてやめてしんどいしんどい」

 オリヴァーの手が更に出る前にロスウェルが2人の間に割って入った。
「しんどい!」
 一喝して出た言葉はしんどい。


「チッ!!!」
「こらっ!陛下!!もぉ!!」
 舌打ちしたのはオリヴァーだ。ロスウェルが怒ると言うなんとも見た事のない場面が出来上がった。

「俺は別にいつ知ろうがなんだろうが関係ねーと思ってますけど!俺はハリーのせいで被害受けたとか思ってねーし!」
「じゃあなんでハリーがこんな可哀想な顔してるんだお前が無神経に明かしたせいじゃないのか!」
「無神経ってなんすか!親子なんだから!!ハリーがレオンを責めるから親父をいじめんなっ!って言っただけだって!」
「それだって寝耳に水だろうが!!それくらいハリーはお前達の事を心配してくれてたんだろうが!」
「それはありがとうございます!!!!!」
「ふざけてんのかこのバカ息子がてめぇちょっとこっちこいこの」

「あーあーあーあーやだやだやだやだやだ!!!」

 ロスウェルを挟んでアレキサンドライトの親子が隠している口の悪さを全面に披露している。



「「‥‥‥‥‥‥‥。」」
 ハリーとレオンがポカンと口を半開きにしてその光景を見ていた。


「もおやめてくださいね2人とも」
 ロスウェルが自身の口に人差し指を立てた。

「はいっ、シッ!!!!!」

「「んぐっ!!!!」」

 オリヴァーとテオドールの口が開かなくなった。
 ロスウェルが2人の口を封じたようだ。

 ロスウェルのローブをテオドールが引っ張った。
 オリヴァーはロスウェルの胸ぐらを掴んでいる。
 怒り震えながら喋れずにロスウェルを睨みつける似た顔の2人。


 魔塔は現在とっ散らかっている。



「あの!!!!」
 突然の大きな声で一同が止まる。
 主にテオドールとオリヴァーだ。


 部屋の隅っこから立ち上がったレオンが頬を染めて伏せ目がちに口を開く。

「けんかを‥‥‥やめて‥‥‥‥。」

 ロスウェルがニコッと微笑んだ。
「‥‥あの‥‥そんな顔して言わないでください。あなたを2人が取り合ってるみたいな構図浮かび上げる人も居るので。」

 レオンが慌てて後退りした。その頬はまだ赤い。
「あーそのっ‥‥すいません!僕のせいで‥ハリー‥くんがつらい思いをするのも‥‥恩人である陛下と殿下が汚い言葉で喧嘩するのも‥‥‥」
「ふっ汚い言葉っ‥‥‥。」
 ロスウェルが吹き出した。それをギンッと睨み付ける皇族親子2人。


「とにかくっ‥‥ですね、僕が‥言いたいのは‥‥‥。

 僕の責任ですから‥‥‥。


 僕は、愚かにも国王軍に捕まり、ハリーくんを‥‥魔の森へ飛ばした‥‥。それは、本当に、守りたかったんです‥‥。


 でもね?」


 レオンは、ハリーに目を向けた。今にも泣き出しそうなその親子2人はしっかりと向き合った。

「僕は君と離れ離れになったけど‥‥いつも君を思っていたよ‥‥。レティーシャも同じだ‥‥お腹を痛めて産んだ君を誰よりも愛してる‥‥‥。そしてね?殿下とリリィベル様に被害が出てしまって‥‥心から、お詫びしたい。

 だからね‥‥ハリーくんには、何の罪もないんだ。

 君がこうして‥‥いずれ僕達の恩人となる人の元にいるなんて、
 誰も予想しなかった‥‥。君と僕が会えたのは奇跡だ‥‥。

 僕を父として接して欲しいなんて思ってないよ?

 君の家族は、ここに居るみんなだろう‥‥。



 僕達が離れた分ね‥‥たくさんの魔術を学んで‥‥素晴らしい魔術師殿の元に居てくれて‥‥大切だと思える存在がいて‥‥‥

 あの日、僕が君を魔の森へ送って良かったって‥‥‥。

 君の成長をこの目で見ていたかったけど‥‥‥。

 でもね、そんな中でも‥‥君は真っ直ぐに育ってくれた。
 自分の意見もちゃんとある‥‥。


 君が‥‥幸せそうで良かった‥‥‥。


 僕達が‥‥‥逃れる為に‥君の大切な人達を傷つけてしまうことになって‥‥‥ごめんね‥‥‥。

 だけどね‥‥‥っ‥‥‥。」


 レオンの瞳から涙がこぼれた。最高の笑顔で涙を流した。

「生きて‥‥君に会えて‥‥‥僕は嬉しかった‥‥っ‥‥。

 いい人達に巡り会えて良かったっ‥‥‥。


 決して君のせいじゃないんだ。僕達がわるいんだ‥‥。

 でも、きっと、これも‥‥‥‥あの時選択した一部の結末だったなら‥‥身勝手だけど‥‥‥それでも‥‥ありがたく思うんだ‥‥‥ごめんね‥‥‥っ‥‥‥。」


「‥‥‥‥‥‥っ‥‥‥。」

 周りで聞いていた魔術師3人は涙ぐんでいた。
 テオドールもオリヴァーも、ロスウェルを掴む手の力が緩んだ。

 ハリーは拳を握りしめて黙って聞いていた。

 涙をこぼすこの父と言う人が、きっと悪くはないかもしれない。

 自分が悪い訳でもない‥‥‥‥。

「‥‥でもっ‥‥‥リリィベル様だけが可哀想じゃないすかっ!!!‥‥俺達に巻き込まれて、ただでさえ殿下のお相手としてこれまでたくさんの事を耐えてこられたのに!


 俺ら親子がっ‥‥こうして会えたけどっ‥‥


 リリィベル様だけが犠牲なっただけじゃん!!」


 ハリーの言葉が響く頃。


「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 椅子に腰掛け窓の外を虚ろな瞳で見ていたリリィベルがいた。
 耳鳴りがする頭痛を感じていた。
 それは、心が真っ暗闇に引き摺り込まれそうな恐怖。


 リリィベルは、いつからかいつも

 同じ夢を見ていた‥。
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