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繋いで、心 9
しおりを挟む「国民達よ‥‥‥今日、アルセン・ポリセイオ国王陛下が崩御しました。」
王城専用バルコニーから、国民達へそれは伝えられた。
訃報を知らせる国旗を掲げてから、バルコニーの下にはたくさんの国民達が集まっていた。
そこに立つレティーシャ王妃。
そして、後ろに控えた帝国の皇太子が目に入るため、
国民達は国王の崩御の知らせと共に動揺していた。
「先日迎えた、王国の王女、レリアーナ・ポリセイオが、
帝国アレキサンドライトにて罪を犯した‥‥。皇太子殿下自ら此処にいらっしゃる程、事は重要だ。
よって‥‥国王陛下の命で罪を償った‥。」
ざわめく声や悲鳴の様な声も混ざる。
王女の罪はなんだったのか、皇太子が自ら出向くほどとなると国民は震え上がる思いだ。
王妃とて、この後無事かどうかは分からない。
テオドールは静かに王妃よりも前に出て国民達を見下ろした。
「ポリセイオ王国の民達よ、我が名はテオドール・アレキサンドライト。王国の王女は、我が国で逃れることの出来ない罪を犯し、帝国の牢屋に居る。私は王女の罪を許すつもりはない。それに加担したモンターリュ公爵もそれに値する。
よって、国王の命と王女、公爵に罪を償ってもらう。
だが、私は‥‥この国を枯れ果てさせるつもりもない。
明日の暮らしが脅かされる事もない。そう皆に約束しよう。
ポリセイオは、帝国の監視下となる。
だが、王族が欠けている事に不安を覚える事だろう。
しかし、私はそんな事はさせない。王妃にはやってもらわねばならない事もある。王妃はこの国を誰よりも案じている。
安心して欲しい‥‥。私はそなたらを見捨てる事はない。」
シンと静まり返った国民達、テオドールはふと優しく笑みを浮かべた。
「これは、私の帝国に手を出したが故の処罰である。
みな、王妃を信じついて参られよ。」
スッと息を吸いテオドールは、告げた。
「ポリセイオ王国はこれからレティーシャ・ポリセイオを女王として据え、帝国に従ってもらう。」
ザワザワと国民達がどよめいた。
「それで、今回の事を収めよう。少ない時間だが国の情勢に関する資料を拝見した。‥‥王妃はそなたらの為に尽力している事がわかった。皆もそれは気付いている事だろう。
それは、賞賛に値する。この国は豊かである。
この国はきっと女王陛下の力の下、発展していく事だろう。
そして、今後は帝国ともより良い関係を築ける事だろう。」
その声と言葉には、威厳と確信が含まれていた。
その自信溢れる言葉に人々は巻き込まれてやがて歓声となっていく。
レティーシャ王妃は、テオドールの横顔を見て感じた。
まだ16歳の若き皇太子は、この事件を歴史的瞬間に変えたのだ。
提案された時は、何故それがうまく行くと思ったのか分からなかった。だが、こうして皇太子の声と言葉に国民達は安堵を覚え、女王となる自分を推す事に違和感を感じさせる事なく告げた。
後に知らされた、建国祭でのレリアーナの犯した出来事もこうしてことを収めたと聞いている。
噂に違わぬ皇太子だった。
国民への発表後、テオドールはロスウェルと共に地下牢へとすぐに移動した。女王となったレティーシャは王妃側の側近達とすぐに今後の為の国政会議が始まった。
薄暗く湿った地下牢で、国王の側近だった者達はテオドールを前にゴクリと唾を飲み込んだ。
「さて‥‥‥先ほど、私が国民達に提案した件は理解できたか?既に王妃の側近である貴族達は陛下の働きによって動き始めている。いかがかな?」
国王の側近であった貴族達は混乱し瞳が泳いでいる。
女王制度、帝国との関係性、全てに隙はない。
だが、レティーシャだけその様な処遇になっている事が不可解であった。
元々国王夫婦は仲が良くなかった。一方的にレティーシャが拒絶していた。要はモンターリュ公爵側の貴族の寄せ集めが国王の側近達だった。
モンターリュ公爵家の人間であるレティーシャが何故生きながらえ、自分達が捕えられているのか。それが解せない。
帝国で当主のライカンスも囚われている。
罰せられるべきはレティーシャではないのか?
魔術師である事を知っている者もいる。
怪しい魔術師が、公爵家に養女になり国母となった。
王女を作り出したのも王妃の怪しげな魔術のせいだ。
納得できるはずがない。
「わっ‥‥私はっ!!!皇太子殿下のお心に従います!!」
1人の国王付きのメイドが声を上げた。それはメイド長となっていた者だ。
「チィっ‥‥血迷った事を!!!」
反論したのはまたも国王の最側近の貴族だった。
「これからはっ‥‥王妃様に忠誠を誓いますっ‥‥
ですからっ‥‥‥此処から出してくださいっ‥‥‥。」
メイド長は頭を下げた。ブルブルと震えたそのメイド長に、テオドールはニヤリと笑った。
「そうか‥‥‥。意外だな‥‥‥。」
「王妃様のお側にお仕えしっ‥‥。」
「近付いて、害するつもりか?」
「えっ‥‥‥?」
テオドールの言葉にメイド長は顔を上げた。
テオドールは鋭い目でニヤリと笑いながら彼女を見ていた。
「お前がどのような者かは知っている。廃王の愛人だろ?」
「っ‥‥なっ‥‥‥なんの事‥‥‥。」
顔を青くしながらメイド長はテオドールを見つめた。
「その若さでメイド長。実に簡単な事だ。まぁ、愛人はそなただけではないが、お前は身体を武器に廃王の愛人となりその地位を手に入れた。‥‥‥そうだろ?調べはついている。
お前を解放すれば、それはやがて女王の身を危険に晒す事となる。
私の連れている魔術師は優秀でな?
お前の体についた廃王の汚らしい手垢が見えるようだ。
見たくはないが、その様な穢れは隠せない‥‥。
皆も、発言には気をつけろ?
お前は王妃の側には置けない。置けるわけがない。
私は、欲のある者の顔が分かってしまうんだ‥‥。
幼い頃から、そんなものばかり見てきたせいかなぁ?
お前達の中で、何人生き残れるだろうか‥‥‥。
うーん‥‥‥‥‥。困ったな‥‥‥。
お前達は皆必要がなさそうに見えるが‥‥‥。
我こそはと思う者は、居るだろうか?」
悪意なき困ったテオドールの顔に、そこに居る者達はなす術がなかった。
皆が王妃に処罰がない事に腹を立てている。
国王を拒絶するばかりだったレティーシャ。
そのくせ、国政だけは気に食わない意見ばかりしてくる。
澄ましたその顔、態度、魔術が使える気味悪さ‥‥。
世継ぎを作らずいた分際で、鬱陶しいとばかり思っていた。
それなのに、愛人をどんなに持とうとも私生児すら産まれやしない。
ポリセイオは王妃に呪われている‥‥。
そう思っていたばかりの寄せ集めが此処にいる。
心変わりを見せていたならば、気付く。
決意した人間特有の顔は、光り輝く。
「ま‥‥‥俺がいる時間に、少しでも心が動く事を祈っているよ‥‥。必要ないかもしれないが‥‥。
そなたらにも、純粋に守りたい者があれば‥‥‥。
また後程会おう。その時が最後の機会だ。」
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