上 下
189 / 240

繋いで、心 8

しおりを挟む
 
 その命は、テオドールの刀によって尽きた。
 王城の広間にて、拘束具を付けられた国王は崩御した。


 その様子を、じっと見つめていたレティーシャ王妃。
 そして、そのすべてを見て居た城の者達。

 1人の国王の最側近が声を張り上げた。

 国王の側近達は皆ロスウェルの作り出した縄で縛られている。だが、国王の妻、王妃は玉座につきその様子を見ているなんておかしい。

「国王が斬首刑にされたのです!王妃の首も差し出すべきでしょう!!あなたはこの国の国母でしょう!!!

 なぜです!私達がこうして縛られ貴方はなんの責任も負わないと言うのですか?!」

 国王より年下な眼鏡をかけたその中年の側近、そして執事までもが王妃を睨む様に見て居た。国王に仕えていた者達はみな縛り上げられ床に座らされている。

 その声にテオドールは目を細めた。

「俺はな、人を殺しに来たわけじゃねぇんだ。

 王妃は、ポリセイオに必要な人材だ。要はこれから俺の監視下で国を、民を支えなければならない。」

「ですが!!!そもそも魔術師とやらは王妃が作り出したと言うではありませんか!!!帝国で罪を犯したのもレリアーナ王女様!!レティーシャ王妃様に罪はないとおっしゃるのですか!納得できません!」

 テオドールは、スッとその者の前に立った。

「お前の意見など俺が聞くとでも?」
「わっ‥私は!!侯爵家の当主であります!!
 こんな事をして!王妃だけ残し、王国が‥‥‥」

「だから‥‥‥お前達の意見などもうどうでも良いのだ。
 わからないか?ポリセイオは、生まれ変わる時だ。

 この腐った国王に仕えていた者達は、私の独断で排除する。
 これは決定事項だ。国王は死んだ。」

「っ‥‥‥だからと言って‥‥なぜ私達までっ‥‥。」

「これから一人一人を尋問する。俺の目に敵う者がいれば生かしてやる。‥‥お前は、機会を捨てたがな‥」
「そんな!!!私は!!!」

 テオドールはその男の膝を踏みつけた。

「俺が手遅れだと言ったら最後、覆ることはない‥‥
 残念だったな‥‥。」

 男の体はガタガタと震えた。テオドールの目が本気だからだ。


 ここで意見した事で生き残る機会を失った。
 帝国の皇太子は、そういう人物なのだ。


 明日の朝日を拝める事は叶わない‥‥‥。



「皇太子殿下‥‥‥。国民にはいつ?」
 ロスウェルはテオドールを見た。

「まずやる事がある。ロスウェル、この者達は全員この王城の地下牢へ移動させておけ。」


「‥‥畏まりました。」
 ロスウェルも静かに同意した。指を鳴らした一瞬で、
 部屋にいた者達は姿を消した。いや、地下牢へ放り込まれた。



 そして、テオドールはレティーシャ王妃に近づいた。


「約束した物を、そなたに返す。」

「あぁっ‥‥‥っ‥‥。」

 その黒い箱を見て、レティーシャ王妃は瞳に涙を浮かべた。
 その箱に触れるのに、指が震えた。

 胸に抱き締めて、優しい命の鼓動を感じる‥‥。



 これは奇跡だ‥‥‥。



 レティーシャ王妃の私室の地下、3人はレオンのいる地下室に入った。

 今日もいつもの様にレオンは鉄格子に背を預け、天井を見上げていた。



「レオンっ‥‥‥」
 レティーシャ王妃が震えた声でその名を呼んだ。

 ゆっくりとレオンは振り向いた。
 レティーシャ王妃の後ろにいる、テオドールと同じマジョリカブルーの髪色の男、いや魔術師が目に入った。

「その方々は‥‥?」
 レティーシャ王妃は、レオンに皇太子が来ている事は伝えていなかった。そして、彼等が誰なのかも。

「‥‥レリアーナが言っていた‥‥帝国アレキサンドライトのテオドール皇太子殿下と、帝国の魔術師様です‥‥。


 っ‥‥‥あなたの‥‥心を‥‥‥見つけて下さった‥‥。

 私達の恩人です‥‥‥。」

 嬉し涙で、その美しい顔が濡れていた。
 レオンは少し混乱していた。けれど、レティーシャが胸に抱くそのモノの鼓動を感じた。

 思い至ったレオン、その取り出された心臓が混乱と喜びでドクドクと鼓動が速くなっていた。

 レティーシャもそれを感じ、レオンの胸にそのモノを押し当てた。


 それが本人に帰る瞬間、ひまわりの様な暖かな色が溢れた。
 ドクンと、レオンの胸が鳴る。


「っ‥‥‥はっ‥‥‥。」

 その一体感に‥レオンの瞳から一筋の涙がこぼれた。




 この高鳴る鼓動は、自分の中で鳴っている。

 早い‥‥そして苦しい、泣き出しそうで‥‥

 叫びたい気持ちになった。


 ずっと、何年も離れていた命。

 愛する者の手で帰ってきた。

 命よりも大切だった人‥‥‥。




 その時のことを、今も鮮明に覚えている‥‥‥。


 命を捨ててもいいから‥‥生きていて欲しい‥‥‥。

 たとえその姿を見られなくなっても‥‥‥


 彼女達が生きていてさえくれれば‥‥


 そう思ったんだ‥‥‥。


「ぅ‥‥‥あぁっ‥‥‥なんてっ‥‥‥こんな‥‥‥こんな日がくるなんてっ‥‥‥。」


 レオンは胸を押さえて蹲りボロボロと涙を流した。

 声を抑える事はできなかった。

 此処にいれば‥‥愛する人に会えた‥‥。
 例え何十年縛られても、生きているか死んでいるのかわからなくても‥‥。その姿を見る事ができた‥‥。


 幸せだった‥‥。

 でも、こんな日が来るとは思わなかった‥‥‥。

 命が戻り‥‥外へ出て‥‥‥。


 ガチャンっと施錠が空いた。ロスウェルが鍵を開けたのだ。

 レティーシャ王妃がすぐさまの中に入って、レオンに抱きついた。


「愛しいレオンっ‥‥‥私のレオンっ‥‥‥‥

 良かった‥‥‥っ‥夢の様だわっ‥‥‥貴方を抱きしめる事が出来るなんてっ‥‥。」


 レオンの苦しげな泣き声が、地下室に響いた。


 その姿をテオドールとロスウェルはしばらく眺めていた。
 悲しい2人を救う事が出来た‥‥。


 あとは、この国をどうするかだ。

 国王は、皇太子によって死んだ。
 ポリセイオの政治について関与する事となる。

 王妃だけでは、貴族らを収めるのは難しい事だろう。
 テオドールは、既に考えていた。


 国民には知るべき事がある。それを果たしてこそ、
 自分の言葉が生きるのだ。



「レティーシャ王妃。」
 テオドールは、遠慮がちに声を掛けた。
「っ‥‥はい‥‥‥っ‥‥殿下‥‥。」

 レティーシャ王妃はレオンを抱きしめながらテオドールの方へ目を向けた。

「レオンはもう大丈夫だな?この件は解決だ‥‥いいな?」
「はいっ‥‥ありがとうございましたっ‥‥‥」

「よし‥‥国王は俺が首を刎ねたし、帝国で捕らえている王女とモンターリュ公爵、2人はいつでも処罰出来る状態となった。

 だが、この国の今後についてだが‥‥。」

「はい‥‥‥。」


 テオドールは、帝国の皇族として最善と思われる策を2人に伝えた。


 それは、少し難しいことかもしれないが、
 決して出来ない事でははずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...