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お前は何だ

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「‥‥あなたは、なぜ、ポリセイオに?」

 オリヴァーは慎重に聞いた。そばで聞いているハリーも複雑な顔をしている。


 レティーシャとレオンという魔術師がそもそも、魔の森から出て、どこで暮らし、帝国に保護される事なく過ごしてきたか。


「私の知る限りでは、魔術師は代々アレキサンドライトが保護してきました。あなた方はなぜ?ここに来ることもなく、

 そのような事態になったのです‥?どうか、包み隠さず話してください。私から魔術師をそちらに送るのも、限度があります。」

 レティーシャ王妃は、観念したように口を開いた。


「私と、レオンも魔の森の近くにある‥小さな村で生を受けました。両親は魔術師ではなかった。けれど、私達は小さな頃から、指一つ鳴らすだけで、火を灯す事も、大雨を虹にかえる事もできた。そして私とレオンは‥‥‥‥血を分けた兄妹でした‥‥。」

「えっ?」

「私達は13歳で‥兄妹で愛し合う、その事が周囲に知れ渡り、気味悪がれ、不潔な生き物として‥‥村を追い出されました。どこの世界であれ、兄妹が愛し合うなど理解されるわけもない‥2人で逃げて‥‥逃げて‥‥


 ポリセイオ近くの廃墟を、2人で魔術で直し住まい‥‥

 やがて子供が生まれました。ですが‥‥ポリセイオの国王に見つかり、魔術を知られ‥‥2ヶ月間の間、私達は互いを守り続けました。家に閉じ籠り、守りの結界から抜け出せず

 けれど、もうすでに限界に達した私達は、転移する事を試みました。


 ですが子供の未熟な魔術で歪み、
 転移魔術が不完全となり、子供が国王軍に捕らえられました。


 レオンが、子供を救い出そうとしましたが‥‥
 魔術だって、万能ではないのです‥‥髪色は最高位だとしても、私達の魔術は‥‥未熟だった。

 私が捕らえられ、私達を救う代わりに、夫のレオンは、隙をつき子供を魔の森に転移させる事で力尽き、なす術なく私を守る為命を差し出した‥‥。その上、私は王家の側近である公爵家に身を拘束され‥‥国王の王妃と据えられ、レオンの心臓は私の保護魔法をかけたものの、決して私が見つけられない場所に隠された‥‥。命を差し出したレオンを死なせない為に、私は常にレオンが死なぬよう魔術を施した。

 それだけで精一杯‥‥何も出来ず、王に嫁ぐしかなかった‥。


 この身を差し出すから‥レオンだけは欲しいとライカンスに懇願し、唯一、私の部屋の地下室へレオンはその身を置く事が出来ました。ライカンスは元々、国王になりたかった‥。

 国王を欺き、魔術師である私達を利用し、国王になったあとは‥近くの国から侵略し、何もかも手にするつもりだったことでしょう。私と国王に子は出来ません‥‥そのようにしたのです‥‥ですから後継者も出来るはずがありません。
 ライカンスの思惑です‥‥。私には有り難かったけれど‥。

 そして、魔術というものに関心を示したライカンスは‥
 私とレオン以外にも魔術師を作るように言ってきました。

 これは‥‥本当に、魔術師とは言え‥人間である私達にも、苦痛で悍ましい日々が始まりました‥‥。」

「あなたが王妃になった経緯は分かりました。
 だが‥魔術師を作るというのは‥‥。」

「魔術師を作るのは、唯一私達が知っている禁術です‥‥。

 魔術師を作るのは‥‥普通の人間の血を抜き、私達の血を流し込み‥‥生き抜いた者のみ‥魔術師になる事が出来ます。



 ライリーは、唯一、その禁術に耐え抜き、魔術師となりました。」

「なんて事だ‥」

 オリヴァーの血の気が引いた。

 唯一という事は、成功した例がなかった。
 だが、ライリーはそれを超えて、魔術師となった。

 最高位の魔術師の血が流れている‥。

 だから、帝国民の意識を操る事が出来た。


 それ程、ライリーの執念が魔術師にしたという事か‥。


「私も、成功するとは思いませんでした‥

 それと同時に恐ろしくもありました。

 皇太子殿下の妃になりたいと言った。

 殿下を愛しているからと‥

 私は愛してると言うライリーの思いを、本気にはしていませんでした‥そんなものを愛とは思えなかった‥。

 けれど、それを利用した‥‥。


 愛する人を手に入れる為に‥‥殺したいと言った。


 そのような願いなど‥叶ってはならないと思っていたから‥‥

 決してうまくいくはずないと、信じていました。


 ですが、そのせいで、殿下と婚約者の方に

 癒えぬ傷を負わせてしまった‥‥‥。」





 レティーシャの深い後悔が、見てとれた。
 どんか願いがあるにせよ、2人を傷付けたのは事実だった。



 皇太子の私室、傷を負ったテオドールとリリィベルが、
 その傷を忘れられずに、今こうして心を震わせながら身を寄せ合っている。

「リリィ‥‥‥大丈夫だ‥‥。どこにも行かせない。
 誰にも奪わせない‥‥


 俺はお前を忘れない‥‥‥。愛してる‥‥」

 呪文の様に繰り返す。

 リリィベルはその呪文の様な言葉を茫然と聞いていた。
 酔いしれる事もできず、ただその身に包まれて安心したかった‥‥けれど、安心とは、こうして身体を包まれていて
 離れないという温もりがあると言う事実だった。

 名前を何度も呼び続け、口付けの温もりを与え、
 互いを感じ合う事‥‥。


 礼蘭を忘れた暁と、暁から記憶を消えた礼蘭の魂が深く、根深くその恐怖から抜け出せない。


 誰も知らないその事実、ライリーの罪は重かった。





 深夜2時、静かにテオドールはオリヴァーに呼び出された。

「‥‥‥なんです‥‥。」
「リリィは、大丈夫か?」

「大丈夫な訳がないでしょ‥‥。建国祭が終わり、要人達はいるものの、リリィの傷は大きいです‥。どんなに取り繕うと、私の前で震える‥‥これ以上、待てません‥。」

 テオドールの瞳は、氷の様に冷たかった。

「ライリー・ヘイドンを、1日もはやく処刑してください。

 それだけでも、少しは癒される1つになるなら、


 俺は1日も早く元凶をこの世から抹消したい。」

 オリヴァーは、テオドールの瞳を真っ直ぐ受け止めた。

「その前に1つ‥‥レティーシャ王妃の事情を聞き、ライリーの処刑は問題ないかもしれない。だが、ライカンス・モンターリュはしばらく生かしておく。」




「そうですか‥。」

「ライリー・ヘイドンを唆した奴だが、構わないか?」

「いずれ処刑するのでしょ?なら構いません。私は‥。
 アイツに対して、リリィは認識していません。

 それを教えるつもりもない‥。ポリセイオの者達を消すのであれば‥。ライリーさえ、処刑すればロスウェルも解放されます。」

「だが、レティーシャ王妃の願いを遂行するのに妨げになるかもしれない。」

 テオドールはギロリと目を光らせた。
「レティーシャ王妃の願いの為に、私達が待っていろと?」

「人の命がかかっている‥。」
「私達には関係ない!!!!!」
「人の命がかかっている!!!何度も言わせるな!!!!」

「っ‥‥‥私達に危害を加えた国の者の心配などして‥‥
 リリィの事は後回しですか‥‥‥。」
「ちゃんと話を聞け。ポリセイオで捕らえられた者を救い出す。その為に、今ライリーを死なせてしまえば悟られてしまう可能性がある。そうなると、助けられる命が助けられないっ‥‥。」

「‥‥‥それが、私達と何の関係がっ‥‥‥。」

 テオドールは頭をガックリと下げた。それは悔しさ故だった。

「分かってる‥‥だが、私が今城を空けても、今のお前に城は任せられない。事が解決するまで、お前にポリセイオに行ってもらう。場所はモンターリュ公爵邸。ロスウェルを連れて行け。」
「はぁっ?!」


「‥‥‥これは命令だ。」
 オリヴァーは決して譲るつもりはなかった。

 ロスウェルとテオドールがポリセイオに行ってる間、
 ライリーの拘束はハリー達に委ねられる。

 皆がみんな魔術印を外したところでロスウェルの様になれるとは限らない。5人掛かりでロスウェルの代わりを務めるのだ。

 そして、テオドールとリリィベルを引き離さなければならない。


 だが、互いの傷を舐め合っているだけのテオドールに城を任せてはいけない。
「っ‥‥‥今リリィと俺をっ‥‥。」


「お前は自分が何か忘れたのか?」
 オリヴァーの冷たい声が響いた。

 それが枷だとしても‥‥‥


「っ‥‥‥‥。」

「お前は、帝国アレキサンドライトの皇太子、テオドール・アレキサンドライト。お前は私の命令に従い、外での出来事は、私の代わりに務める義務があるだろう。

 婚約者ばかりに気を取られている無能な皇太子は、
 私の国には必要ない。お前の皇位継承権を剥奪し、
 侯爵家リリィベル・ブラッウォールとは、婚約を解消しようか?」

「っ!!!それは脅しているのですか‥‥?」

「お前にやる気にならないのなら、私はなんとでも言う。
 本分を忘れて仕えないお飾りの無能な皇太子は要らん。
 お前をこの件から外すと言ったが、お前に任せられない。だから、お前が事を早急に解決しろ‥‥」

「父‥‥上‥‥‥‥っ‥‥‥‥。」


「さぁ、選べ‥‥私の正義をお前は守る気はないのか?
 私の選択だ。お前は話を聞かなかった。

 だからこれがどれだけの事なのか分かってないんだ。


 私は、無駄だと思う事はしない。


 お前達を、引き離す事になろうとも、
 この座に座る者は、そしてその隣に立つ者は、
 己の感情だけに囚われてはいけない。

 お前達は既に難を逃れた。いつまでも縛られるな。

 これが成功すれば、帝国の為になるのだ。


 それが、皇族の私達のすべき事だ。」

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