173 / 240
忘れる恐怖
しおりを挟む
「・・・・リリィ、大丈夫なのか?」
皇帝オリヴァーが、リリィベルの背をさすった。
「はい。私は大丈夫です陛下・・・。テオが助けてくださいましたから・・・。」
リリィベルは笑みをオリヴァーに向けた。
隣にいる皇后マーガレットも不安そうな顔をした。
「まさか・・・レリアーナ王女に魔術をかけられて、あなたを忘れてしまうなんて・・・。」
「・・・・・そのような魔術だったようです。」
「本当に不甲斐ないな・・・私たちは・・・。」
オリヴァーが悔し気に顔を歪ませた。
ロスウェルが最初に訪ねてきたとき。慌てた顔をしていた。
意味がわからなかったが、今ならわかる。
だが、その時すでに記憶は塗り替えられて、レリアーナがテオドールの婚約者だと思い込んでいた。
息子の愛する婚約者を忘れて、この帝国すべてが、危機に晒された。
そもそも、ポリセイオに警戒していたはずが、まんまと騙された。
優しげな雰囲気に疑いもせず。これは失態だ。
だが・・・テオドールは・・・・。
「リリィ・・・。」
皇族席で身を寄せ合う三人の前にテオドールが帰ってきた。
「テオ・・・・。」
リリィベルが足早に駆けつけてその体に身を寄せた。
その体をしっかりと抱きとめてテオドールはほっと息を吐いた。
「そばを離れてすまない・・・。もうお前のそばを離れないからな?」
「はい・・・。」
「・・・・・・。」
そんな二人を見て、オリヴァーはますます感じた。
なぜ、テオドールは魔術にかからずに居られたのか・・・。
愛の力?これだけ巧妙に、大量の人々が魔術にかかった中で、
魔術師と契約した皇帝である自分でさえ、罠にはまったのに
なぜ、テオドールは・・・・。
だが、そうでなければ、恐ろしいことになっていた。
「‥‥‥‥」
オリヴァーはふと会場の隅で二人を拘束するロスウェルを見た。
バルコニーで、テオドールに扮したロスウェルは・・・・。
そして今のあの髪色。
焼けるように解かれた魔術印。
「・・・・・。」
そっと、手の甲をさすった。
皇太子の時代から、ロスウェルと出会った日からずっと。
この身を守ってくれていた魔術。
いや、ロスウェル。
その魔術印が消えて、こんな気持ちになるとは思わなかった。
皇帝という王冠を捕られたような喪失感。
ロスウェル達がいなければ、こんなに無力な皇帝・・・。
帝国は、確かに魔術師達のおかげで成り立っている。
だが、唯一。テオドールだけが、リリィベルの異変に気付いた。
それは、愛ゆえなのか・・・。
「・・・・・。」
遠く離れているロスウェルと、オリヴァーは目があった。
そうするとロスウェルは、情けなさそうに眉を下げて笑った。
「・・・・・。」
胸が締め付けられた。
普段の軽口を叩いているロスウェルのあんなに自信なさげな顔。
幼い頃から一緒にいた・・・不思議な友・・・。
あんな顔は、もう二度としてほしくない。
「テオドール。」
「はい陛下。」
「詳しく聞きたい。そろそろお開きにしよう・・・。」
「はい陛下・・・。」
皇族たちがその場から離れた。
それとは裏腹に帝国の街中は一晩中、祭りで賑やかだった。
この数時間で起きた婚約者のすり替えられた事実は、霧が晴れるように無くなり
皆が真実の婚約者を当然のように記憶を取り戻していった。
まるで何もなかったかのように・・・・。
皇族の広いリビングルーム。そこに4人で集まった。
大きな向かい合わせのソファーにテオドールとリリィベルが身を寄せて座った。向かいにオリヴァーとマーガレットが座る。
「はぁ・・・・。」
テオドールが心から安堵するため息が漏れた。
「・・・テオ・・・。お疲れ様でした・・・。」
「いや・・・いいんだ。大丈夫だ。」
オリヴァーとマーガレットは真剣に向き合ってテオドールを見た。
「テオ、一体何があったんだ?初めから話してくれ。」
「もちろんです・・・。その前に、ロスウェルに・・・あー・・・そうだった。
魔術印ねぇや。」
「あ、お前もないのか?」
「ええ。父上もでしょ?」
「あ、ああ・・・そうなんだ。」
手の甲をさすったオリヴァーに、テオドールは少し胸が痛んだ。
「殿下、私がおります。」
リコーが片膝をつき、4人の前に姿を現した。
「あ、リコー・・・。そうか、お前リリィベルについててくれたのか。」
「はい。会場では、皆陛下たちのそばでお守りしておりました。連絡手段が一時途絶えております故、
ロスウェル様からの指示を受けております。」
「そっか・・・。あいつは気が利くな本当に・・・。ロスウェルは離れられそうか?」
その問いにリコーは顔を曇らせた。
「いえ・・・。このままポリセイオ王国のレリアーナ王女と公爵。あと従者たちを地下牢に閉じておくため、そばを離れることは危険です。今ロスウェル様と他の全員が地下にて待機しております。」
「そっか・・・。後でそちらに行くと念話を入れておいてくれ。」
「畏まりました。私は部屋の外におりますので、いつでもお声かけを・・・・。」
「ああ、わかった。」
リコーは一礼して姿を消した。
リコーが離れ、メイドたちにお茶を用意させた後、再び4人になる。
テオドールはリリィベルの髪をなでて、口を開いた。
「・・・・建国祭の支度をして・・・。俺がリリィベルの部屋に行くと。
そこにレリアーナ王女がいました。」
「なに?」
「リリィからあとで聞いた話ですが、レリアーナ王女が、リリィの部屋に来たそうです。話し相手をしてるうちに、リリィも知らずに‥。そして、俺は‥ベリー達が違和感なくレリアーナ王女に接しているのを見て‥‥呼んだらロスウェルが来てくれました。ロスウェルは、自分達とは違う魔術を感じ、いち早く父上の所へ行ったと聞きました。」
テオドールはリリィベルの額に唇を当てた。
オリヴァーは悔しそうに俯いた。
「ああ、確かにロスウェルが来た‥。魔術が展開されたが、
原因が分からず焦っているロスウェルに、テオドールとリリィにと言われて、リリィとは‥‥誰かと聞いた。
その瞬間、ロスウェルがリリィの身に何かあったのだと思ったんだな。当然だ‥‥リリィの事を覚えてないなんて、おかしいだろう。そしたら、血相変えて姿を消した。」
テオドールは語られるその事実に胸を痛め、リリィを抱き締めて話を続けた。
「おそらく、俺が呼んだから来たのでしょう‥。
目があった瞬間に、レリアーナ王女が居て俺は‥‥恐怖を感じましたから。ベリー達は気付いていないし。
レリアーナ王女も、当たり前の様に俺の名を呼び恐ろしくなった‥‥。」
そう言うと切なげに眉を顰めて、リリィベルの肩に頭を預けた。
「初めて、父上に貰った鍵が役に立ちましたよ。」
「‥‥‥お前が、魔術にかからなくてよかった‥‥。」
その言葉にテオドールのリリィベルを抱く力が籠った。
「俺が‥‥気付かない訳ない‥‥‥。
ロスウェルに、リリィを探すから建国祭に間に合わなければ俺に扮していろといいました。あちこち探したのですが、リリィが見つからなくて‥‥建国祭が始まったら、ハリーがリリィの部屋を調べようと言ったので‥‥。リリィの部屋を探して‥。見つけたのは偶然でした。‥‥王女がどのようにしたのかはわかりませんが、リリィは父君から貰った‥‥指輪のケースの中に、小さな妖精の大きさで閉じ込められていたんです。‥‥‥俺は、ただ見た事がないケースを、開けただけの本当に偶然なんです‥‥。それでやっと‥。
あとはロスウェルが、王女と公爵の会話を聞いて‥‥自分が魔術師である、いや、魔術師になったという会話を盗聴したんです。それも、最高位の魔術師‥‥。」
「最高位?」
「ええ、なので‥‥頭にきたんですよ‥‥。
俺達をいつも守ってくれてたロスウェルより凄いなんてあり得ないって‥‥。このふざけた魔術を解けるのは、ロスウェルしか居ないって‥‥。
ここに居る者達は、父上と俺と魔術印を交わしていますから、それを解いたら、何にも制限されないロスウェルならら‥‥。きっともっとすごいはずだって‥‥。
だから、魔術印を外してみろと言いました。
そしたら、ロスウェルの髪の色に変化があったので‥‥。
ああ、やっぱり‥魔術師達と俺達との契約がロスウェル達を制限してるんだと思いました。
なので‥‥父上の了承も得ずに、父上とも契約を解除させました。‥‥勝手をして申し訳ありません‥‥。」
「謝る必要などない!‥私はそんな事になってる事も知らずにっ‥‥お前の大切なリリィを‥‥。」
テオドールは少しだけ目尻を下げて、オリヴァーとマーガレットを見た。
「いいえ、父上と、ロスウェルの大切な絆を解かせてしまって、心が痛みました。父上にとっても、ロスウェルは大切な人でしょう。‥‥でも、そのおかげでこうして、ロスウェルが最高位の魔術師であると証明する事が出来ました。
作られた魔術師なんて比べ物にならないくらい。
ロスウェルは‥‥すごい‥‥
本当に、ロスウェルが居てくれて良かった‥‥‥。」
噛み締める様にテオドールが言った。
オリヴァーも同じ気持ちだった。
「だから‥‥‥王女を捕まえる為と、事実を取り戻す為、
ロスウェルを表舞台に立たせました。
それに、ポリセイオにも魔術師がいる。帝国にも
最高位の魔術師がいると分かれば、ポリセイオと対等に、
今回の騒ぎの抗議も出来ますから‥‥。」
「ああ、本当に‥‥‥お前は‥‥頼もしくて‥‥
私は、お前を誇りに思うよ。テオドール‥‥‥。」
少し涙ぐんだ目でオリヴァーは弱々しく笑った。
「話はこれで全部です。‥‥あとはポリセイオの思惑を尋問しなければなりません。」
「ああ、絶対に容赦はしない‥‥‥。」
「はい。リリィとロスウェルの屈辱を晴らします‥。」
「もちろんだ。」
テオドールはリリィベルを見た。
そして、クスリと笑った。
「ふっ‥‥‥寝ちまった。静かだと思った。」
オリヴァーとマーガレットもふっと笑った。
「張り詰めていたんだろ‥‥‥。」
「そうね‥‥。閉じ込められて、さぞ怖かったでしょう‥
それなのに‥‥リリィの事忘れてしまうなんて‥‥。
なんて怖いことなの‥‥‥。」
思わず涙ぐむマーガレットに、オリヴァーはマーガレットの頬を撫でた。
テオドールも、その事にずっと恐怖を抱いていた。
「母上、私がリリィを忘れませんでした。だから大丈夫です。
俺は、絶対、リリィを‥‥忘れないし‥‥どこへ行ったって‥
絶対、探し出して‥‥見つけ出します‥‥‥。
今回は偶然だったけど‥‥それも、俺達が繋がってるからかもしれないでしょ‥‥?」
そう言った時、心の底から泣けてきた。
無我夢中だった。見つけた時もそうだったけど、
今になって、リリィベルを忘れる恐怖に、
身体が震えていた‥‥。
皇帝オリヴァーが、リリィベルの背をさすった。
「はい。私は大丈夫です陛下・・・。テオが助けてくださいましたから・・・。」
リリィベルは笑みをオリヴァーに向けた。
隣にいる皇后マーガレットも不安そうな顔をした。
「まさか・・・レリアーナ王女に魔術をかけられて、あなたを忘れてしまうなんて・・・。」
「・・・・・そのような魔術だったようです。」
「本当に不甲斐ないな・・・私たちは・・・。」
オリヴァーが悔し気に顔を歪ませた。
ロスウェルが最初に訪ねてきたとき。慌てた顔をしていた。
意味がわからなかったが、今ならわかる。
だが、その時すでに記憶は塗り替えられて、レリアーナがテオドールの婚約者だと思い込んでいた。
息子の愛する婚約者を忘れて、この帝国すべてが、危機に晒された。
そもそも、ポリセイオに警戒していたはずが、まんまと騙された。
優しげな雰囲気に疑いもせず。これは失態だ。
だが・・・テオドールは・・・・。
「リリィ・・・。」
皇族席で身を寄せ合う三人の前にテオドールが帰ってきた。
「テオ・・・・。」
リリィベルが足早に駆けつけてその体に身を寄せた。
その体をしっかりと抱きとめてテオドールはほっと息を吐いた。
「そばを離れてすまない・・・。もうお前のそばを離れないからな?」
「はい・・・。」
「・・・・・・。」
そんな二人を見て、オリヴァーはますます感じた。
なぜ、テオドールは魔術にかからずに居られたのか・・・。
愛の力?これだけ巧妙に、大量の人々が魔術にかかった中で、
魔術師と契約した皇帝である自分でさえ、罠にはまったのに
なぜ、テオドールは・・・・。
だが、そうでなければ、恐ろしいことになっていた。
「‥‥‥‥」
オリヴァーはふと会場の隅で二人を拘束するロスウェルを見た。
バルコニーで、テオドールに扮したロスウェルは・・・・。
そして今のあの髪色。
焼けるように解かれた魔術印。
「・・・・・。」
そっと、手の甲をさすった。
皇太子の時代から、ロスウェルと出会った日からずっと。
この身を守ってくれていた魔術。
いや、ロスウェル。
その魔術印が消えて、こんな気持ちになるとは思わなかった。
皇帝という王冠を捕られたような喪失感。
ロスウェル達がいなければ、こんなに無力な皇帝・・・。
帝国は、確かに魔術師達のおかげで成り立っている。
だが、唯一。テオドールだけが、リリィベルの異変に気付いた。
それは、愛ゆえなのか・・・。
「・・・・・。」
遠く離れているロスウェルと、オリヴァーは目があった。
そうするとロスウェルは、情けなさそうに眉を下げて笑った。
「・・・・・。」
胸が締め付けられた。
普段の軽口を叩いているロスウェルのあんなに自信なさげな顔。
幼い頃から一緒にいた・・・不思議な友・・・。
あんな顔は、もう二度としてほしくない。
「テオドール。」
「はい陛下。」
「詳しく聞きたい。そろそろお開きにしよう・・・。」
「はい陛下・・・。」
皇族たちがその場から離れた。
それとは裏腹に帝国の街中は一晩中、祭りで賑やかだった。
この数時間で起きた婚約者のすり替えられた事実は、霧が晴れるように無くなり
皆が真実の婚約者を当然のように記憶を取り戻していった。
まるで何もなかったかのように・・・・。
皇族の広いリビングルーム。そこに4人で集まった。
大きな向かい合わせのソファーにテオドールとリリィベルが身を寄せて座った。向かいにオリヴァーとマーガレットが座る。
「はぁ・・・・。」
テオドールが心から安堵するため息が漏れた。
「・・・テオ・・・。お疲れ様でした・・・。」
「いや・・・いいんだ。大丈夫だ。」
オリヴァーとマーガレットは真剣に向き合ってテオドールを見た。
「テオ、一体何があったんだ?初めから話してくれ。」
「もちろんです・・・。その前に、ロスウェルに・・・あー・・・そうだった。
魔術印ねぇや。」
「あ、お前もないのか?」
「ええ。父上もでしょ?」
「あ、ああ・・・そうなんだ。」
手の甲をさすったオリヴァーに、テオドールは少し胸が痛んだ。
「殿下、私がおります。」
リコーが片膝をつき、4人の前に姿を現した。
「あ、リコー・・・。そうか、お前リリィベルについててくれたのか。」
「はい。会場では、皆陛下たちのそばでお守りしておりました。連絡手段が一時途絶えております故、
ロスウェル様からの指示を受けております。」
「そっか・・・。あいつは気が利くな本当に・・・。ロスウェルは離れられそうか?」
その問いにリコーは顔を曇らせた。
「いえ・・・。このままポリセイオ王国のレリアーナ王女と公爵。あと従者たちを地下牢に閉じておくため、そばを離れることは危険です。今ロスウェル様と他の全員が地下にて待機しております。」
「そっか・・・。後でそちらに行くと念話を入れておいてくれ。」
「畏まりました。私は部屋の外におりますので、いつでもお声かけを・・・・。」
「ああ、わかった。」
リコーは一礼して姿を消した。
リコーが離れ、メイドたちにお茶を用意させた後、再び4人になる。
テオドールはリリィベルの髪をなでて、口を開いた。
「・・・・建国祭の支度をして・・・。俺がリリィベルの部屋に行くと。
そこにレリアーナ王女がいました。」
「なに?」
「リリィからあとで聞いた話ですが、レリアーナ王女が、リリィの部屋に来たそうです。話し相手をしてるうちに、リリィも知らずに‥。そして、俺は‥ベリー達が違和感なくレリアーナ王女に接しているのを見て‥‥呼んだらロスウェルが来てくれました。ロスウェルは、自分達とは違う魔術を感じ、いち早く父上の所へ行ったと聞きました。」
テオドールはリリィベルの額に唇を当てた。
オリヴァーは悔しそうに俯いた。
「ああ、確かにロスウェルが来た‥。魔術が展開されたが、
原因が分からず焦っているロスウェルに、テオドールとリリィにと言われて、リリィとは‥‥誰かと聞いた。
その瞬間、ロスウェルがリリィの身に何かあったのだと思ったんだな。当然だ‥‥リリィの事を覚えてないなんて、おかしいだろう。そしたら、血相変えて姿を消した。」
テオドールは語られるその事実に胸を痛め、リリィを抱き締めて話を続けた。
「おそらく、俺が呼んだから来たのでしょう‥。
目があった瞬間に、レリアーナ王女が居て俺は‥‥恐怖を感じましたから。ベリー達は気付いていないし。
レリアーナ王女も、当たり前の様に俺の名を呼び恐ろしくなった‥‥。」
そう言うと切なげに眉を顰めて、リリィベルの肩に頭を預けた。
「初めて、父上に貰った鍵が役に立ちましたよ。」
「‥‥‥お前が、魔術にかからなくてよかった‥‥。」
その言葉にテオドールのリリィベルを抱く力が籠った。
「俺が‥‥気付かない訳ない‥‥‥。
ロスウェルに、リリィを探すから建国祭に間に合わなければ俺に扮していろといいました。あちこち探したのですが、リリィが見つからなくて‥‥建国祭が始まったら、ハリーがリリィの部屋を調べようと言ったので‥‥。リリィの部屋を探して‥。見つけたのは偶然でした。‥‥王女がどのようにしたのかはわかりませんが、リリィは父君から貰った‥‥指輪のケースの中に、小さな妖精の大きさで閉じ込められていたんです。‥‥‥俺は、ただ見た事がないケースを、開けただけの本当に偶然なんです‥‥。それでやっと‥。
あとはロスウェルが、王女と公爵の会話を聞いて‥‥自分が魔術師である、いや、魔術師になったという会話を盗聴したんです。それも、最高位の魔術師‥‥。」
「最高位?」
「ええ、なので‥‥頭にきたんですよ‥‥。
俺達をいつも守ってくれてたロスウェルより凄いなんてあり得ないって‥‥。このふざけた魔術を解けるのは、ロスウェルしか居ないって‥‥。
ここに居る者達は、父上と俺と魔術印を交わしていますから、それを解いたら、何にも制限されないロスウェルならら‥‥。きっともっとすごいはずだって‥‥。
だから、魔術印を外してみろと言いました。
そしたら、ロスウェルの髪の色に変化があったので‥‥。
ああ、やっぱり‥魔術師達と俺達との契約がロスウェル達を制限してるんだと思いました。
なので‥‥父上の了承も得ずに、父上とも契約を解除させました。‥‥勝手をして申し訳ありません‥‥。」
「謝る必要などない!‥私はそんな事になってる事も知らずにっ‥‥お前の大切なリリィを‥‥。」
テオドールは少しだけ目尻を下げて、オリヴァーとマーガレットを見た。
「いいえ、父上と、ロスウェルの大切な絆を解かせてしまって、心が痛みました。父上にとっても、ロスウェルは大切な人でしょう。‥‥でも、そのおかげでこうして、ロスウェルが最高位の魔術師であると証明する事が出来ました。
作られた魔術師なんて比べ物にならないくらい。
ロスウェルは‥‥すごい‥‥
本当に、ロスウェルが居てくれて良かった‥‥‥。」
噛み締める様にテオドールが言った。
オリヴァーも同じ気持ちだった。
「だから‥‥‥王女を捕まえる為と、事実を取り戻す為、
ロスウェルを表舞台に立たせました。
それに、ポリセイオにも魔術師がいる。帝国にも
最高位の魔術師がいると分かれば、ポリセイオと対等に、
今回の騒ぎの抗議も出来ますから‥‥。」
「ああ、本当に‥‥‥お前は‥‥頼もしくて‥‥
私は、お前を誇りに思うよ。テオドール‥‥‥。」
少し涙ぐんだ目でオリヴァーは弱々しく笑った。
「話はこれで全部です。‥‥あとはポリセイオの思惑を尋問しなければなりません。」
「ああ、絶対に容赦はしない‥‥‥。」
「はい。リリィとロスウェルの屈辱を晴らします‥。」
「もちろんだ。」
テオドールはリリィベルを見た。
そして、クスリと笑った。
「ふっ‥‥‥寝ちまった。静かだと思った。」
オリヴァーとマーガレットもふっと笑った。
「張り詰めていたんだろ‥‥‥。」
「そうね‥‥。閉じ込められて、さぞ怖かったでしょう‥
それなのに‥‥リリィの事忘れてしまうなんて‥‥。
なんて怖いことなの‥‥‥。」
思わず涙ぐむマーガレットに、オリヴァーはマーガレットの頬を撫でた。
テオドールも、その事にずっと恐怖を抱いていた。
「母上、私がリリィを忘れませんでした。だから大丈夫です。
俺は、絶対、リリィを‥‥忘れないし‥‥どこへ行ったって‥
絶対、探し出して‥‥見つけ出します‥‥‥。
今回は偶然だったけど‥‥それも、俺達が繋がってるからかもしれないでしょ‥‥?」
そう言った時、心の底から泣けてきた。
無我夢中だった。見つけた時もそうだったけど、
今になって、リリィベルを忘れる恐怖に、
身体が震えていた‥‥。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~
なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。
そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。
少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。
この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。
小説家になろう 日間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 週間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 月間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 四半期ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 年間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 総合日間 6位獲得!
小説家になろう 総合週間 7位獲得!
成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?
蓮
恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ!
ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。
エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。
ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。
しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。
「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」
するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
俺様御曹司に飼われました
馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!?
「俺に飼われてみる?」
自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。
しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる