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少女の夢 2
しおりを挟む「ご夕食を召し上がらないのですか?」
メイドが声をかけに来た。
食べることが、こんなに難しいことだなんて・・・。
この屋敷を出たら・・・貴族で育った私はどうやって生きていくのだろう・・・。
そう言えば、皇太子の母は、城下で平民として7年暮らしていた。
どうやって・・・・?
何を糧に・・・?
それも、これも・・・皇太子の存在があったから・・・?
皇帝の愛を信じていたから?
私には信じられるものが何もないのに・・・・。
「・・・夕食は、いらないわ・・・・。」
うつろな目で呟いた。
このまま、何も口にしなければ、死ぬかしら・・・。
生き延びて何になるの・・・。
結局、情報を漏洩していた父の罪は、この国に来たところで・・・
私に科せられる罪じゃない・・・。
「・・・・もう・・・死ねばいいんだわ・・・・。」
侯爵令嬢として、生きてきた私・・・。
今更平民と縁をつないだところで、そんな生活に満足する訳がない・・・。
彼以上の人は・・・存在しない・・・。
そうして2日経った朝、モンターリュ公爵に朝食に呼ばれた。
「困りましたね。せっかく生き延びたというのに。私の屋敷の一室で死ぬおつもりですか?」
「・・・・・・・。」
生気の抜けたライリーは、公爵とは目も合わせなかった。
そんなライリーを見て、公爵はにやりと笑った。
「・・・そんなに、皇太子がよかったですか?」
「・・・・・・・。」
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その言葉に、ライリーの指先がピクリと動いた。
「・・・・なにを・・・・。」
「あなたが、皇太子妃になれるとしたら、なりたいですか?」
自信ありげに公爵は微笑んだ。けれど、その笑顔にライリーはなくした怒りを覚えた。
「そんなのっ・・・できる訳ないではありませんかっ・・・私を馬鹿にしてっ・・・。」
「ふははっ・・・よかった。まだ元気はありそうですね?」
「揶揄わないでっ・・・罪を逃れた私が一体なにをっ・・・・。」
混乱するライリーに、公爵は更に話を続けた。
「あなたは・・・もう死にたいのでしょう?まぁ、ライリー・ヘイドンという女性は死んだも同然。
どこで死のうが、皇太子には痛くも痒くもない。悔しくはないですか?」
「っ・・・悔しさなら・・・もう死ぬほど味わったわっ・・・。」
「いやぁ・・・死ぬ気であれば・・・まだまだ・・・・。足掻ける方法はあるんですよ。
この、ポリセイオには・・・・。」
「え・・・・?」
「ポリセイオ王国、現王妃は・・・私の義理の姉なのです・・・。
あなたがどうしても皇太子を手に入れたいと、死ぬ覚悟でそう思うのであれば・・・。
手を貸しましょう・・・。文字通り、死ぬ覚悟、ですよ?」
怪しげに光る公爵の瞳が・・・ライリーの心に突き刺さった。
「・・・・・死ぬ、覚悟・・・・・。」
私はもう・・死んだも同然・・・・。
「・・・うまくいけば、あなたの愛する皇太子が手に入り、帝国に帰ることができますよ。」
「・・・・・・・・・やるわ・・・・・・・・・・・」
迷いはなかった。私はもう死んでいるから・・・。
彼を手に入れるための最後の機会があるのなら・・・・。
私は死んでも逃さない・・・・。
私はまだ・・・・。
それから数日後の深夜、モンターリュ公爵に連れられ、ポリセイオ王国の城へ隠し通路から入った。
薄暗い豪華な部屋に繋がった。
そこには、薄暗くて黒く見えた髪の長い美しい女性。キリッとした目をしたポリセイオの王妃がそこにいた。
黒真珠のような瞳が、光に反射して見えた。
「・・・ライカンス・・・。」
「レティーシャ王妃。ご挨拶申し上げます。文に書いた通り、お連れ致しました。」
モンターリュ公爵が、恭しく頭を下げた。深く外套を被ったライリーは息を呑んだ。
「お前が・・・ライリーか・・・。」
冷ややかな美しい瞳がライリーに突き刺さった。外套のフードを外してその姿を晒した。
「はい・・・。ライリー・ヘイドンと申します。お目にかかれて光栄です。王妃様。」
ライリーは幼い頃から培った美しいカーテシーをして見せた。
「・・・そう。お前は、本当に・・・覚悟を決めてここに来たのか?」
「・・・はい・・・。」
「何か分かってきているのか?」
「・・・何をするのかは存じていませんが、覚悟ならあります。死んだも同然の私です。」
「・・・左様か・・・それほど、叶えたい願いか?」
その問いには、その執念を瞳に強く宿した。
「はい。命を懸けて・・・。」
「・・・・・・。」
レティーシャ王妃は、ライリーを見て悲しげに眉を下げた。
「そなたを、私の隠し部屋へ案内しよう。ライカンス、追って知らせを出す。
それまで姿を見せるな。」
「承知しました。姉上・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
公爵の姿も見ずにただ帰るのを待ち、姿を消したのち王妃はライリーを連れ地下室へ続く扉を開けた。
石の壁が続く地下への階段。歩くたびに、壁にある蝋燭の火が灯る。
「・・・・・・。」
それを少し恐怖に思いながら、ライリーは王妃の後に続いた。
やがてたどり着いた地下室の扉を開けると、そこはまた薄暗い部屋だった。
だが、その奥に、牢屋のような鉄格子に遮られた部屋に、青白く輝く一人の髪の長い男性がいた。
「・・・っ・・・・」
その男性は、悲しげな瞳で王妃を見つめていた。
そんな男性を王妃も愛おしく見つめている。
「・・・レオン・・・。」
「レティーシャ・・・・その子は・・・・。」
「あなたと私の力を欲しがる者よ・・・。」
「・・・ああ・・・ライカンスが連れてきたのか・・・・・。」
「ええ・・・・。」
二人の表情が暗い。けれどライリーはその雰囲気が嫌だった。
その相手を思いやるような姿は、皇太子とリリィベルを彷彿させる。
レオンと呼ばれるその男性は、ライリーを見た。
その瞳に、ライリーは少し後退った。
レオンという男は、容姿端麗な男性だった。マジョリカブルーの髪が印象的だった。
よく見れば、レティーシャ王妃も同じ髪色だ。
「お二人は・・・血縁者・・・ですか?」
ライリーは、素朴な疑問を口にした。
「はっ・・・本当に何も知らずに来たんだね・・・。」
「そうようだわ。まぁ・・・ペラペラと話をされても困るけれどね・・・・・。」
鉄格子に掛ける手を二人は握りしめ合っていた。
「・・・・・・・・。」
その繋がれた手を見て、ライリーは眉を潜めた。
「・・・・王妃様・・・あなた様には・・・国王陛下が・・・・。」
その言葉にレティーシャ王妃は忌々しく顔を歪めた。
「・・・今のそなたにそれを知る資格はない。」
「っ・・も・・申し訳ありませんっ・・・・・。」
慌てて頭を下げた。レティーシャ王妃から放たれる威圧感は計り知れなかった。
ここで機嫌を損ねるのは、絶対にダメだと本能が告げている。
「・・・そなたは、何を望み、ここへ来た・・・・。」
レオンが、ライリーに問いかけた。
ライリーはハッとし、レオンを見た。
「私は・・・帝国アレキサンドライトから参りました。
私は、幼い頃から、テオドール皇太子殿下をお慕いしておりました・・・・。
ですが、我が侯爵家は没落し、私はこの国に逃れました・・・。
もし、機会があるならば・・・・
私は皇太子妃になりたいのです・・・・・・。
ずっと・・・愛してきた・・・・・。私以上に皇太子殿下を愛する者などおりませんっ・・・。
忘れられないのならっ・・・死ぬ気で足掻いて・・・・
皇太子殿下の婚約者になりっ・・・あの方の愛を手に入れたい・・・。」
「・・・・・・アレキサンドライトか・・・・・・・・。」
レオンは意味深に呟いた・・・。
レティーシャ王妃は、ライリーを見て眉を顰めた。
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当然・・・私以外に相応しい者など・・・。」
「だが、皇太子の婚約者は、そなたではなかった・・・。
その者を押し退けて、お前は皇太子妃になりたいと申すか?」
「はい。」
一つの迷いもなく、ライリーは答えた。
「・・・それが、死んでも叶えたいそなたの願いか・・・。」
「・・・私には、その道しか御座いません。」
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