上 下
159 / 240

初めまして、ポリセイオ王国

しおりを挟む
 三国の王子、王女、公子を迎えたテオドールとリリィベルは疲労が溜まっていた。
 主な理由は、サーテリアとアルセポネが占めているが、ここからは気を引き締めなくてはならない。
 残るは得体の知れないポリセイオ王国の使者だった。

「リリィ・・・疲れただろう。」
「あ・・・はい・・。でも最後のお客様ですから、大丈夫です。」

 朝から始まった出迎え。まだ1時間だというのに、この疲労感だった。
「リリィベル様、少しの間こちらの椅子に・・・。」
 カタリナが気を利かせて椅子を用意してくれた。
「ありがとうカタリナ・・・。少しだけ・・・。」

 控え目に腰を下ろしてリリィベルはふぅっと息をついた。
「リリィ・・・もう少し我慢してくれ、ポリセイオ王国は俺も会うのは初めてなんだ。」
「えぇ・・・存じています・・・。皇帝陛下からも気を付けるようにと・・・。」
「ああ・・・。少し気を引き締めないとな・・・。」

 テオドールはリリィベルの頭を一撫でして目線を合わせた。
「お前が側にいてくれるだけで、俺は頑張れる・・・。」
「嬉しいです・・・。」

 テオドールの手を取り、自身の頬に添えた。
「私もテオをがいるだけで頑張れます・・・。」


 癒しの時間はさほど長くはなかった。外にいる城門番の兵士から声がかかった。
「どうやら・・・おつきのようだな・・・。」
「はい・・・。わかりました。」

 テオドールの手を取り椅子から立ち上がり、ドレスの裾を払った。

「テオ・・・。きっと大丈夫よ・・・。案外良い方かもしれません。わざわざ建国祭にいらしてくださるのですから・・。」
 リリィベルの笑顔にテオドールも微笑んだ。
「だと良いな・・・。」

 2人は腕を組み、穏やかな表情を浮かべて、扉が開かれるのを見ていた。
 扉の向こうから現れた。一人の小綺麗な中年男性、赤茶色の髪に灰色の瞳を持った逞しい身体。

「初めまして、テオドール皇太子殿下、ポリセイオ王国から参りました。ライカンス・モンターリュで御座います。」
 丁寧な礼をしたライカンス・モンターリュ。
「我が帝国の建国祭を祝いに遠い所から来てくれた事を感謝する。モンターリュ公爵。陛下から話は聴いている。そして、紹介しよう。私の婚約者、リリィベル・ブラックウォール嬢だ。」
 
「初めまして、モンターリュ公爵。ようこそお越しくださいました。」

リリィベルは美しく微笑んだ。そんなリリィベルに公爵はニコリと笑顔を返した。

「ご婚約おめでとうございます。お二人で出迎えて頂けて光栄で御座います。なにより突然の申し出に応じて頂き、こうして招待して下さった事。誠に光栄で御座います。」
「わざわざ祝いにやってきてくれるのだ。断る理由はない。感謝する。」

 ライカンスはニコッと笑った。
「手紙には私の訪問をお伝えしましたが、殿下にご紹介したい方がいるのです。
 我が王国には国王と王妃がいるのですが、子宝に恵まれず、最近になり後継者となる方を迎えました。
 今回は、その件もあり参上致しました。ご紹介します。」

 ライカンスの大きな身体の後ろに控えていた者が前に出た。

「初めまして、アレキサンドライト帝国、テオドール皇太子殿下にご挨拶申し上げます。
 私は、レリアーナ・ポリセイオと申します。以後お見知りおきを・・・。」

 現れたのは、深く青いマジョリカブルー色の髪の長い女性だった。小柄でリリィベルと同じような体系をしている。
 庇護欲をそそる優し気な目元と涙ぼくろが印象的な女性だった。

「ポリセイオの後継者は女性なのか?」
「はい、この度王女となられました。レリアーナ王女です。」
「左様か・・・。どのような経緯であろうが、こうして我が帝国に来てくれた事に感謝する。
 レリアーナ王女。在城中はどうかごゆっくり、モンターリュ公爵も。何かあれば言ってくれ。」
「ありがとう御座います。テオドール皇太子殿下。」

 綺麗なカーテシーをしたレリアーナ王女。そしてモンターリュ公爵も頭を下げた。

 スッと頭を上げたレリアーナ王女はリリィベルを見てにこりと笑った。

「お噂はポリセリオまで届いておりましたわ。テオドール皇太子殿下の婚約者はとてもお美しい方ですのね。お会い出来るのをとても、楽しみにしておりましたわ。」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。レリアーナ王女。」
 リリィベルは美しい笑顔でそう答えた。
「是非とも仲良くして頂きたいわ。私は最近王女となりました。至らぬ点もあるかと思いますが、どうか宜しくお願い致します。」
「こちらこそ、何かあれば遠慮なくおっしゃって下さいね。」

 そう言うとリリィベルはテオドールを見上げて微笑んだ。
 どうやらリリィベルはレリアーナを気に入った様だった。
 ジュエル王女の後だ、大層印象が良かっただろう。

「では、滞在してもらう部屋へ案内させよう。レリアーナ王女、モンターリュ公爵。従者がご案内致します。
 では、後程‥。」

 テオドールの完璧な皇太子の面が此処へきてやっと正常運転になった。

「では、参りましょう。モンターリュ公爵。」
「はい、王女様‥。」

 テオドールとリリィベルから去る2人を見送って、安堵の息をついた。

「ポリセリオ王国は礼儀正しいな‥これまでが変だったのか?」
「ふふふっ、これで一仕事終えましたね。お疲れ様です。テオ‥。」
「お前もご苦労だった。」
 リリィベルの頭を撫でてテオドールは笑った。


「少し休憩して、次はランチタイムだ。気が滅入るだろうが、女性客はお前と母上に頼らざる終えない。」
「はい。」
「お前は大丈夫だ。もし何かあればすぐ俺に言うんだぞ?」
「ふふっはい。テオ。‥部屋で少し休みましょ?」

 そう言ったリリィベルの頬は少し赤かった。
 まるで何かをせがむ様で言いにくい一言だった。
 そんな表情を察したテオドールはニヤリと笑った。

「唆るなぁ、その言葉。」
「‥言わないでください‥‥半分は休みたいのと‥
 半分は‥‥先程の続きです‥‥。」
「ああ‥‥俺も同じ事考えてたよ。」

 2人は寄り添い、皇太子宮へと足を進めた。

 出迎える客はこれで終わりだ。舞踏会の為ランチは軽食だが、皇族と同盟国の要人が集まる。

 初めて迎えたポリセリオ王国が混ざるランチタイム。
 とは言え国同士が集まれば、どんな言葉が火種になるかわからない場だ。友好は紙一重である。

 これから訪れるランチの時間まで2人は自室で、疲れを癒し慰め合うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...