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その目を凝らして 12
しおりを挟む翌日の朝、テオドールはリリィベルより先に目を覚ました。
綺麗や寝顔を見て笑みを浮かべた。
毎日見ても飽きないその顔は、きっと、前世からだったと思う‥。
毎晩の様に交わされる切望の口付けは、日に日に深くなる。
「‥‥あと何日‥‥式‥‥早めてぇな‥」
きっとこれ以上は我慢が出来なくなりそうで、自信が持てなかった。そらならいっそ結婚式を早めたい‥‥
そもそも、前世じゃ結婚と共に初夜なんて‥‥
そんな事を思い描いては、この世界での立場を頭に叩き込むのだった。
「アレ‥‥この世界にないの‥‥‥?」
小さく呟いた。
「アレって‥‥?」
「!リリィ‥‥起こしたか?」
眠い目を擦ってリリィベルが問いかけた。
「テオの声が‥‥夢の中から飛び出して来ました‥‥」
「わりぃ‥それ夢じゃなくて現実な‥?」
「アレとは‥‥なんですか?」
「うやぁ~‥忘れてくれ‥‥」
テオドールは少し項垂れながら、リリィベルの髪の中に顔を隠した。
「ふふっ‥くすぐったいです‥」
リリィベルが笑う。それすらも朝から擽られる。
きっと限界は近い‥‥。
優しいと思えるこのひと時と、甘くて溶けそうな思いで
ベッドで過ごす。
「テオ?」
「んー‥‥?」
「今日は、ホテルに泊まるのですよね?」
「あぁ‥そうだ。」
「騎士の皆様は?」
「あー‥‥まぁあいつらは何処ででも寝れるから‥。」
「まさか野宿を?」
「はっ‥‥それはさすがに俺も可哀想だと思うぞ?」
「お部屋ちゃんとあるかしら?」
「ベルシュが言い出したんだ。あるだろ‥」
「あっ‥あと、2人でお買い物‥」
「隠れイーノク付きのな‥‥いらねぇのに‥」
「でも、お義父様があんな厳しい方だとは思いませんでした。」
「まだ可愛い方だろう‥‥戦争がないだけまだマシだ。
戦時中なら、それこそ何日も戦い続けて水すらないかもしれないだろ?」
リリィベルは悲しい顔をした。
「‥‥そうですね‥‥」
テオドールはそんなリリィベルに微笑んだ。
「国を守る為だ。そのために騎士になった。
実際似た様な訓練だってしているし‥そんなにお前が気にすることじゃないぞ?」
「でも‥‥やっぱり‥‥」
「‥‥‥‥‥」
分かってるよ‥‥
俺だって‥‥平和な国の人生を終えて、この世界線に産まれた‥‥。
だからこそ‥‥命を大事にしなければいけないと思う‥‥。
「‥‥俺と陛下は、この国を戦火の海にする事はしないと、
常々思ってるさ‥‥。大丈夫だ‥‥。」
ぎゅっと抱きしめてやると、リリィベルは微笑んだ。
「はい‥‥あなたを信じます‥‥」
「あぁ‥‥そうしてくれ‥‥」
2人の朝の甘いひと時は、扉をノックする音で終わりとなった。
【殿下、リリィベル様‥‥起床のお時間で御座います。】
声の主はフランクだ。
「あぁ、わかった。カタリナも一緒か?」
【はい。】
「ではカタリナを入れてくれ」
そう言うと、カタリナが扉を開けて入って来た。
「おはようございます。皇太子殿下、リリィベル様。」
「あぁ、リリィベルの支度を。」
「はい殿下。」
テオドールはリリィベルの頬にキスをしてベッドから抜け出した。
「おはようカタリナ、今日もよろしくね?」
「もちろんでございます。リリィベル様」
そう言って2人はメイクルームへ向かった。
「フランク、入れ」
リリィベルがメイクルームに行ってからフランクを入れた。
「おはようございます殿下。」
「あぁ。」
ふわっと欠伸を一つした。
「よく眠れましたか?殿下」
「大丈夫だ。それに今日もこの街で滞在するしな。」
「殿下、陛下から返信が届いております。」
フランクが手紙を差し出した。
「んー」
フランクの手紙を手に取り中を読んだ。
クーニッツ伯爵の侯爵位の承諾と、支援金の準備。
罪人ゲイツの拘束が無事に済んでいる事が記されていた。
それを見て満足げにテオドールの口は弧を描いた。
フランクはテオドールの表情に笑みを浮かべた。
「そのご様子だと、滞りなく進んだ様ですね?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「よかったです。あと1時間後には朝食だそうですが、
今朝はお二人でお食事されますか?」
「いや、子供達と一緒でいい、今晩はラナロイアに泊まるから子供達と離れるし、リリィも喜ぶ。」
「承知いたしました。ではお伝えしておきます。」
「頼んだ。」
「はい殿下。」
フランクは部屋を出た。テオドールはまた書類に手を伸ばした。リリィベルの支度の間に片付けておかないと時間が無くなってしまう。
するとまた扉がノックされる音がした。
「?」
「‥‥誰だ?」
普段ならノックと共に名乗るはずなのに何も言わない。
それに、護衛の騎士が立ってるはずなのに‥
けれど、またコンコンと扉は叩かれた。
テオドールは、扉に近づいて開けた。
目線の先には誰もいなかった。
ふと足下に目線を下げる。
「ふっ‥‥2度目だな。そんな予感はしたんだ。」
テオドールは笑った。
ベルと騎士の1人がしゃがみ込んで笑って見上げていた。
「おどろいた??」
嬉しそうなベルがそう言った。
「あ~驚いた。おはようベル?騎士を味方につけたな?
とんだ悪戯天使だな。」
「ふふふふ」
両手で口を押さえてニコニコと笑ったベル。
テオドールはベルの頭を撫でてひょいっと抱き上げた。
「ベルー、昨日はよく眠れたか?」
「うん!お布団気持ちいいの!」
「そうか、良かったなー?良い夢を見られたか?」
「えへへ!雲に乗ったよ?ふわふわ浮いたし!
その雲食べられるの!すっごい甘いんだよ!」
「はははっ‥‥ふわふわ雲の浮いたお風呂に入ったからなー?いい夢だ。」
「王子様もいい夢見た?お姫さまはどこ?ここにいるってきいたのー。」
抱き上げられたおかげで、ベルが高い目線で辺りを見渡す。
「ふっ、お姫さまは今羽を整えてるところだ。
昨日よりもっと綺麗になって現れるぞ?」
優しいテオドールの笑顔にベルも笑顔を浮かべた。
「お姫さまもっとキレイになるのぉ?すごいねぇ?」
「すごいだろぉ?毎日綺麗になるだぞぉ?王子様気を抜いたら食べちゃいたいくらいなんだぞぉ?」
「王子さまお姫さま食べちゃうのぉ??」
ベルが目を丸くして驚いた。
クスクスとテオドールは笑った。子供に口調を合わせて、冗談と本気が混じったそんな事を子供相手に打ち明けた。
「そうなんだよぉ?王子さまお姫さま一飲みで食べれちゃいそうだぞぉ?お前のこの首みたいに細くってかぶり付けそうだぁーー?」
「きゃはっ!あはははっ!」
テオドールはベルの首をくすぐった。無邪気で楽しむ笑い声が部屋に響く。
首からお腹からくすぐってやった。ベルはヘロヘロに笑っていた。テオドールも楽しんでいた。
いつか‥‥‥2人の間に子供が産まれたら‥‥
どんなに愛しいだろうか‥‥
リリィベルと同じ金髪のベルの存在は、妄想を具現化したような存在に思えた。
いつか‥‥‥
いや、きっと‥そう未来は遠くない‥‥
結婚するのだから‥‥
そう‥‥‥‥
メイクルームから出て来たリリィベルとカタリナは、楽しそうに遊んでいるテオドールとベルを見た。
くすぐって遊んだ後は、皇太子がベルを高く抱き上げて
ひょいっと浮かせる。
ずっと笑いながら遊んでる2人を見てリリィベルは微笑んだ。
「気付かない程夢中で遊んでるっ」
「本当ですね?」
カタリナと静かに笑い合った。
「殿下は素敵なお父様になりそうですね!」
「‥‥えぇ。」
リリィベルはテオドールの笑顔がとても愛しくて堪らなかった。
子供をあやす姿を見て、想像を膨らませる。
2人の間にいつか子供が産まれる事を‥‥
「きっと‥‥あんな風に‥‥」
リリィベルは眩しく2人の姿を目に焼き付けた。
胸が苦しかった‥‥‥。泣きそうになっていた‥‥。
なぜか分からないけれど‥‥。
苦しくて‥‥苦しくて‥‥
愛しくて‥‥
「リリィベル様?」
胸を押さえたリリィベルをカタリナが隣で見ていた。
瞳に涙を浮かべながら、テオドールとベルを見つめてた。
「ふふっ‥気が早いわね‥‥。」
リリィベルは、カタリナに涙ながらに微笑んだ。
「リリィベル様‥‥」
「テオと‥子供を‥‥抱きしめたいと‥‥夢を描いたのよ‥
きっと幸せだと思ったら‥‥涙が出ちゃう‥‥」
そう言って、本当に涙をポロポロこぼした。
「ご結婚されたら‥‥現実になりますよ?」
カタリナは少し驚きながらも、笑って見せた。
「うん‥‥っ‥‥そうね‥‥。」
テオドールとベルを見つめて微笑んだ。
カタリナは、そっとハンカチでリリィベルの涙を拭いた。
「ありがとう‥カタリナ。私もっ‥‥2人と遊びたいわっ」
少し赤くなった瞳だけれど、リリィベルは笑った。
「ベルー!」
涙を止めて、嬉しそうにベルの名を呼んだ。
その声に、ベルとテオドールが振り向いた。
そして、微笑んでくれた。
「リリィ!」
「おひめさまー!」
愛する人と、愛らしい子が、笑顔でこちらを見てる。
あぁ‥‥胸が‥‥苦しいわ‥‥‥
でも‥‥幸せな気持ち‥‥‥
「おはよぉー!」
ベルが笑顔で駆け寄ってきてくれる。
両手を広げて、ベルを待った。
飛び込んできてくれた子に夢を描く。
「ベルっ‥‥‥」
また泣きそうだわ‥‥。
でも‥‥なんて‥‥幸せなの‥‥‥。
遠くで、愛しいテオドールが、こちらを幸せそうに見ている。
‥‥‥私は‥‥‥いつか‥‥‥
こんな日を迎えたいと思うと‥‥‥
ただ、泣きたくなるの‥‥‥。
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