上 下
87 / 240

魔王と小魔王

しおりを挟む
22時になる前に、テオドールとリリィベルは城にこっそりもどった。
門を潜ると、2人の髪は元に戻った。

コソコソと皇太子宮に戻り、テオドールは私室を開ける。


「わっ‥」
テオドールは思わず身を引いた。
「いっ‥‥」
テオドールの背に顔をぶつけたリリィベルが顔を抑えた。


テオドールの私室のソファーに、魔王の様に腕を組んで君臨する皇帝。魔王は満面の笑みだった。

「あぁ、遅かったなぁ‥‥‥ダメじゃないか。
こんな遅くまで‥しかも2人きりで‥‥

お前達にはあれだな?引き離されるのが1番嫌だろうな‥‥。


そうしようか?テオドール?」

魔王の微笑みに、テオドールは顔を引き攣らせた。

「ちっ‥父上っ‥‥‥伝言は‥‥?」

「あぁ、聞いたさ‥‥でも遅いんじゃないか?ん?」
「私達はこっ‥幼い子ではありませんよ?」 

「バカ者がぁ~私にしたらお前達はまだ少年少女だ。
ん?その行いこそがな?」

「父上‥」
「皇太子と婚約者が!こんなに遅くまで!」
「お義父様!」
魔王の前に、天使が現れる。

魔王の両手を天使は包み込んだ。

「どうかお許しくださいっ‥広場の噴水に行ってきたのですっ‥」

「ひっ‥広場の‥?」

「はい!お義父とお義母様も行ったことがあると‥
テオ様から聞きました!2人で永遠を誓ってきたのですっ‥」

「あ、あぁー‥うん‥」

「皆様にお守り頂いてる中っ‥勝手な事を致しましたっ‥‥妃教育も途中で抜け出してしまって‥
申し訳ございませんでしたっ‥どうしてもっ永遠をテオ様と誓いたかったのですっ‥お義母様とお義父様の様に末永く一緒にいられる様にっ‥‥‥」

「ん?あっ‥え‥‥永遠‥‥まぁ‥‥うん‥‥」

「それに王都へは1度も行っていない私を思い、テオ様が連れ出してくれたのですっ‥‥どうか‥今回だけ‥‥見逃して頂けませんか‥‥?お義父様‥‥」


「りっ‥‥リリィィィ‥‥」

魔王の顔が、少しずつ浄化されていく‥‥

それを横目でドキドキしながら見ていたテオドールだった。


「んぁぁ~~‥けど‥‥ダニエルからお前を預かっているのだぞ‥?魔術師も‥城以外ではお前を守り切れるか‥

あれは究極の魔術が‥‥」

「テオ様がそばにいてくれて、私は守られておりますっ‥‥
ご存じでしょう?テオ様はお義父様の様にお強い方ですものっ‥‥。」

「あぁぁぁ‥‥‥‥そう‥だけどぉぉ‥‥‥」


魔王に痛恨の一撃、天使の奥義

「お義父様‥‥‥今夜‥‥テオ様のお側を離れなければなりませんか‥‥?」

ほろっと天使から涙が‥


「あぁぁぁ‥‥大丈夫だからぁ‥‥離したりしないから泣かないでくれ‥‥‥リリィ‥」

天使は魔王の浄化に成功した。

「あぁ‥優しいお義父様‥‥ありがとうございます。
大好きです‥‥。」

天使は微笑む。


「‥‥‥‥仕方ない‥‥今回だけだぞ‥‥?
もう少し身の安全が保証出来ないと、私達も心配なんだ。」

「はい、心に刻みます‥。いつもありがとうございます‥

お義父様‥‥。」


天使は安堵の笑みを浮かべて、魔王の手に頬を寄せた。


しかし、魔王は魔王の息子を見る。

〝お前は後で、お仕置きだ‥‥〟

目がそう語るのだ。

魔王の息子は、黙って目を閉じた。



「リリィ、疲れただろ?湯に浸かっておいで?」

皇帝がリリィベルを続き部屋の扉に向かわせた。


あぁ、やめてくれ‥


テオドールは両目を手で隠した。 


「あっ‥‥はい‥‥お義父様‥‥」
リリィベルは戸惑いながらその手に押されて扉の向こうへ消えた。


バタンと閉じたその扉。

魔王は再び目覚める。

ササッ!

魔王の動きに小魔王はソファーを盾に身構える。
「テオドール‥‥お前の天使は行ったぞ‥‥」

「父上‥‥リリィの話を聞いていたのでは?」

「あぁ、聞いたとも‥‥リリィを連れ出したのはお前だ。
お前が罰を受けろ‥‥」

魔王が近付く度に小魔王は家具を盾に隠れた。

「テオ?」
「っ‥‥‥リリィに王都を見せたかっただけですっ」
「昼で終わらせれば良かっただろうが!」

はぁっと小魔王はため息をついた。

「父上‥‥私達の初デートが、こんな最後だなんてあんまりですっ‥‥」
「だからもっと早く帰ればよかろうが!」

「噴水は夜に見るからいいのではありませんか!!
父上だって!!夜行ったんでしょ?!私を責めるつもりですかっ!?」

「‥‥‥そっ‥‥‥」
魔王は怯んだ。

「いつも暗殺者に狙われてこの城から出た事がないリリィを連れ出したのは謝りますっ!私も愚かな真似を致しましたっ!でもどうしても出たかったんです!!
見逃して下さいっ!!」

「‥‥本当に反省してるんだな?」

魔王はまだ疑っている。

「はいっ!!事が片付くまで!大人しくしてますから!
それにハリーに姿を変えて貰いました!

無事に帰ったのですから!もぉお許しください!!

せっかくのデートが台無しです!!
リリィがあんなに言っていたのに!!」


「‥‥‥はぁぁ‥‥‥」

必死で訴える2人の気持ちに、魔王は心を折られた。
深い溜息で、その魔王の仮面を脱ぐ‥‥


「‥‥すいませんでした‥‥」

テオドールは俯いて謝った。

たくさんの事も明るみに出て、本来ならばデートしてる時間はない。

ロスウェル達もずっと働きっぱなしだ‥
皇帝も‥‥。


でも、本来ならば、もっと自由に過ごせたはずだった。

リリィが外に出られないのが不憫だった‥。


皇太后にも睨まれ、暗殺者がくる‥。
妃教育。山ほどの問題がここにある。


「リリィは‥‥絶対私が守りますから‥‥

お許しください‥‥」


今日の出来事は、甘い夢だった‥‥。
後悔したくない‥‥


「‥‥まったく‥‥私も甘いな‥‥‥」
やれやれと溜息をつく父だった。
そして、息子を見て眉を下げた。


「テオ、デートは楽しかったか?」


「‥‥‥はい‥‥‥。とても‥‥夢の様でした‥‥‥。」


暁と礼蘭になった気分と、

この世に産まれた自分達の思いは、

変わらない事を痛いほど感じた‥‥。


「良かった‥‥。無事に帰ってきてくれて、良かったよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

処理中です...