上 下
79 / 240

繰り返してはいけない

しおりを挟む
 翌日の朝、テオドールが先に目を覚ました。
 ぼーっとした頭でも、夢の事ははっきり覚えている。

 テオドールの瞳から一筋涙が流れた。

「・・・・・・」

 この指輪は・・・・その時、渡した指輪だったのか・・・・。

 未来を約束する指輪だった・・・・。


 礼蘭にケガをさせた年の記念日に、あんな事が二度と起きないように・・・。

 相手がいる事が眼に見えて分かるように、この指輪を送ったんだ・・・。

 やっと、この指輪の記憶が戻った・・・。嬉しい・・・・。

 だからこんなに大切だったのか・・・この指輪が・・・・。

 礼蘭との未来を約束した指輪だったから・・・・。

「・・・・・・」
 まだ眠っているリリィベルを見つめて、その額にキスをした。

 これを持って・・・再び俺と出会う為に・・・。
 ずっと一緒にいるために、お前は産まれてきたのか?
 この世界でも、俺との未来を歩みたいと・・・思ってくれたのか・・・・。


 夢は、正に今を映しているようだった。
 俺の行動一つで、礼蘭に危険が及ぶ・・・・。


 繰り返してはいけない・・・・。
 リリィに、傷一つ負わせない・・・。
 俺は・・・このままじゃ、ダメだ・・・・。

 恨みの一つも礼蘭に向かせてはいけない・・・。


 それでも、お前は、俺を愛しているからと・・・笑っていたな・・・。

 俺もお前を愛してるから、守りたい・・・。


 守りたい・・・。

「・・・・ん・・・・・」
 リリィベルがゆっくりと目を覚ました。

「おはよう・・・リリィ・・・・。」
「テオ様・・・・・。」
 場所は違っても、大好きな腕の中、リリィベルは幸せそうに笑みを浮かべた。
「・・・眠れたか?」
「はい・・・テオ様のお側ですから・・・。」
「そうか・・・ならよかった・・・・。」

 抱きしめる以外に、どうしたらこの愛しい存在を守れるだろう・・・。
 この世界に産まれても、きっとするべきことは同じなはずだ・・・。

 俺が、ちゃんとしなくちゃ・・・リリィを守れない・・・。
 愛だけでは守れない。周りをよく見なくては・・・・。

 二度と、繰り返してはいけない・・・・。

「リリィ、昨日は・・・ごめんな。」
「テオ様は、悪くないのですよ・・・?そう言ってくれたではありませんか・・・。
 私たちは・・・」
「あぁ・・・これは、お前を泣かせた事の謝罪だ・・・。」
「え・・・・?」

「俺が皇太子である事・・・もっと、自覚を持つべきだった。
 お前の事になると・・・我慢できなくなる・・・。」

「テオ様は・・・十分立派ですよ・・・。私を全力で守って下さいます・・・。」
「いや・・・まだまだだ・・・。お前が傷つかないように、もっと大人になるから・・・。
 だから、ずっと側に居てくれ・・・。」
「・・・もちろんです・・・。離れません・・・・。」
「あぁ・・・。」

 2人が1つになるぐらいに、抱きしめ合った。
 離れる事のない番(つがい)は今日も、その身で愛を確かめ合う。

 コンコンと扉が叩く音がした。
 ベリーがやってきた。朝の支度と朝食だろう。
 部屋に招き入れて、リリィベルが支度している間、テオドールはソファーに座っていた。

 あの夢を見たのは偶然だったか?

 でもおかげで、大切な事を思い出した。

 朝食後フランクが部屋にやってきた。
「殿下、皇帝陛下がお呼びで御座います。お二人で移動を。」
「あぁ。わかった。リリィベルを部屋まで送ったら陛下の部屋に行く。」
「畏まりました。」

 リリィベルを部屋に送った後、真っ先に皇帝の元へ向かう。
 扉の前にいる従者に声をかけ中に入る。

 皇帝は、机の前に座っていた。その面持ちは昨日と変わらず険しいものだった。
「陛下、昨日は申し訳ございませんでした。」
「・・・その顔は、何か悟ったようだな。」
「愚かな真似を致しました。申し訳ございません。」
 そう言い、皇太子は頭を下げたのだった。
 その様子を見て、皇帝は少し笑みを浮かべた。
「皇后が心配していたが、大丈夫そうだな。」
「・・・・申し訳ありません。」

「顔を上げろ、お前たちが悪いわけではない。だが、お前の言動は火に油を注いだ。」
「理解しております。」
「だが、そんなお前に良い情報だ。」
「はい?」

 皇帝は一つの葉を机の上に置いた。
 それを見た皇太子は首を傾げた。

「・・・これは?」
「これは、お前たちの婚約パーティーでグラスに入っていた毒の原型だ。」
「!!・・・では・・・ロスウェル達が?」
「あぁ、古い図鑑に載っている物で、ロスウェルが具現化したものだ。
 ヘイドン侯爵領地に、この毒草は生えている。少量だが、確かだ。

 そして、この毒草を危険だからと採取し、集めていた薬師がいた。
 その者を昨日捕らえた。今ロスウェルが尋問している。」

「・・・・では・・・・・」
「自分の領地で採れる毒草を使うのは間抜けた話だが、この毒草を知る者は少ない。
 そして、これを人知れず採取している薬師。そして、10年前、当時皇后だった皇太后に盛られた
 毒と一致し、皇太后の治療に当たった医者は亡くなり、これを扱っていたのはその医者の息子。
 元アンフォードの領地にこの毒草はない事も分かって居る。あとは薬師が吐けば。
 繋がるであろうな、ヘイドン侯爵に・・・。そして、皇太后へとな。

 当時皇太子だった私が裁いた皇后毒殺未遂は、皇太后のでっち上げだ。」

「・・・・何故・・・皇太后陛下は・・・・。」
「差し詰め側室を消したかったのだろうな。」
「あ・・・ロスウェルが言っていましたね・・・。前皇帝は、側室を愛していたと。」
「あぁ・・・アドルフにも断られ、皇后になっても側室を持たれ、
 おまけに、私を産んでも、側室との間に子供が出来、自分の子が皇太子の座を揺るがされる。
 愛情はない。殺したいと思ってもおかしくないだろう。現状を見ると・・・・。」

「そうですね・・・・。」
 なんだかとても、悲しい人だ・・・・。

 皇太子は初めて皇太后が哀れだった。している事が非道だが、こんなにも愛がない人間が存在すること。

「とにかく・・・今まで通り、調査を続けて証拠を集める。」
「はい、陛下‥」
「昨日の一件で、ヘイドン侯爵も動くであろう‥」
「申し訳ございません‥」
「元々はあやつらが勝手な悪巧みをしたのだ。お前が謝る事じゃない。」

「ですが‥リリィベルが更に‥」
 テオドールは顔を曇らせる。
「だから、私達は感情を表に出してはならない。」
「はい‥」
「だが、守るんだ。それだけは折れないだろう。」
「言うまでもありません‥」
「お前を信じている‥オリバンダーの件もあるのだ。
 敵は四方から攻めてくるが、己を見失ってはならない」

「‥絶対にリリィは守ります。なんとしても」
その強い意志と、瞳に皇帝は笑みを浮かべた。

「あぁ。期待している。」

泣いていても、嘆いても敵は情けをかけて待ってくれる訳はない。
強くならなければ、大事なものは守れない。

俺は何度も、何度も、昨日よりもっと、強くならなくてはならない。
大事な人に、これ以上傷つけないためにも・・・。

この、指輪に誓って・・・もう一度、愛する人との未来を約束する・・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...