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暁色の皇太子
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あの夜から毎夜、暗殺者達を斬り続けた。
髪が、空が、暁色になっていくまで‥
「テオっ‥‥おまえぇ‥‥‥」
満月から1週間経った朝、わなわなと震え、皇帝はお怒りだった。
「‥‥‥‥‥‥」
皇太子は無言のままだ。
「殿下ぁ?これじゃあ魔王ですよ?」
ロスウェルが、悲しげに言った。
そこは地下牢だった。
「なんだこの大量の死体は!!」
「うちに、寄ってった者です。」
「遊びに来たように言うんじゃない!なぜ黙っていた!?ハリーは?!」
「‥‥寝てると思います。」
「そーゆう事じゃない!!それにその眼!!お前!いつ寝てるんだ!!」
「‥‥本来でしたら今の時間寝てます。」
「クソガキこのおっ」
「ヘイヘイヘイヘイ!陛下!抑えて!!」
汚い口調で詰め寄りそうな皇帝をロスウェルが止めた。
テオドールはまるで殺し屋のような眼をしていた。
目下に隈を作って、眼をギラつかせて、こちらが暗殺者のような眼だ。
「殿下ぁ?今ギルドの場所を洗い出してるんですよ?」
その言葉に皇太子は呟いた。
「まだ、その段階ではありませんか‥」
皇帝は眉を顰めた。
「なんだと?」
ギラリと‥皇太子の眼は鋭くなる
「そうしてるうちにも、暗殺者は毎夜毎夜やってきます‥
だから‥‥依頼した貴族も、今頃知る事でしょう。
私が矢面に立ち、この身でリリィベルを守っているのだと‥
結界の存在を悟られずに‥‥私が暗殺者を斬り捨てているのだと‥‥。
それを知ったらどう思います?
依頼した自分も私に殺されると震える事でしょう‥‥‥。
愚かにも皇太子の婚約者の暗殺を目論んだ事に、後悔し、
自らボロを出してくれる事を待っております。
貴族議会で、この死体の山と一緒にこの事を公にするのです‥‥
婚約者が出来てから、誰かが、皇太子とその婚約者を狙い暗殺者を送り付けていると。動揺を見せた者は、拷問し、1人ずつ殺します‥。ギルドを潰すだけでは足りないのです。
勇気ある貴族達は今度は私兵を送り付けてくるやもしれません。
そして、またその貴族を罰します‥‥
どいつもこいつも‥‥‥皆、この手で殺し」
パァァン!!!!!
高い音を立てて、皇太子の頬は皇帝の手によって打たれた。
「目を覚ませ!!!!」
「俺はこの手で殺したいんだ!!!!!!」
皇帝と皇太子が顔を突き付けて睨み合った。
「婚約してから毎夜‥‥‥‥毎夜ですよ‥‥‥?」
皇太子の眼は怒りで震えていた。
しかし、その眼を見て悲しげな眼をする皇帝だった。
「テオ‥‥‥」
「父上も分かってるでしょ‥‥‥‥?」
「母上に毎夜、暗殺者が送り込まれたら‥どうするのです?」
「私がリリィを抱きしめて、幸せな夢を見る時間に‥‥
あいつらはリリィを殺しにやってくるんです‥‥。
私が眠ってしまったら‥‥‥リリィはどうなるのですか?」
「俺が殺し始めて1週間で、40人にもなる程です‥‥‥
このまま一人一人殺したら、暗殺者は減りませんか?。」
「テオっ‥‥‥」
「分かってます‥ロスウェルや、ハリー達が守ってくれている‥‥リリィの身は安全です‥」
そう言う、皇太子の瞳から涙が一筋流れた。
その涙に皇帝は顔を歪ませた。
「リリィが無事ならそれでいい‥その為の命令です‥
何よりリリィを最優先し‥‥どんな時も守れと‥‥」
「リリィの温もりに安堵し‥‥身体を抱きしめて居られるだけで‥‥私は、この世界で1番幸せでいられます‥
本当です‥‥‥」
「私は、間違った事をしてるつもりはありません‥‥
あんな、私に斬り殺されるような者達に、リリィの命は奪わせません‥‥。絶対です‥。私の妃は、殺させません‥‥。
俺はっ‥‥‥俺はこんな事を始めた奴をこの手で殺してやりたい!!!!!!!」
今にも斬りそうな勢いの皇太子に、皇帝はグッと目力を込め
皇太子を睨み付けた。
「テオドール•アレキサンドライト。お前を謹慎処分とする。ロスウェル•イーブス。皇太子を拘束しろ。今すぐだ!!」
「っっ陛下ぁぁぁぁあああああ!!!!!」
皇太子が狂ったように叫んだ。
その瞬間、ロスウェルの魔術により両手を後ろで拘束された。
「離せっっ!!!!ロスウェル!!はぁなぁせぇぇぇぇ!!!!」
暴れる皇太子を、ロスウェルは悲しげに見つめた。
「リリィベルは、ロスウェル達の手で守られている。
お前はここで、この死体と共に謹慎しろ。
リリィベルには私から視察に出したと伝えておく。
殺したいと言葉にしたお前をこのままにしておく事は出来ない‥‥。ロスウェル、暴れるだろうから、少し眠らせておけ‥‥」
その言葉に皇太子は涙を流した。
「嫌だっ‥‥‥嫌だっっ!!!眠りたくない!!!!
リリィが消える!!!!俺はもう!!!!!
リリィが死ぬのを見たくないんだぁぁぁぁぁ!!!」
叫ぶその身体は、ロスウェルの魔術によって
糸を切られた様に倒れ込んだ。
その姿を見た皇帝は、悔しげに涙を流した。
「すまない‥‥‥テオっっ‥‥すまない‥‥‥
でもっ‥‥お前に殺人鬼の様な真似をさせる訳にはいかない‥‥‥。」
「陛下‥‥殿下をここに置くのは‥‥」
「あぁ‥‥魔塔の謹慎部屋に運んでくれ‥あそこでは手も足も出ない‥‥」
「‥‥‥皇后様には‥?」
「皇后には話しておく‥リリィには伏せておけ。
今、妃教育が始まって大変になるが‥皇后に側にいるように伝えよう‥‥」
「はい、陛下‥‥」
ロスウェルは、気を失った皇太子を連れて魔塔に移動した。
嫌だ‥‥
いくな‥‥‥
俺を置いて‥‥どこに行くんだ‥‥‥
ずっと一緒だと‥‥‥言ったじゃないか‥‥‥
どうして、俺を‥‥連れて行かないんだ‥‥‥
「うっ‥‥‥‥っ‥‥」
テオドールは、ゆっくりとその眼を開いた。
手が動かない‥‥‥
テオドールは、一点の光が差し込む鉄格子扉の狭い部屋に居た。
「ここ‥は‥‥‥」
横たわったまま、あたりを見渡した。
あぁ、そうだった‥‥
父上に‥ロスウェルによって、俺は‥‥‥
「‥‥‥なぜ‥‥‥っ‥‥‥なぜっ‥‥
殺しては‥‥ダメなのですか‥‥‥‥
リリィがっ‥‥殺されてしまう前にっ‥‥‥
殺して‥なぜっっ‥‥ダメなのですか‥‥‥」
瞳から涙がたくさん流れた。
ここがどこかも、今何時なのかもわからない‥‥‥
リリィは‥‥?
俺のリリィはどこだ‥‥‥?
「っっっぁぁぁああああああ!!!!!!」
訳もわからずただこの感情を吐き出した。
リリィ‥
リリィ‥‥
リリィ!!!!!
「お目覚めですか‥殿下‥」
部屋の中、光の様にロスウェルは現れた。
「ロス‥ウェル‥‥‥」
涙で、顔中が濡れていた。
止まらないんだ‥‥
「ロスウェルっっ‥‥‥」
泣きながら、その名を呼んだ。
「‥‥リリィは‥‥無事かっ‥‥?」
大粒の涙が溢れる。
そんなテオドールにロスウェルは、少しだけ瞳を濡らした。
「もちろんです‥‥大丈夫ですよ‥?リリィベル様は、皇后陛下とご一緒です‥‥」
その言葉に、テオドールは‥‥歪ませて居た顔に笑顔を浮かべて涙を流した。
「‥‥‥よかっ‥た‥‥‥‥」
「‥殿下‥‥どうか、安心してください‥‥‥」
テオドールが拘束されてから、既に3日もの間テオドールは眠っていた。それはまだ秘密だ。
皇帝はその後、騎士団を総動員し、1つのギルドを制圧した。その場にいた者、そのギルドに属する者ども。
全てを拘束した。
皇帝の怒りは頂点に達していた。
愛する息子が、愛する者の為に自ら手を尽くし毎夜その恐怖に打ちのめされ、剣を奮っていた事‥‥
血にまみれ‥愛する人を支えに心を保ち戦って居た事。
だが、戦でもない帝国の城で、暗殺者を斬り捨てる姿が世に晒されれば、次代に疑念を持たれ兼ねない。
ただ、返り撃っただけと済む話であったが、
それ以上、殺しをしてほしくなかった。
殺人鬼の様な眼を、させたくなかった。
それが、正義で制する行いではないと。分かって欲しかった。
正しく暴き、隙を見せずに悪を罰する。
テオドールの気持ちは痛いほど分かって居た。
もし、自分の妃に同じ事をされたら、
同じ様にしたかもしれない‥‥‥
だから、止めてくれる存在が必要なのだ。
一つでもその心が軽くなる様に‥‥‥
自分は、できる限りをするのだと、心に誓って居た。
「殿下、リリィベル様のご様子をご覧になりますか?」
「‥‥?‥‥」
横たわったままの、虚ろな眼で涙を流すテオドールはその言葉を訳もわからず聞いていた。
ロスウェルは水晶玉をテオドールの側に置き、
その姿を映し出したのだった。
「‥‥‥‥リリィ」
テオドールが泣きながら笑う。
水晶玉の中で、リリィベルが真剣に教育を受け励む姿。
本を前に、小さな唇で話す愛する人を‥‥
まさに、天使を見ている様だった。
水晶玉のリリィが揺れる‥
それはテオドールの瞳が涙でいっぱいだからだ‥‥
「‥‥‥リリィ‥‥っ‥‥リリィ‥‥‥」
眼を閉じた。悔しかった。
側にいられない事が‥‥
何時間もその水晶玉を眺めていた。
消えては、現れ、消えては、現れる‥
見逃さないように、ずっと‥‥‥
夜になったのか、リリィベルは皇后の部屋で共にベッドに入ったのだった。
〝お義母様‥‥〟
〝なぁに?リリィ〟
〝テオ様は‥いつ帰ってくるのですか‥?〟
〝リリィ‥〟
〝テオ様‥視察に出る前にはお会い出来ませんでしたっ‥‥
ずっと‥お疲れなお顔をされていたのに‥っ‥
私には大丈夫だと‥心配するなと‥おっしゃって‥‥
ずっと訳も話して下さらなくてっ‥‥‥
そのままずっとお会い出来ず‥‥‥っうっ‥‥〟
〝‥リリィ‥泣かないで‥〟
〝テオ様にお会いしたいです‥‥‥うぅぅっ‥‥
抱き締めて欲しいです‥っ‥‥‥側に‥居て欲しい‥‥
ずっと苦しそうでした‥っ‥私は何も出来ず‥‥
今、お顔を見る事も、出来ず‥‥‥
そんな中、お仕事でいなくなって、お身体が心配なのです‥‥っっ‥‥いいぇっ‥私がっ‥‥側に居たいだけなのです‥‥‥私はっっ‥‥我儘でっっ‥‥‥お仕事なのにっ‥‥
早く抱き締めて欲しいのですっ‥‥‥〟
「っ‥‥‥ごめっ‥‥っっ‥」
テオドールはまた涙を流した。
リリィベルが、泣いている‥‥
今すぐ、抱き締めたい‥‥
側にいると‥‥離れないと誓ったのに‥
だけど‥お前を失うのが怖かったんだ‥‥
お前が大事すぎて‥‥壊れそうだ‥‥
抱き締めても、不安で仕方がないんだ‥‥
だから剣を取った‥‥
自由に‥‥お前を愛したくて‥‥‥
お前だけを見ていたくて‥‥‥
「リリィ‥‥泣かないでくれ‥っ‥お願いだ‥‥‥
俺のいない所で‥‥泣かないでっ‥‥‥」
見ていられず、ぎゅっと瞳を閉じた。
泣きすぎた皇太子の涙に暁色が混ざって流れる
違う。俺が悪かった‥‥‥
俺が臆病だから‥‥‥
怖くて、怖くて‥‥
壊れてしまいそうだった‥‥
「愛してる‥‥愛してるよ‥‥‥」
瞳を閉じて、呟いた。
髪が、空が、暁色になっていくまで‥
「テオっ‥‥おまえぇ‥‥‥」
満月から1週間経った朝、わなわなと震え、皇帝はお怒りだった。
「‥‥‥‥‥‥」
皇太子は無言のままだ。
「殿下ぁ?これじゃあ魔王ですよ?」
ロスウェルが、悲しげに言った。
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「‥‥寝てると思います。」
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「ヘイヘイヘイヘイ!陛下!抑えて!!」
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テオドールはまるで殺し屋のような眼をしていた。
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「まだ、その段階ではありませんか‥」
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「なんだと?」
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「そうしてるうちにも、暗殺者は毎夜毎夜やってきます‥
だから‥‥依頼した貴族も、今頃知る事でしょう。
私が矢面に立ち、この身でリリィベルを守っているのだと‥
結界の存在を悟られずに‥‥私が暗殺者を斬り捨てているのだと‥‥。
それを知ったらどう思います?
依頼した自分も私に殺されると震える事でしょう‥‥‥。
愚かにも皇太子の婚約者の暗殺を目論んだ事に、後悔し、
自らボロを出してくれる事を待っております。
貴族議会で、この死体の山と一緒にこの事を公にするのです‥‥
婚約者が出来てから、誰かが、皇太子とその婚約者を狙い暗殺者を送り付けていると。動揺を見せた者は、拷問し、1人ずつ殺します‥。ギルドを潰すだけでは足りないのです。
勇気ある貴族達は今度は私兵を送り付けてくるやもしれません。
そして、またその貴族を罰します‥‥
どいつもこいつも‥‥‥皆、この手で殺し」
パァァン!!!!!
高い音を立てて、皇太子の頬は皇帝の手によって打たれた。
「目を覚ませ!!!!」
「俺はこの手で殺したいんだ!!!!!!」
皇帝と皇太子が顔を突き付けて睨み合った。
「婚約してから毎夜‥‥‥‥毎夜ですよ‥‥‥?」
皇太子の眼は怒りで震えていた。
しかし、その眼を見て悲しげな眼をする皇帝だった。
「テオ‥‥‥」
「父上も分かってるでしょ‥‥‥‥?」
「母上に毎夜、暗殺者が送り込まれたら‥どうするのです?」
「私がリリィを抱きしめて、幸せな夢を見る時間に‥‥
あいつらはリリィを殺しにやってくるんです‥‥。
私が眠ってしまったら‥‥‥リリィはどうなるのですか?」
「俺が殺し始めて1週間で、40人にもなる程です‥‥‥
このまま一人一人殺したら、暗殺者は減りませんか?。」
「テオっ‥‥‥」
「分かってます‥ロスウェルや、ハリー達が守ってくれている‥‥リリィの身は安全です‥」
そう言う、皇太子の瞳から涙が一筋流れた。
その涙に皇帝は顔を歪ませた。
「リリィが無事ならそれでいい‥その為の命令です‥
何よりリリィを最優先し‥‥どんな時も守れと‥‥」
「リリィの温もりに安堵し‥‥身体を抱きしめて居られるだけで‥‥私は、この世界で1番幸せでいられます‥
本当です‥‥‥」
「私は、間違った事をしてるつもりはありません‥‥
あんな、私に斬り殺されるような者達に、リリィの命は奪わせません‥‥。絶対です‥。私の妃は、殺させません‥‥。
俺はっ‥‥‥俺はこんな事を始めた奴をこの手で殺してやりたい!!!!!!!」
今にも斬りそうな勢いの皇太子に、皇帝はグッと目力を込め
皇太子を睨み付けた。
「テオドール•アレキサンドライト。お前を謹慎処分とする。ロスウェル•イーブス。皇太子を拘束しろ。今すぐだ!!」
「っっ陛下ぁぁぁぁあああああ!!!!!」
皇太子が狂ったように叫んだ。
その瞬間、ロスウェルの魔術により両手を後ろで拘束された。
「離せっっ!!!!ロスウェル!!はぁなぁせぇぇぇぇ!!!!」
暴れる皇太子を、ロスウェルは悲しげに見つめた。
「リリィベルは、ロスウェル達の手で守られている。
お前はここで、この死体と共に謹慎しろ。
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殺したいと言葉にしたお前をこのままにしておく事は出来ない‥‥。ロスウェル、暴れるだろうから、少し眠らせておけ‥‥」
その言葉に皇太子は涙を流した。
「嫌だっ‥‥‥嫌だっっ!!!眠りたくない!!!!
リリィが消える!!!!俺はもう!!!!!
リリィが死ぬのを見たくないんだぁぁぁぁぁ!!!」
叫ぶその身体は、ロスウェルの魔術によって
糸を切られた様に倒れ込んだ。
その姿を見た皇帝は、悔しげに涙を流した。
「すまない‥‥‥テオっっ‥‥すまない‥‥‥
でもっ‥‥お前に殺人鬼の様な真似をさせる訳にはいかない‥‥‥。」
「陛下‥‥殿下をここに置くのは‥‥」
「あぁ‥‥魔塔の謹慎部屋に運んでくれ‥あそこでは手も足も出ない‥‥」
「‥‥‥皇后様には‥?」
「皇后には話しておく‥リリィには伏せておけ。
今、妃教育が始まって大変になるが‥皇后に側にいるように伝えよう‥‥」
「はい、陛下‥‥」
ロスウェルは、気を失った皇太子を連れて魔塔に移動した。
嫌だ‥‥
いくな‥‥‥
俺を置いて‥‥どこに行くんだ‥‥‥
ずっと一緒だと‥‥‥言ったじゃないか‥‥‥
どうして、俺を‥‥連れて行かないんだ‥‥‥
「うっ‥‥‥‥っ‥‥」
テオドールは、ゆっくりとその眼を開いた。
手が動かない‥‥‥
テオドールは、一点の光が差し込む鉄格子扉の狭い部屋に居た。
「ここ‥は‥‥‥」
横たわったまま、あたりを見渡した。
あぁ、そうだった‥‥
父上に‥ロスウェルによって、俺は‥‥‥
「‥‥‥なぜ‥‥‥っ‥‥‥なぜっ‥‥
殺しては‥‥ダメなのですか‥‥‥‥
リリィがっ‥‥殺されてしまう前にっ‥‥‥
殺して‥なぜっっ‥‥ダメなのですか‥‥‥」
瞳から涙がたくさん流れた。
ここがどこかも、今何時なのかもわからない‥‥‥
リリィは‥‥?
俺のリリィはどこだ‥‥‥?
「っっっぁぁぁああああああ!!!!!!」
訳もわからずただこの感情を吐き出した。
リリィ‥
リリィ‥‥
リリィ!!!!!
「お目覚めですか‥殿下‥」
部屋の中、光の様にロスウェルは現れた。
「ロス‥ウェル‥‥‥」
涙で、顔中が濡れていた。
止まらないんだ‥‥
「ロスウェルっっ‥‥‥」
泣きながら、その名を呼んだ。
「‥‥リリィは‥‥無事かっ‥‥?」
大粒の涙が溢れる。
そんなテオドールにロスウェルは、少しだけ瞳を濡らした。
「もちろんです‥‥大丈夫ですよ‥?リリィベル様は、皇后陛下とご一緒です‥‥」
その言葉に、テオドールは‥‥歪ませて居た顔に笑顔を浮かべて涙を流した。
「‥‥‥よかっ‥た‥‥‥‥」
「‥殿下‥‥どうか、安心してください‥‥‥」
テオドールが拘束されてから、既に3日もの間テオドールは眠っていた。それはまだ秘密だ。
皇帝はその後、騎士団を総動員し、1つのギルドを制圧した。その場にいた者、そのギルドに属する者ども。
全てを拘束した。
皇帝の怒りは頂点に達していた。
愛する息子が、愛する者の為に自ら手を尽くし毎夜その恐怖に打ちのめされ、剣を奮っていた事‥‥
血にまみれ‥愛する人を支えに心を保ち戦って居た事。
だが、戦でもない帝国の城で、暗殺者を斬り捨てる姿が世に晒されれば、次代に疑念を持たれ兼ねない。
ただ、返り撃っただけと済む話であったが、
それ以上、殺しをしてほしくなかった。
殺人鬼の様な眼を、させたくなかった。
それが、正義で制する行いではないと。分かって欲しかった。
正しく暴き、隙を見せずに悪を罰する。
テオドールの気持ちは痛いほど分かって居た。
もし、自分の妃に同じ事をされたら、
同じ様にしたかもしれない‥‥‥
だから、止めてくれる存在が必要なのだ。
一つでもその心が軽くなる様に‥‥‥
自分は、できる限りをするのだと、心に誓って居た。
「殿下、リリィベル様のご様子をご覧になりますか?」
「‥‥?‥‥」
横たわったままの、虚ろな眼で涙を流すテオドールはその言葉を訳もわからず聞いていた。
ロスウェルは水晶玉をテオドールの側に置き、
その姿を映し出したのだった。
「‥‥‥‥リリィ」
テオドールが泣きながら笑う。
水晶玉の中で、リリィベルが真剣に教育を受け励む姿。
本を前に、小さな唇で話す愛する人を‥‥
まさに、天使を見ている様だった。
水晶玉のリリィが揺れる‥
それはテオドールの瞳が涙でいっぱいだからだ‥‥
「‥‥‥リリィ‥‥っ‥‥リリィ‥‥‥」
眼を閉じた。悔しかった。
側にいられない事が‥‥
何時間もその水晶玉を眺めていた。
消えては、現れ、消えては、現れる‥
見逃さないように、ずっと‥‥‥
夜になったのか、リリィベルは皇后の部屋で共にベッドに入ったのだった。
〝お義母様‥‥〟
〝なぁに?リリィ〟
〝テオ様は‥いつ帰ってくるのですか‥?〟
〝リリィ‥〟
〝テオ様‥視察に出る前にはお会い出来ませんでしたっ‥‥
ずっと‥お疲れなお顔をされていたのに‥っ‥
私には大丈夫だと‥心配するなと‥おっしゃって‥‥
ずっと訳も話して下さらなくてっ‥‥‥
そのままずっとお会い出来ず‥‥‥っうっ‥‥〟
〝‥リリィ‥泣かないで‥〟
〝テオ様にお会いしたいです‥‥‥うぅぅっ‥‥
抱き締めて欲しいです‥っ‥‥‥側に‥居て欲しい‥‥
ずっと苦しそうでした‥っ‥私は何も出来ず‥‥
今、お顔を見る事も、出来ず‥‥‥
そんな中、お仕事でいなくなって、お身体が心配なのです‥‥っっ‥‥いいぇっ‥私がっ‥‥側に居たいだけなのです‥‥‥私はっっ‥‥我儘でっっ‥‥‥お仕事なのにっ‥‥
早く抱き締めて欲しいのですっ‥‥‥〟
「っ‥‥‥ごめっ‥‥っっ‥」
テオドールはまた涙を流した。
リリィベルが、泣いている‥‥
今すぐ、抱き締めたい‥‥
側にいると‥‥離れないと誓ったのに‥
だけど‥お前を失うのが怖かったんだ‥‥
お前が大事すぎて‥‥壊れそうだ‥‥
抱き締めても、不安で仕方がないんだ‥‥
だから剣を取った‥‥
自由に‥‥お前を愛したくて‥‥‥
お前だけを見ていたくて‥‥‥
「リリィ‥‥泣かないでくれ‥っ‥お願いだ‥‥‥
俺のいない所で‥‥泣かないでっ‥‥‥」
見ていられず、ぎゅっと瞳を閉じた。
泣きすぎた皇太子の涙に暁色が混ざって流れる
違う。俺が悪かった‥‥‥
俺が臆病だから‥‥‥
怖くて、怖くて‥‥
壊れてしまいそうだった‥‥
「愛してる‥‥愛してるよ‥‥‥」
瞳を閉じて、呟いた。
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順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
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